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地図も嘘をつく?! -天空のマップカフェ-

アカデミーヒルズのメンバーズ・コミュニティ「天空のマップ・カフェ」の2023年最後の定例会(12/7開催)は、「地図も嘘をつく?!」をテーマに開催しました。

皆さん、“地図は正しい!”と思い込んでいませんか。
天空のマップ・カフェ主宰の太田弘さんは、「地図は平気で巧妙に嘘をつきます。地図のウソを見抜く方法と技を学ぶことで、地図に騙されない鋭い目を持ちましょう!」と言われます。

“地図の嘘”を紹介した書籍

『地図は意外とウソつき』
『地図もウソをつく』
『HOW TO LIE WITH MAPS』
『The Lie of the Land』

日本だけではなく、海外でも同様の内容の書籍があるのは興味深いですね。
太田先生(主宰の太田弘さんは慶應義塾普通部で長年教鞭をとられた先生です)は「地図に騙されない鋭い目」を持つことが重要と言われますが、これは2022年度より高校で地理が必須科目になったことにも通じます。
必須になった要因として、
一つ目はグローバル化です。ビジネスがグローバル化し様々な課題が世界規模で起きている中、国際理解・国際協力のための基礎知識として地理の必要性が高まりました。
二つ目が防災です。令和6年能登半島地震が起きたばかりですが、自然災害への対策としてやはり地理の知識が重要になります。
三つ目がGIS(地理空間情報システム)です。GISはビジネスに欠かせない情報となっていますが、使いこなすために地理の知識が必要になっています。
このような要因により2022年度より高校で地理が必須科目になりました。
地理の知識を得る第一歩として「地図を正しく読み解く、騙されない目」を養うことが大切ですね。
例えば、下記は東京の地下鉄路線図です。路線を確認するためには便利ですが、冷静に見ると距離は正しくありません。

東京の地下鉄路線図ですが、地下鉄の路線を調べるには便利ですが、距離は正しくありません。
東京都交通局のサイトより転載)

以下は、地図を正しく理解するために必要な情報を紹介します。

メルカトル図法(正角円筒図法)

メルカトル図法は16世紀に発明された海図(航海のため)に適した図法です。出発地と目的地を直線でつなぐことで、正しい方向を示します。これは角度が正しい正角図法だからです。
一方で、北極や南極に近づくほど実際の面積よりも大きく表示されるという難点があります。
下図はとても興味深いです。水色はメルカトル図法により表示される各国の大きさです。実際の国の大きさは濃い青色です。グリーンランドやロシアの違いはびっくりしますね。

メルカトル図法で表される各国の大きさを水色、実際の国の面積を濃い青で表現し、両者を入れ子にすることによって、簡単に比較できるようにした世界地図(Nail KayeのXより転載)

転位

地図の編集にあたり、本来描かれるべき位置(真位置)から一定の法則に基づいて意図的にずらして表記する方法が転位です。
地図という限られたスペースに描く場合、真位置に描くことで人が見た場合に認識できない状況になることが想定されます。それを防ぐための技法です。
よく引き合いに出される例は、新潟県親不知付近の海岸部だそうです(下図を参照してください)。

『MAPPLEデジタルデータ25000』新潟県糸魚川市親不知付近
高速国道、国道、JR線、県道が真位置より1.5倍ほどの幅に転位されています。
空間情報クラブから転載)

このエリアは山が海にせまり、海岸線・等高線・道路・鉄道などが並行しているため、2.5万分の1より小さい縮尺の地図では真位置に描くことができないために転位しているそうです。

総描

地図は縮尺が小さくなるほど、限られた小さなスペースに広い地域を描かなければならないので、細かい部分まで正確に描くと逆に見にくくなってしまいます。そのために、全体の形状を損なわない程度に簡略化して描写する技法が総描です。
具体的な例として、栃木県日光市のいろは坂のカーズの数が縮尺によって変わります。下記の図の上側は縮尺が1/25000の地図で、第一いろは坂は7つの折れ線で描かれています。下側の地図は縮尺が1/50000になっており、5つの折れ線に減っています。

上:1/25000の地図でいろは坂は7つの折れ線
下:1/50000の地図でいろは坂は5つの折れ線
(国土地理院から引用)

戦時改描

戦時中は、軍事的に重要な施設が地形図上に偽って表現をされました。
初期は重要な施設を空白にしておく省略改描でしたが、第一次世界大戦での首都爆撃を機に架空のリンゴ畑や桑畑が描かれるようになりました。こちらも一種の戦略的な嘘になります。
下記の図は戦時改描の前後になります。左の地図は「立川町飛行場」と記されていますが、改描後の右の地図は飛行場の一体が桑畑や雑木林になっています。
近代国家において、領土は国家成立において重要な要件になります。日本では明治時代には「地図は国家なり」と表現されていました。
1899年に公布され1937年8月14日に全面改正された軍機保護法で地図は、陸海軍大臣の定めた軍事上の秘密に値したため、漏洩・探知・収集等についての罪が規定され、最高刑に死刑も設けられていたとのことです。

太田弘さんの説明資料より抜粋


空想地図

最後は、少し視点を変えて空想地図の紹介です。
7歳のときに空想地図に目覚めて、現在はフリーの空想地図作家として活躍している今和泉隆行さんは、「空想都市へ行こう!というサイトで、架空の街「中村市」の地図を公開しています。

中村市の地図の一部(空想都市へ行こう!より引用)

細部までしっかりと展開されており、その想像力・創造力の凄さに感嘆します。下記は今和泉さんの著書『みんなの空想地図』です。


空想地図の別の例として、小説『吉里吉里人』に登場する国の吉里吉里国について、著者の井上ひさしさんは架空の地図を作っています。
これもある種の空想地図ではないでしょうか。井上ひさしさんは日本地図学会の会員になるほどの地図好きだったようです。


もっと古いところでは、18世紀に本居宣長は「端原氏城下絵図」という空想の都市図を描いています。宣長の理想を詰め込んだ都市と言われています。地図に加えて、端原氏城下絵図に住む端原氏の一族や家臣の「端原氏系図」も残しています。もちろん端原氏も架空の人物で、各々の生年や幼名、通称、屋敷の場所などが記されていますが、全てが架空のものです。宣長の想像力・創造力も凄いですね。

本居宣長記念館のサイトより転載


定例会の締めくくりは、
「地図は、様々なルールに基づいて作られています。そのためにそのルールを知らないと騙されてしまいます。信用できる部分と違う部分があることを知り、自分で判断する力を養うことが大切です」という太田先生のコメントでした。

アカデミーヒルズ 熊田ふみ子

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