連載小説『舞い落ちて、消える』episode.33 2007/5/7②

 竹下とは高校で出会った。出会ったという表現は正しくないのかもしれない。別に僕は竹下とは会わなくて良かったし、会おうと願ったわけでもない。竹下に合わない人生も僕は選択できたはずなのである。要は竹下とは会いたくなかった。会わなければ良かった人間だった。
 クラスが同じになったことは一度もなかった。僕は文系のクラスで、所謂進学実績のために作られた固定クラスだった。田舎の進学校ではとにかく国公立大学に進学することが再重要視される。国公立大学のレベルなんて関係ない。固定クラスの何%が国公立大学に進めるか、それだけが全てで、例え有名な私立大学に進学したとしても、教員から後ろ指をさされて卒業していく。それが常識である。竹下はそんな進学実績とは何も縁がない私立大学用のクラスに所属していた。要は学校の中で成績が芳しくない生徒が所属するクラスだ。だから僕と竹下が出会うことなんてなかった。そんな風にあからさまにレベル別でクラスが分かれてしまうような学校だから、部活動のように一緒の活動となると、どうしても僕らは立場がない。無視をされたり、陰口を叩かれたり、そういう噂は頻繁に耳に入ってくるものだから、僕はそれもあって部活には入らなかった。竹下はサッカー部に所属していた。帰宅部の僕とサッカー部の竹下とは、本当に何も接点がなかった。高2の秋までは。

 竹下の名前を初めて耳にしたのは光浦からだった。
「サッカー部の竹下って知ってるか」
僕は正直に知らない、と答える。そして、どうして急にそんなことを僕に訊くのかと問うた。
「いや・・・ちょっと言いにくいんだけどさ」
光浦は急にバツの悪そうな顔をしたが、ここまできて急にそんな態度を取られても仕方がない。光浦ももとい、急に話すことが不味いのではないかと思っただけで、初めから話すつもりだったのだろう。
「河村さんと竹下って奴がどうも噂になっているらしい」
まさかそんなところで朝美の名前が出るとは思わなくて、僕は素直に表情に出してしまった。それを見た光浦は尚更バツが悪そうに、
「いや、知ってるかな、と思ったからさ。別に悪気があったわけじゃないぞ」
光浦の言い訳も聞こえないほどだった。だから正確には覚えていない。大体そういうことを言ったような気がした。流石に高校生にもなって、噂とはどのようなものか、ということを問うほど無知ではなかった。そしてそんなことを改めて聞きたくもなかった。朝美とは知里との一件以来、もうずっとクラスメートでありながら言葉を交わさない日々が続いていた。だから僕は朝美が普段どうしているのかも知らないし、ましてや誰と交流があるのか、ということも知らなかった。

 そうして僕は光浦から竹下のことを教えてもらった。竹下が文系私大のクラスにいること。サッカー部の次期キャプテンに指名されているということ。まだ衝撃の方が大きくて、情報を全て漏らさずに聞けるか不安だったけれど、朝美と噂になっている人間のことを何としても知っておきたかった。だから極力聞き逃さないように、気持ちを保って光浦の言葉を聞いた。
 そして、ある程度の情報を仕入れた後で、光浦はこう付け足した。そして、それこそが光浦が僕に竹下の話を持ちかけた原因だった。
「ただな、その竹下ってやつなんだけどさ、どうやら前から付き合ってる人がいるみたいなんだよ」


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