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ガラスの下駄


数年前に参加したダイバーシティー(多様性)に関するシンポジウムでのこと。女性役員が少ないと指摘される日本企業が多い中、社内で「女性役員を増やそう」と動くと「女性に下駄を履かせるのかと言われます。どうしたらいいですか」という質問があった。これに対するパネリストの答えに膝を打った。「簡単です。男性の履いている下駄を脱いでもらえばいいのです」。企業、政府の要職を歴任してきた男性の発言だった。

その後、医大の入試で女性は減点され、その分、男性を合格させていたことが発覚した。まさかこんなあからさまな下駄履かせがあったとは。実はこのような差別が見えないところで、たくさん起きているのではないか、と心配になる。

実際、多くの男性は自分の履いている下駄に無自覚だ。いわゆる「オールドボーイズクラブ」もこの一つ。男性同士の非公式なつながりの中で機会の提供や意思決定が行われ、そのネットワークに属さない女性が機会を逃すことを言う。五輪組織委員会の前会長の辞任を一時引き留めたのは、まさにこれだ。透明で見えない「ガラスの下駄」なので、履かせ合っていることにも気づかない。

機会は人を成長させる。機会が女性に少ないと、それだけ能力を伸ばすチャンスを失う。だから目を凝らして足元を見てほしい。ガラスの下駄、履いていませんか。

NPO「ACE」代表 岩附由香

(2021年3月2日の東京新聞・中日新聞夕刊コラム「紙つぶて」に掲載)

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