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『エルヴィス』バズ・ラーマンがスクリーンに刻印するエルヴィスの一つの真実

 一人の男の生涯を描き尽くしている。それがエルヴィス・プレスリーなんだから、壮絶だ。ほぼエルヴィスと接点のない人生を送った俺だが、初期の駆け出しの頃のエルヴィスの描写に、沸点を迎えた。腰や脚を動かすパフォーマンスに、自分のダンススタイルの少し似たものを感じつつも、自分にない強烈な性的吸引力に、見惚れた。
 ラーマンには、『ロミオ&ジュリエット』で夢中になったが、美しい俳優をスクリーンで輝かせるには一級の監督である。バトラーはこの作品で完璧に輝いており、これこそがエルヴィスの生涯だと観ながら納得してしまうのだ。ズームインを印象的に使う手法も、ここぞいうときに奏功しており、その延長線上のカメラの大胆な扱いで、ラスベガスを架空の黄金の国に見せてくれる。
 そして、42歳で亡くなる直前の彼に、人生の悲哀という点で重ね合わせる俺はもうすぐ42歳。42歳でもやり直せると考えているマヌケな筆者だが、燃え尽きるように生涯を終えた彼はとても遠くて、とても近かった。
 凄まじい感情の渦を見せる作品を観終えて、読後感でいっぱいだが、ただただこの作品を観てよかったという思いで満ちている。
 この映画をスクリーンで観れなかったが、それを後悔することもなく、スマートフォンで走り抜けた。孤高の歌い手エルヴィス・プレスリーの物語は、2023年も生き続けている。

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