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第八話~中央値と平均値~

円周率の回想

 日曜日の昼下がり、はるかはうとうとしながらきこりの夢について考えていた。あの夢の中、はるかとはるきは多くの木の直径と周りの長さを測り、木の直径を1cm増やすためには、木の周りの長さが3cmと少しふやさなければならないことを突き止めた。しかし、たくさんの木について直径と木の周りに長さについて調べたが、あの時求めた円周率には相当なばらつきがあったように感じていたからだ。
 きこりから借りた紙と鉛筆で描いたグラフは、縦軸に木の周りの長さ、横軸に木の直径を設定し、それぞれの木の数値をプロットしていったが、すべてのプロットがきれいに直線に乗るわけではなかったのだ。こういうとき、どうしたらよいのだろうか、その答えを知りたかったのだ。
 
はるき:はるか、遊びに行こう。中庭でダンゴムシを捕まえよう。
はるか:うん、わかった。

 はるかははるきに誘われて家を出た。二人の家はマンションの一室であり、外に遊びにいくにはエレベータに乗る必要があった。二人がエレベータに乗ると、定員の表示が目に入った。以前、はるきと遊びに行こうとしたときは、いじわるな上級生やお相撲さん達によってエレベータにのることができなかったのを思い出したのだ。
 
はるか:ねえ、はるき。この定員の話をしたとき、パパは一人あたりどれくらいの重さって言ってたっけ?
はるき:確か、65kgだったと思うよ。いろんな人がいるけど、65kgとして考えるんだっけ。
はるか:65kgか。なんでだろう。

ダンゴムシを測る

 はるかとはるきはエレベータから降りると、中庭に向かった。マンションの中庭で遊ぶことは禁じられていたが、ダンゴムシを捕まえる遊びは騒がしくないため誰も注意をする者はいなかった。
 
はるき:このダンゴムシすごく大きい。
はるか:そう。
はるき:このダンゴムシはすごく小さい。
はるか:そう。
はるき:このダンゴムシはまあまかな。
はるか:そう。

 はるきは、持ってきた容器に次々とダンゴムシを入れていく。はるかはただぼうっとその様子を眺めていた。
 
はるか:ねえ、はるき。ダンゴムシの普通の大きさってどれくらいだと思う?
はるき:そうだなぁ。これくらい?

 はるきは中くらいのダンゴムシを差し出した。
 
はるか:どうしてそう思ったの?
はるき:これは、大きすぎるし、あれは小さすぎるし。それくらかなぁ、あ、そうだ、ダンゴムシの普通の大きさじゃなくて、ここでとれるダンゴムシの中の普通の大きさね。畑に行けばもっと大きいダンゴムシがいっぱいいると思うよ。
はるか:この前、パパと話した。法則のことを思い出したのね。条件をそろえないと簡単には比べられない。
はるき:そうそう。
はるか:この前、きこりの夢の話をしたの覚えている?
はるき:ああ、変な夢を見てパパに褒められていたやつ?
はるか:そう。あのとき、円周率の値がばらついていたのが気になって。
はるき:ダンゴムシの大きさもばらつくぞ。木だって、まん丸のもあれば、ちょっと歪んでるのもあるでしょ、きっと。だからじゃない?
はるか:なるほど。ちょっとダンゴムシ測ってみていい?
はるき:いいけど。変なの。

 はるかは、急いで家に帰ると定規を持って中庭に急いだ。はるきはその間もダンゴムシを捕まえ続けていた。はるかがダンゴムシの全長を測ろうとするとダンゴムシは丸まってしまい、長さを測ることができなかった。何度か挑戦するもやはりうまくいかない。はるきはそんな様子を見ていたが、はるかから定規を受け取り、メモリの0のあたりに茶色い葉っぱを乗せ、丸まったダンゴムシを定規の上に乗せた。しばらくするとダンゴムシは動き始め、メモリの0のあたりなる葉っぱのところにきた。
 
はるき:1.1cm。
はるか:はるきすごい。どんどん測って。
はるき:わかった。

 ふたりは長い時間をかけて20匹のダンゴムシの大きさを測った。その結果、1.1cmのダンゴムシが10匹、1.0cmのダンゴムシが3匹、1.2cmのダンゴムシが4匹、0.9cmのダンゴムシが2匹、1.3cmのダンゴムシが1匹であった。
 
はるか:1.1cmのダンゴムシが一番多かった。
はるき:そうだね。疲れたからそろそろ帰ろう。はるかと遊びに行くと、面倒なことに巻き込まれるなぁ。

中央値と平均値

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