キャッシュレス

キャッシュレス時代の管理術 ~お金の上手な記録の仕方(エクセル付き)~

1. キャッシュレスの管理って難しくない?

みなさんは日々の支払を何でおこなっているだろうか?

現金、銀行振込、クレジットカード、交通系ICカード、電子マネー、QRコード決済、バーコード決済など、現代には多くの支払い手段がある。

これらの支払方法で最も管理するときに大変なのが、支払タイミングの違いを考慮することではないだろうか。
事前にチャージしてから支払う方法や、即時払い、クレジットカードなどの後払いがあり、支払い手段を複数持つと、その全ての支払タイミングと金額を管理しなければならなくなる。

これらの決済ツール、便利だからという理由でいろいろ使っていたら、気づけば赤字なんていう人いないだろうか?

私は何回か危ない目にあっている(笑)

ところで、実は会社の入金や支払業務はもっと面倒くさいことことをご存じだろうか?

通常、会社の得意先や仕入先も複数あるし、それぞれ入金するタイミングも支払うタイミングも違う。さらに銀行からの借入や、設備投資、納税もあり、これが毎日毎日繰り返される。これらを正確に管理しなければならないのだ。

実はこの複雑な管理を可能にするために会計学というのは存在している。そして、会計学は、13世紀に誕生して以来変わることのない、ある仕組みを前提のもとに進化してきた。

しかも、その仕組みは13世紀に誕生して以来変わっていないのだ。13世紀といえば、日本でいえば鎌倉時代だ。そんな昔からずっと同じものを使い続けて、世界の経済は進歩してきたのだ。信じられるだろうか?

断言しよう、この仕組みを使えばキャッシュレス時代の家計管理など余裕でラクになる。

最初はとっつきにくい考え方かもしれないが、一度身に着けてしまえば将来ずっと使えるはずだ。なぜなら、企業会計では当然のように使われている仕組みだからだ。

一方で現代のビジネスマンに会計知識は必須のはずなのに、誰も勉強しないし勉強しようとしない。とてももったいないことだと思う。

しかし、キャッシュレスを通してこの仕組みをマスターすれば、家計の管理もうまくいき、ビジネスマンとしての教養も身に着けることができるのだ。

是非、この機会に知ってもらいたい。

2. 複式簿記というすごい発明品

では、その仕組みとは何か。それは、「複式簿記」というものである。

例えば、スーパーで食材を1万円ほど現金で購入した場合、皆さんは家計簿にどうやって記録するだろうか

食費 1万円

と記帳する方がほとんどではないか。

このように、項目と金額を1組の組み合わせで記帳する方法を単式簿記という。

複式簿記とは、この組み合わせをもう1つ増やすのだ。

先ほどの例でいくとこうなる。

食費 1万円 / 現金 1万円

これは、食費の1万円を現金1万円で支払った、ということを意味する。

例えば交通系ICカードに現金で1万円チャージした場合は

SUICA 1万円 / 現金 1万円

となる。少しイメージ出来ていただけただろうか。

単式簿記と複式簿記の一番の違いは、項目と金額の組み合わせの数なのだ。これは、取引には登場する項目が必ず2つ以上存在するということであり、これを意識することが複式簿記の最大の特徴である。

食費の例でいえば、1万円の現金支出と食費の増加を同時に記帳する

この「食費 1万円 / 現金 1万円」という項目と金額の組み合わせで記帳したものを仕訳と呼ぶのだが、この仕訳をしたのがいわゆる決算書(財務諸表)と呼ばれるものである。

この仕訳には1つだけルールがある。

それは、どういうときに左側(借方と呼ぶ)と右側(貸方と呼ぶ)に記帳をするのかということである。

食費や交通費、家賃などの費用が発生した時は左側(借方)に、給料や副業収入などの収益が発生した時は右側(貸方)に記帳をする。

また、現金やSUICA残高などの資産が増えたときは左側(借方)に、資産が減った時や自動車や住宅ローンなどの負債が増えたときは右側(貸方)に記帳をするというものである。

たったこれだけだ。

そして仕訳を集計して作成した財務諸表は3種類作成できる。損益を示す損益計算書(PL)と資産状況をしめす貸借対照表(BS)、現金収支がわかるキャッシュフロー計算書だ(CS)だ。

損益計算書で最も大事なのが、収入から費用を差し引いた後に残る「利益」。家計簿なら給料から生活費を引いたものである。仮にすべて現金でお金を受け取ったり支払っていたら手元に残るのはこの利益の額になる。

損益計算書によって給料に対して、支出項目が多すぎないかどうかを判断することが可能となる。

貸借対照表で最も大事なのが、資産から負債を差し引いた「純資産」。純資産があればあるほど安全と言える。例えば株式投資などの投資資産や住宅ローンで購入した家や土地、銀行からのローン残高もこの貸借対照表でまとめて管理することになる。

キャッシュフロー計算書は、その名の通り現金(キャッシュ)の動き(フロー)に着目した財務諸表である。キャッシュレス決済により複雑になった現金や預金の収入と支出だけにフォーカスしている。

