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【書評】読書のススメ_11月18日

今回の書評は西富が担当します。
僕は今神戸の教室で社会人の方の学び直しを目的にした勉強会を主催しています。
大の大人たちが大真面目に引き算をしたり方程式を解いたりしている光景です。
「色々と手広くやってますねー」
なんて言われたりするのですが、僕の中では普段の指導とコンセプト的には変わりません。

僕は塾講師の中では「生徒が社会に出た時にいかに自己実現できるか」を重要視している派で、学校の点数とか受験の合否というのは、あくまでツールでしかないという考え方です。
今現実の社会が要請している「力」と、学校生活や受験勉強を通して身につける「学力」との関係について語り出すとキリがないのですが、社会人の方の学び直しも僕の指導者としてのコンセプトに基づいて行っているものです。

今回はそのような活動から得た学びや気づきと、いつもの書評をミックスしてお届けしてみます。必然的に大人向けの本を選ぶことになりましたが、今回は保護者の方々にお楽しみ頂ければと思います。

スタンフォード大学発の世界的ベストセラー! ! 学業・ビジネス・スポーツ・恋愛・人間関係……、成功と失敗、勝ち負けは、“マインドセット"で決まる。 20年以上の膨大な調査から生まれた、「成功心理学」の古典的名著、増補改訂により新登場! 同じような能力でも、一度の失敗で「もうダメだ」と落ちこむ人と何が失敗の原因かを考える人がいる。 問題がむずかしいとやりたがらない子、むずかしい問題ほど目を輝かせる子がいる。それらの違いは、 どこからくるのか? 能力や才能は生まれつきではないことを20年間の調査で実証した正真正銘の “成功者たちの心理学"。

(Amazon商品ページより引用)

ウチの勉強会には色々な業種の社会人の方が来てくれています。社会人の方々とお仕事の話をしていると結構な確率で「メンタル」の話になります。
技能の話から始まったつもりでも
「結局メンタルやん…」
という結論になることもしばしば。
それだけ今の社会で働く上でメンタルは重要な要素なのかもしれません。

固定マインドセットと成長マインドセット

そのメンタルの中でも、この本はマインドセットに焦点を当てて書かれています。
マインドセットとはなかなか訳しにくいし説明しにくい言葉です。本文中では「心のあり方」とか「信念」とか訳されていますし「考え方」と言ってもいいと思います。

筆者はこのマインドセットには固定マインドセット(fixed mindset)成長マインドセット(growth mindset)があると言います。
※本文中では「硬直マインドセット」「しなやかマインドセット」と訳されていますが、今は「固定マインドセット」「成長マインドセット」という訳し方が多いので、こちらで書くことにします。

固定マインドセットとは『自分の能力は石版に刻まれたように固定的で変わらない』という考え方。
それに対して成長マインドセットとは『人間の基本的資質は努力しだいで伸ばすことができる』という考え方です。

本の中には同じような出来事に遭遇した時に、固定マインドセットの人と成長マインドセットの人ではリアクションがどう違うのかという例が示されています。

朝、授業に出席する。自分にとってきわめて重要で、しかも大好きな科目。ところが、返却された中間試験の成績がC+だったのですっかり落ち込んでしまう。夕方、帰宅しようとして車に戻ると、駐車違反の切符が切られている。ガックリきたあなたは、親友に話を聞いてもらおうとして電話をかけるが、何だかそっけなくあしらわれてしまう。
(本文より)

こんなとき、どんなふうに考えるか?どんな気持ちになるか?
固定マインドセットの人に尋ねると、次のような答えが返ってくるそうです。

「拒絶されているような感じがする」
「自分は完全なダメ人間」
「負け犬」
「価値のない最低の人間」
「ろくでなし」
(本文より)

