見出し画像

「痛い人」〜タクシー運転手の思い出〜

「あっ、お願いしますー」

30代くらいの男性が乗り込んできた。すっとした体型でかっこいい人だ。ルパン3世のようなスタイル。ただ気になるのは、両手でタオルを丸めて持っていることだ。その男性は、

「すまんな、千歳空港までお願い」

そう言った。ちょっと息苦しいような口調だった。私は返事をして空港へ車を走らせた。私はどうしても気になって聞いてみた

「あの、お客さん、そのタオルどうしたんですか?」

「あぁこれか、、、うちの若いもんがなぁヘタこいてしまって、責任とってきたんだ」

「え?責任…ですか」

「おう、指、詰めてきた」

ドッヒィィィィ!!

私はホッペを小刻みに振り、やがて全身に震えがまわっていった。おそるおそるタオルを見るとちょっと赤く染まっている。

お、落とし前をつけた人!お、お、落とし前をつけたての人が、この車に乗っている。指を詰めたばかりのピチピチだ。もぎたてのフルーツみたい?いやいやちがーう!!

もう恐怖で考えがまとまらない。ハンドルを握る手が汗ばみ、ぎゅうっと力が入る。

なぜか指を詰めた本人である男性はいたって冷静だ。時々痛むせいか眉間にシワを寄せるが、それ以外は何気ない対話を楽しむ余裕すらある。指詰めに慣れている?私はなぜ病院に行かないのか聞きたかったが、何かその筋特有の事情があるかもしれないので聞きにくかった。

とにかく早く空港へ行かなければ。私は意識を立て直しアクセルを踏んだ。

幸いにも道は空いていてスムーズに空港に着いた。男性は使いにくい手で支払いを済ませて車を降りていった。私はどっと疲れてしばらくその場で休んでいた。ふと後の座席を見たらシートの上に

真っ赤な血がポツポツついていた

あの人の血だ…。あの人そのまま飛行機に乗れたのだろうか。そしてどこへいくのだろうか。謎である…。

はっきりしているのは、これから座席のシーツ全取替えをすることだ。

めんどくせぇーっ!!


ではまた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?