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【書評】読書のススメ_6月11日

今回の本紹介は西富が担当します。
選んだのは2冊で、1冊目はライトな書き口で読書初心者の人にオススメの作品。2冊目も読みやすい部類には入りますが、かなり密度が高くて読書好きこそ唸る(と思われる)作品をチョイスしました。テイストは大違いですが、2作とも大好きな作品です。山手台教室の方々は貸し出しコーナーに並べてますので是非とも手に取ってみて下さい!

『夜の光』 坂木司

こんな人にオススメ!

○ 読書の初心者
○ 小学生~高校生
○ほのぼのした小説を読みたい

ほのぼの読める本

坂木司さんの小説はどれも読みやすい文章で書かれているのが特徴。内容的にも強い表現がないのであっさり味な作風です。前回紹介した『希望が死んだ夜に』のようにテーマが重たい作品や太宰治のようにテーマも書き口も重たい作品は読むのになかなかエネルギーを使いますが、あっさり味な小説はさくっと読めるのがありがたいところ。僕は割とこういう作品は好みです。

青春小説としての一面

この『夜の光』は青春×ミステリーな内容です。比率としては7:3ぐらいで青春多めって感じです(ちゃんとしたあらすじはAmazonをご覧ください)。
僕わりと青春小説読むんです。若者がキラキラしている描写を見るの好きなんです。キャラじゃないって身内からも言われる始末ですが。ほっとけ。
僕は大人の社会と子供の社会(≒学校?)では圧倒的に子供の社会の方が大変だと思っています。これは理屈としてではなく、個人の体感として。大人の方が自分が所属するコミュニティを選びやすいし、周りもある程度コミュニケーションができる人たちになるので感覚的に「ラク」です。何より人格形成がほとんど終わった状態ですから、日常の出来事がアイデンティティに影響するほど大きな衝撃となることはほとんどありません。
それに対して子供は大変だなぁといつも感じています。自分の学校生活を振り返ってもそうでしたが。思春期ということもあり、学校という特殊閉鎖環境に置かれているということもあり、日常で起きる一つひとつの出来事が自身の存在を脅かすほどに大きなことに感じられ、常にアイデンティティを守るための日々。喜びや成長も大きい分、痛みや失望もひとしお。この作品を読むと学生時代のそんな感覚がよみがえる気がします。
作品のラストでは主人公達が成人した後のことが少しだけ描かれるのですが、その一人が自分の高校時代を振り返って同じような感傷に浸っているシーンが印象に残っています。
10代の頃って何かする時は常に命(アイデンティティ)掛け。それに対して大人になった自分はどうか?物事一つひとつに、それだけ掛けているか?日常の密度が下がってはいないか?
そんな感傷を一度針を刺すと死んでしまうミツバチに喩えた
『ただ一撃に掛けた、あの針を見習え』
というフレーズは、とても秀逸な表現だなぁと印象に残っています。

ミステリ小説としての一面

坂木司さんの小説の特徴でもありますが、全ての作品にちょっとしたミステリー要素が含まれています。ミステリーと言っても人が死んだり犯人がトリックを使ったりするミステリーではなく、もっと日常の些細な不思議に対して謎解きが提示されるような、あくまでミステリーテイストです。読み進める中での
「はぁ~。なるほど~」
という感覚が心地よく、読みやすさを増していると思います。
色んな楽しみ方が用意されているのもありがたいポイントですね。こういう点も読書初心者の人にオススメできるところです。


『満願』米澤穂信


こんな人にオススメ!

○読書好きの人
○ミステリー好きの人
○高校生~大人

三冠達成の傑作短編集

「このミステリーがすごい!」「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」の国内部門ランキングで前人未踏の三冠を達成した傑作です。
読めば納得。まさに傑作。全6編の短編集なんですが、読み始めるとページをめくる手が止まらず一気に読了。読後は「すごい本に出会ってしまった……!」と放心。この本はヤバいです。「ヤバいって雑な言葉だから、言語感覚を磨いて読解力をつけたいならできるだけ使わないで。もっと繊細な表現を探すクセをつけなさい」って普段偉そうに指導している僕が語彙力を失うほどにヤバいです。

もはや純文学

作者の米澤穂信さんは有名なミステリー作家です。三冠もミステリーランキングによるもので、当然内容もミステリーです。なんですが、僕の読後の感覚は
「これは(ミステリ風の)純文学では…?」
でした。純文学の定義もよくわからずに感覚で言ってしまってますが、そう感じるぐらいに登場人物の性格や心の機微についての描写が素晴らしかったです。ミステリーというと謎解きや伏線の回収の時の爽快感がある作品が連想されがちですが、この『満願』はそういった類のミステリーではなく、代わりに読後には登場人物たちの感情がのしかかってきます。芥川賞作品なんかを読んだ時に近い読後感でした。でも読みやすい。不思議。
高校生で教科書に出てくるような文学作品が苦手という人は、この本から入ってみてもいいかもしれません。それぐらい「上質な文章」という感じです。

もちろんミステリとしても最高

ミステリーとしても最高でした。各編のラストにはどんでん返しが用意されていて、1編読み終えるごとに溜め息がもれます。上述した通り「爽快感」という感じではないです。ゾワッって感じです。語彙力。
設定が凝っているというか、オリジナリティがあるのも特徴です。ミステリーには同じプロットの作品が結構あって、ミステリー好きの人はある程度筋書が予想できる作品も多いです(それでも楽しめるのが作家さんの凄いところです)。有名なところでは『そして誰もいなくなった』ですね。「そして誰もいなくなったモノ」というジャンルなんじゃないかってぐらい、アガサ・クリスティーが書いたあのプロットを踏襲した作品がたくさんあります。そしてだいたい面白い。
ですがこの『満願』は似たような筋書が記憶にないぐらい凝った設定で定番モノのミステリーの筋書が先読みできてしまう人も新鮮な感覚で読めると思います(僕がミステリーに疎いだけだったらごめんなさい)。

文学作品としての「心の機微」の描き方、ミステリーとしての凝った作りと切れ味。読書好きの方にこそ自信を持ってオススメできるまさに傑作です。


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