「人生で1番変な購入物」
人間は長い人生の歩みの中で、実に様々なものを購入して生きていく。しかしその購入物は必ずしも合理的なものとは限らない。時に「なぜあんなものを」という深い後悔と悲しみを伴う購入物が存在する。今日はその中で、私の人生において1番変な購入物についてお話ししたい。
小学生の私は、大魔王、いや、大弁様とでも言おうか、、いやもう、今回は歯にまとった衣をドバーッと丸裸にして言おう。
うんこの香りの液体
を買ったのだ。
それはデパートの6階の奥底にある怪しいコーナーにあった。マジック用品やドッキリ商品ばかり集めた場所である。私はこの場所をとても愛していた。日によっては3時間くらいずっとここで、ガラス越しに奇妙な道具たちを見つめ、あれこれと想像を巡らせる少年だった。
そんなある日、ショーウィンドーの右端の方に普段気づかなかった小ぶりなビンを見つけた。パッケージをよく見ると「うんこの香り」と小さく書いてある。見間違いかと思って、目をこすって何度か見直したがやっぱり「うんこの香り」と書いてある。パッケージの横には、この香りを他人のお尻のあたりにふりかけてイタズラをする陽気なイラストも付いている。
こんなもの、いったい誰が買うというのだ。私はこんなものが売れるはずないだろうと軽蔑して見ていた。ところが人間、軽蔑を突き抜けると不思議と愛着へ到達することがある。インドに向かっていたらアメリカ大陸に着いちゃったようなものだ。
私はだんだん「うんこの香り」から目が離せなくなっていった。だめだめ、あんなものどう使うって言うんだ。ムダだムダ。まぁ、、気にならない訳ではない。まぁその程度だな、、しかしどのくらい本物の香りに近いのだろうか。そこは気になるところだな。うん、これはあくまで研究として必要かもしれない。よし、これでいってみるか。このように自然と買う方向へ変容していったのである。困り顔の母をなんとか説得して「うんこの香り」を購入した。
自分の部屋でパッケージを開けてみた。その風貌は高さ10センチほどのガラスビン。その中には黄色の液体が不吉な濃度で入っている。一見香水のイメージをまとったイタズラ用品らしい。
私はひとり興奮していた。この人間として禁断のイケナイ香りをビンに詰めたものを私は所有しているのだ。おそらくは、街中でこれを手に持っているのは私くらいなものだろう。この感覚、初めて高級車のオーナーになった時の気分に近いかもしれない。
さて、ひと香りいってみるか。
念のため周りに人がいないことを確認して、フタを慎重に開けた。私は危険な香りを嗅ぐ時には、理科の授業で習った手のひらでヒョイヒョイするというクセが付いていた。ではヒョイヒョイと、、
んーーーん!!うんこぉーーっ
完全なるうんこ。筋金入りのうんこである。開発者のうんこを水に溶かしただけではないかと疑いたくなるほどの出来栄えだ。あっぱれである。
どれもう一回。ヒョイヒョイっと
ぬわーーーーっ!!うんこぉーーーっ
はぁはぁ、もうダメ、これ以上続けるとあっちの世界へ行ってしまいそうだ。今日のところはやめよう。しっかりとフタをしめた。
その後は近所のヤンチャな女の子もこの禁断の遊びに参加するようになり、2人で交互に匂いを嗅いでは興奮して過ごしたりしていた。今思うとなぜこんなことをしていたのか。なぜこんなものに興味を持ったのか。どんな理由で1日2回嗅ぐことを厳しく自分に課していたのだろうか。もうさっぱり分からない。
たしかなのは、人間は時に変なものを買ってしまうことだ。
ではまた。
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