【本のオススメ】科学が魅せる深遠な美;全卓樹『銀河の片隅で科学夜話』

日々の生活では忘れがちだが、私たちは実に深遠な世界を生きている。芸術は深遠な美に目を開かせてくれるが、科学もまた然り。深遠さに目を向けることは、夜空の星々を眺める時に似た、癒しをもたらしてくれる。

科学エッセイ集である本書だが、その表現はやわらかく、時に詩的でさえある。テーマは多岐にわたる。序盤は宇宙や原子の話、例えば悠久の旅を続ける流れ星。中盤は社会や倫理の話、例えば検索エンジンの秘密。終盤は生物の話、例えば壮大な渡りをする蝶。各短編は独立しており、好きな順番で読める。私のお気に入りは、アリの話。緻密な社会の中で自らの役目を全うするアリの姿に、思いがけず元気づけられ、励まされた。

壮大な世界に目を向ければ、自分の悩みが小さく思える……なんて、簡単な話ではないけれど、深遠な世界の深い懐には、日常の悩みから逃れられるスペースはあるかもしれない。本書を開いて、ほっと一息つきながら、科学が魅せる美に癒されてほしい。


全卓樹『銀河の片隅で科学夜話』(朝日出版社)


執筆:細谷享平

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