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#32 雪隠と留学 [第3部 スペイン編] ep.XVI「香水と憐れみ」

 楽しいことばかりじゃないのが留学だ。

残念なことではあるが、これも大事な学びだ。毎週月曜にスペイン広場の近くのクラブでF**king Mondayというイベントがあり、入場料が無料になる。となれば毎週月曜は誰かしらからお誘いが来る。できるだけ誘いは断らないようにしているので良くも悪くも出席率は高かった。このイベントではまずサルサバチャータという二種類のダンスのレクチャーから始まる。どちらもペアで踊るものなので場合によっては近くの知らない人と組むことも珍しくない。たまたまこの日組んだ相手は南米のどこか出身の褐色で背の低い女の子だった。手を組んだところまでは良かった。というかそこまでしか良くなかった。とんでもなく香水が強いのだ。英語で言うとperfumeで、スペイン語で言えばperfumeだ。これがかなりきつかった。もう、クラッとくるやつ。もちろん悪い意味で。これに近いものを何年か前にも味わったことがある。そうだ、高校入学前に制服の採寸にデパートに行った時だ。あの店員もきつかっただ今回は密着度が違う。視界がぼやける。顔に書いてあるSOSを必死に胸ポケットにしまう。既に香水の魔の手に落ちている胸ポケットに。いつもはこのレクチャーが終わったら友達と何杯か飲んでから帰ることが多かったが、今回は体調不良と言っても誰にも怒られないくらい具合が悪くなった。憐れみの視線を女友達に貰って帰宅。もはや日課になっていたインスタグラムの投稿に自分の不甲斐なさやるせなさを発散すべく書き散らかした。自分の感情丸出しの投稿は格好良くないとわかっていたが、やらずにはいられなかった。せめてもの恥かくしで自分の知ってる言語を織り交ぜてできるだけ他人に理解されないような文章にした。要約すると「勉強しにスペインに来てるのにクラブ言って香水で具合悪くなって帰るなんて一体何をやっているんだ。残りの七ヶ月は後悔のない留学にしよう」といったところだ。

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次回予告『雪隠と留学 [第3部 スペイン編] ep.XVII「ドン・キホーテ」』

現在、海外の大学院に通っています。是非、よろしくお願いします。