なかなかの罵詈雑言が並んでいますが、あくまで本文の記述です。
一方で成長マインドセットの人はこんなふうに捉えるそうです。

「もっとしっかり勉強しなくては。車をとめるときは注意しよう。友人はあの日、何かいやなことがあったのかもしれない」
「気持ちを入れ替えて次の試験に備える。あるいは、勉強の仕方を変えてみる。罰金を払い、こんど友人に会ったときに、何があったのか尋ねてみる」
「試験のどこかまずかったのか突きとめて弱点を克服し、罰金を払い、翌日もう一度友人に電話して話を聞いてもらう」
(本文より)


さて、ここでイキナリのプチカミングアウトみたいになるのですが、僕は中学の時は(多分高校でも)完全に固定マインドセットな人間でした。
その時の自分が上に挙げたような成長マインドセットの人のリアクションを見れば、おそらくこう思うでしょう。

「めっちゃポジティブやん。自分はこうはなれんな。」

多分、ポジティブだと、つまり性格の問題だと感じていたと思います。
でも、上に挙げた人たちは性格がポジティブだからそんなリアクションをしているワケではないのです。本の中でも筆者は

自分の性格(パーソナリティ)だと思っているものの多くが、じつはこの心のあり方(マインドセット)の産物なのである。
(本文より)

と述べています。

ポジティブやネガティブの問題ではないなら何なのかと言うと、これはおそらく「失敗は何を否定しているか?」という問題です。

固定マインドセットの人にとって、失敗や間違いは「自己の否定」を意味します。
自分自身を、自分の能力を、自分の才能を、自分の人格を否定されていると捉えます。

一方で成長マインドセットの人にとって失敗や間違いは「方法の否定」を意味します。
自分の採った方法がまずかっただけで、自分自身は関係ない。
プラスドライバーがネジの頭に合わなかったのなら、マイナスドライバーを持ってくればいい。ネジを回す人の能力や才能や人格なんて関係ない。それぐらいのモンです。

塾生が教えてくれること

学校の成績や受験も、結局はメンタルです(長い目で見れば)。
固定マインドセットと成長マインドセット、どちらのマインドセットを持っているかに比べれば、現時点での学力なんて本当に些末な問題です。

このnoteでもウチの卒塾生を何人か紹介したことがありますが、

この2人の生徒は間違いなく成長マインドセットを持っていました。
正確には、少しずつ成長マインドセットを身につけていったという感じでしょうか。

2人に共通していたのは、テストの点数が悪くても特に気にしないということ。

「いやー、やっちゃいましたねー。」

ぐらいのリアクションでした。
彼らにとって点数が低いということは

「君は能力が低い」
というメッセージではなく

「そのやり方では点にはならんよ」
というメッセージだったのでしょう。

もちろん受験本番が近づいているタイミングで点数が伸びないと凹んでいましたが、それも

「自分の実力は全然足りないんだ…」
みたいな捉え方ではなく

「試験も近いし、そろそろ正解のやり方を発見しておきたかった…」
というニュアンスだったと思います。

そういう捉え方をしていれば
「よし、次はこんな工夫をしてみよう」

という挑戦意欲も湧いてきます。
学力をつける上で大事なのは
「言われた通りにやること」
ではなく
「自分で試行錯誤してみること」
です。

成長マインドセットがある

どんどん試行錯誤する

学力がつく

は言ってみれば必然の流れです。

成長マインドセットを身につけた生徒がどれだけ強いかは、上に挙げた2つの記事を参照してみて下さい。2人の生徒がどれだけ試行錯誤していたかがおわかり頂けるかと思います。


成長マインドセットを培う

最後に、本の第7章―マインドセットを培う―から子供たちが成長マインドセットを培うために大人たちはどんな声掛けをすればいいのかということをご紹介します。
なかなか長いですが、頑張って引用してみましょう。

