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雑誌編集者の新しい職場

雑誌がどんどん売れなくなっている。公益社団法人全国出版協会が運営する「出版科学研究所ONLINE」の統計によると、ピーク期1996年の雑誌販売金額は1兆5644億円。しかし、2021年の雑誌販売金額は5276億まで落ち込んでおり、25年の間に市場が1/3程度まで縮小した計算になる。雑誌が売れなくなり、雑誌自体が減り、広告が減り、予算が減り、各雑誌のページ数が減り…となれば、当然雑誌編集者の仕事も無くなる。

だが、既存の枠に囚われず、新しい場所で活躍する雑誌編集出身のクリエイターもいる。最たる例は、木下孝浩、松浦弥太郎の2名だ。前者は、2012年6月にマガジンハウス社が発行する「POPEYE」の編集長に就任してリニューアルを手がけたことで知られる。4万部程度(最盛期は30万部を超えていた!)まで発行部数が落ち込み、迷走していた雑誌のコンセプトを再定義し、現代に合う形で提案したことでV字回復させる。その実績が認められたことでヘッドハンティングされ、2018年に株式会社ファーストリテイリングのグループ執行役員に就任。現在はユニクロが発行するフリーマガジン「Lifewear magazine」の制作に携わるほかクリエイティブコミュニケーション全般の業務を担っている。そして、後者も、2005年10月に「暮らしの手帖」編集長となり、こちらも発行部数を回復させている。2015年3月に退職後、クックパッドに移籍し、WEBマガジン「くらしのきほん」をスタート。また、2019年より株式会社ウェルカムが発行する「DEAN & DELUCA MAGAZINE」 の創刊編集長となった。

両者の共通点は、”いい雑誌”と”売れる雑誌”を両立したことだ。”いい雑誌”の定義は読者によって異なるため非常に難しいが、本稿においては、良いコンテンツがあり、一定のファンがいて、ファンにとってブランド価値が高いことだと仮定する。そして、セールスを無視すれば”いい雑誌”は無数に存在する。他方、”売れる雑誌”かどうかの基準は明確に売上である。そして、定義は単純だとしても、出版不況の中で”売れる雑誌”を実現するハードルは凄まじく高い。だからこそ、それを成し遂げた両者は畑の違うビジネスでも必要とされ、ユニクロやDEAN & DELUCAといったブランドの再定義・再編集および、ブランド価値の深耕・拡大という重責を担えるのだろう。

余談だが、トップスタイリスト(長谷川昭雄、白山春久など)を起用するなど、ファッション誌として素晴らしいクオリティがありながら「Lifewear magazine」は無料だ。これは、国内のファッション業界を独走(唯一の売上2兆円超え!2位しまむらの約4倍…)するファーストリテイリングだからこそできることではある。なにせファーストリテイリングの売上はマガジンハウスの約170倍(!)だ。短絡的であるのは重々承知ではあるものの、雑誌編集者の職場として出版社より魅力的に映るのは必然。かつてHUgEで編集を担っていた高相朋基のように、ショップ(古着屋)を始めるパターンもあるが、大量に情報が溢れる時代だからこそ、未来の顧客を切り開く企業には優秀な編集者が必要であり、そういった動きも当店はフォローしていきたいと考えている。

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