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インドとまさか

インドは私が最も数多く訪れたことのある国だ。長い時には一カ月近く、短ければ数日間、二十年間にわたり、NGO活動を通じて訪れてきた。

そんな縁深いインドに夫が赴任となり、二〇一九年十二月に引っ越した。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、二〇年三月に告知から四時間後に突然の全国ロックダウン。テレビでは警察が厳しく取り締まり、バイクに乗っている人を棒でたたくなどの映像が流れる。実際にドライバーが警察が怖くて家から出られず、また、許可のある車両しか道路を通れないため、買い出しにいけない。オンラインショップには注文が殺到し、注文したものが届かない。水や食料の確保が最重要ミッションとなった数週間を過ごした。

そんな経験を経てスーツケース五個で緊急帰国した昨年四月から一年がたつ。数カ月したら戻るつもりの仮住まいが、家財道具一切を残してきたインドの家よりも馴染んでしまった。

人生には、「のぼり坂、くだり坂、ま坂」があるという。新型コロナの感染拡大は世界中の人にとって「まさか」であった。私も、まさに、まさかの最中である。インドは一日の新規感染者数が四十万人を超え、世界最多を更新中だ。連日、「病院に入れない」「酸素がない」など、悲痛な叫びが耳に入る。インドのみなさん、どうかご無事で。早い終息を祈る

NPO「ACE」代表 岩附 由香

(2021年5月11日の東京新聞・中日新聞夕刊コラム「紙つぶて」に掲載)

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