こんな夢をみてきた

 私は昔から二種類の夢をよくみてきた。一つはビルから落ちる夢。もう一つはモンスターに追いかけられる夢。モンスターに追いかけられる夢の方は分かりやすいだろう。なにか現実的に不安なことがあるとこの夢は現れた。そしてモンスターに捕まりそうになると、目が覚めるというのがお決まりのパターンだった。大抵テストの前や何か緊張する場面に遭遇すると夢の中でも苦しむことになるのである。

 一方ビルから落ちる夢というのはどういうものか。それは怖い夢なのかというとむしろ逆だった。夢のはじまりはこうだ。私はどこかのビルの屋上に立っている。とても高いビルに。辺りがうっすらしているので、時間はおそらく夕方から夜にかけてだろう。私は屋上のヘリにたって、そこから「えいや」と飛び降りるのだ。誰かに突き落されるのではなく、自ら進んで飛び降りるのがこの夢のおかしなところである。ものすごい勢いで下へ下へと落ちるのだが、ビルが高すぎるせいか底の方はいつまでたっても見えない。そして恐怖は全くない。これは夢であるという意識が少なからず残っているからである。ビルは明りでキラキラしていて(ビルは一棟ではなく、何棟かが連なっていて私は囲まれた状態にある)、それを眺めながら私はひたすら落ちていくのだ。着ているパジャマをはためかせながら。そしてその落ちている最中に目が覚めるのである。目覚めるともっと夢の中にいたかったと思うぐらいに不思議と楽しい夢だった。この夢は中高時代に最もよく現れた。そして時がたつにつれこのビルの夢はあまりみないようになっていった。

 ある時この夢がどういう夢なのか気になり夢占いの本で調べてみた。そこにはこう書かれていた。落ちる夢の基本的な意味は凶夢です。夢の中で飛び降りることはストレスの蓄積や心のバランスを欠いた状態の象徴です。そして、飛び降りて落ちる夢はあなたが仕事や学業でストレスをため込み、心のバランスが崩れて心の病に陥りかけていることを暗示しています、と。やはり落ちる夢などというのは良い夢であるはずがなかったのだ。ビルの夢をみなくなったのは、変な緊張状態から解放されたからだろうか。しかしビルの夢のかわりに私は新たな夢をよくみるようになった。地震の夢である。この夢は母親との関係が完璧に壊れた時からよく現れるようになった。夢の中では地面が揺れていて私は何とか逃げようとするのだが、金縛りみたいに体が動かないのである。夢から覚めてもまだ地面が揺れているようで、夢と現実の区別がつかない状態がしばらく続いた。とても怖くてこの夢が現れだした頃から私はよく眠れなくなってしまった。しかしこの夢もある時を境にあまりみなくなった。状態が良くなったというよりもある種の開き直りというか、恐怖をも通り越してしまったのではないかと私は感じた。

 現在の私はどういう夢をみているのか。相変わらずテストやレポートに追われる夢もたびたびみる。もう学校を卒業して随分時間がたつのに未だにこのような夢を見るのは誠に不思議なことである。それだけ学生生活が辛く苦しかったということだろうか。そのような夢に加え、最近何故か昔の懐かしい友人たちの夢もよくみる。夢の中で友人たちは元気そうにしており、私は彼らとの会話を楽しむのである。思うに私自身の時がとまっていて、過去のことばかりに執着している心の現れなのではないだろうか。夢の世界は実に正直である。

 あるショックな出来事を体験した時、お寺が火事になる夢をみた。三島由紀夫の小説『金閣寺』の終わりのくだりみたいだなと思った。

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