世の中の会社は全てこの財務諸表が作成しているが、利益や純資産、キャッシュフローにはそれぞれの指標には特徴があり、その特徴を活かして利用されている。

会社のように複雑な取引をたくさん行っていると1つの指標だけでは管理が難しいのだ。そして、それは会社でも個人でも同じことであり、それぞれの特徴を理解して使い分けることが、キャッシュレスの時代には求められるのだ。

3. 家計と資産形成、ローンをまとめて管理

住宅ローンで家を購入した人や、投資による資産形成をしている人も多いだろう。このような方々にはますます複式簿記による管理をお勧めしたい。

普段の家計の収支以外にも、意外と支出はあると思うが、これが別の資産になっている場合、別々に管理していたり、頭の中で別物と考えている人はいないだろうか。確かに、投資と家計収支は別物だが、財布は一つなのだから、まとめて管理した方が効率的だ。そのような時役に立つのが複式簿記なのだ

複式簿記によって作成される、貸借対照表では資産と負債の状況を示してくれるが、同時に短期的な資産と長期的な資産を管理している。例えば住宅ローンや積立NISA、IDECOのような資産は長期的に考える必要があるが、これを現金や普通預金と同じ資産と考えるのはナンセンスだし、実際分ける必要がある。

また貸借対照表の資産残高と損益計算書による運用収益を組み合わせることによって、自身の投資による運用利回りなども管理できるようになる

貸借対照表では資産形成や住宅ローンの管理をする時に、とても便利なのである

4. 自分に合う指標を一つ決めて継続して管理

とは言いつつも、面倒くさいという人は多いだろう。その気持ちもよくわかる。

では、なぜこの話を紹介したのかというと、複式簿記の考え方は非常に非常に役に立つからだ。

例えば、12月は忘年会続きで結構使っちゃったな、しかも冬だから暖房代もかさむし、とりあえず今月の生活費はカードで支払っておくか、でも先月買ったクリスマスプレゼントのカードの引き落としが今月あるんだよな、来月もカードの引き落としがなんかあった気がするし。あんまり使うと後々苦しくなりそうだな。そういえばSUICAに少し残高が残っていたな、これも使うか。でもそうするとチャージするための現金が必要になるから、やめておくか。そうすると、うーん、結局あといくら使えるんだ?もうよくわかんないから、やっぱり生活費はカードで払っておくか!

私のあるある思考である。

この場合、どのように整理すればよいのだろうか。飲み会や暖房代などの費用か?それともプレゼント代や飲み会で使うキャッシュフローか?

このようなときに、複式簿記によって今までの収支を整理していると、利益や純資産、キャッシュフローを把握できるので、考えを整理することができる。

例えば、食費や暖房代といった費用の増加が気になる場合は利益に気を付ければよい。暖房代や食費の増加によって今月の給料を超えてしまう場合は、来月以降もピンチは続くので今月から抑える必要がある。家計を全体管理するイメージだ。また、毎月の利益がプラスであればキャッシュフローは気にしなくても現金が不足することはない。

ただ、本当に資金繰りがピンチで直近の状況だけを気にするのであれば、利益ではなくキャッシュフローを気にしたほうがよい。手元にいくら現金があって、さらにクレジットカードの利用額から来月必要な現金が分かると、今月使えるお金の目途もつきやすいだろう。

また、貯金や株式投資のような資産形成を目的とした管理指標なら純資産がいいだろう。利益やキャッシュフローはどちらかといえば短期的な指標だが、純資産には長期的な視点で管理できるメリットがある。

どちらがおすすめということはない。自分にあった方を選べばよいのだ。状況に応じて適切な指標を使えばよいと思うし、必要な情報だけ管理すればよい。全て完璧にこなす必要はない。

多くの人が混乱してしまうのは、利益を意識すべき時にキャッシュフローを考えたり、キャッシュフローで考えるべき時に利益で考えてしまうからなのだ。そうならないように、利益かキャッシュかを区別する必要があって、その整理が複式簿記によって可能となるのだ。

大変だと思われた方も多いと思う。ただ、キャッシュレス決済はやはり管理が大変なのだ。だからこそ、お金ときちんと向き合うためにも複式簿記の考え方は身に着けておくべきなのだ。

また、ビジネスの世界でも複式簿記で考えられる人とそうでない人とでは財務諸表の読み方に大きな差がつく。財務諸表は何もPLだけではない。BSやCSも合わせて総合的に考えてこそ、大きな力を発揮する。

個人的な印象だが、複式簿記で考えることが出来る方は自身の専門分野に加えて会計の知識が組み合わせることができるので、より正確に状況を把握できるため的確な判断をできる方が多いと思う。

また、KDDIの稲森和夫のように著名な経営者の中にも会計の重要性を説く方がいらっしゃるが、著名人の教えにならっても的確な判断を導くというために複式簿記の考え方は重要なことがわかる。

家計簿の管理はアプリでもできると思うが、エクセルやGoogleスプレッドシートなどでも、複式簿記の知識とsumif関数を使うだけで割と簡単にできる。

そして、自分で作成するとビジネスにも役立つ感性を養えるので、自分で作ってみることをお勧めする。最初はとまどうことも多いかもしれないが、ただ、これは仕事にも役に立つ知識なので身に着けておいて損はない。

参考までに、複式簿記で家計簿を作成できるエクセルを作ってみたので、是非ご参考にしていただきたい。


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