次の言葉にひそむメッセージを聴きとってほしい。
「そんなに早く覚えられるなんて、あなたはほんとに頭がいいのね!」
「マーサ、あの絵をごらん。あの子は将来のピカソじゃないだろうか」
「あなたはすごいわ。勉強しなくてもAが取れたんだから」
たいていの親は、こうした言葉を、子どもの自尊心を高める励ましのメッセージと思うだろう。でも、もっと注意深く耳を傾けてほしい。別のメッセージがひそんではいないだろうか。子どもたちが受けとるのは、次のようなメッセージだ。
・はやく覚えられなければ、頭がよくないんだ。
・なにかむずかしいものを描こうとしないと、ピカソとは思ってもらえないんだ。
・勉強しないほうがいい。さもないと、すごいと思ってもらえない。
(中略)
私がこの研究をはじめたそもそもの動機はまさにここにある。何百人もの子どもたちを対象に、7回にわたる実験を行った結果はきわめて明快だった。頭の良さをほめると、学習意欲が損なわれ、ひいては成績も低下したのである。
どうしてだろう。ほめられて嬉しくないのだろうか。
もちろん、子どもはほめてもらうのが大好きだ。特に、頭がいい、才能があると言われると、嬉しくて天にも昇る気分。でもそれはほんの一瞬にすぎない。思わぬ障害に出くわしたとたん、それまでの自信はどこへやら、すっかりやる気をなくしてしまう。成功するのは賢いからだとすれば、失敗するのは頭が悪いせい、という硬直マインドセット(=固定マインドセット)に縛られてしまうからだ。
(本文より)


これは塾で生徒たちの様子を見ていても顕著で、固定マインドセットの生徒は

いかに自分が努力せずに成果を出したか

を強調したがります。本人に深い意図はないのでしょうが、こういう生徒はテストの点が悪かったりすると、逆にそれが「無能の証明」のように感じられてしまうため、注意が必要です。

ではそういった生徒たちにはどんな声を掛けてあげればいいのか。
筆者は『努力と成長に注目したメッセージ』が重要だと説きます。

「今日はずいぶんと長い時間、一生懸命に宿題をやってたな。集中して終わらせることができてえらいぞ」
「この絵、きれいな色をとてもたくさん使って描いたのね。色の使い方のことを話してくれるかな?」
「この作文には自分の考えがたくさん書いてあるね。シェークスピアが別の角度から見えてくるようだね」
「心をこめて弾いてくれて、ほんとうに嬉しいわ。ピアノを弾いているときってどんな気分?」
(本文より)

褒め方随分と欧米チックなので、そのまま真似すると変な空気になる気がしますが、重要なのはこれらが努力と成長に注目したメッセージであるということです。

子どもの研究に生涯をささげたハイム・ギノットもやはり、「ほめるときは、子ども自身の特性をではなく、努力して成しとげたことをほめるべきだ」という結論に達している
(本文より)

とある通りです。

この成長マインドセットという考え方を知ってから、僕自身も生徒に対して掛ける言葉を一から見直しました。
こちらが深い意図なく、言わばクセのように言ってしまったセリフが生徒に間違ったメッセージを伝えてしまわないように。
こちらの些細なセリフが意図しないメッセージを伝えてしまうこともあると考えると怖いものですが、逆に言えば指導に金八先生のようなドラマティックで力強いメッセージは必ずしも必要なく、子どもたちのマインドセットを作っていくのは日常の些細な声掛けだと思えば、少し気持ちがラクになったりもしますね。

さて、ここまで約5000字。なかなかの長文になってしまいました。
まだまだご紹介したい知見がたくさんあるのですが、
つい最近「テニスを一度もやっていないのにテニス肘になる」という荒業に成功した僕の肘がもう限界のようです。
ここまでは教育・指導に関することを中心にご紹介してきましたが、本の中にはスポーツやビジネス、対人関係においてすら、マインドセットが重要な役割を果たすということが数多くの事例と共に紹介されています。
社会人の方々の話を聞く中で僕がこの本を連想したのはまさにそのためで、コロナ禍でさらに殺伐さが増したかのようにも見える現代社会において、強くたくましく、そしてしなやかに生きていくために単に学力だけでなく、もう少し視野を広げて、子どもたちのマインドセットに注目していくことの重要さを実感しています。

ページ数の割にスラスラ読める類の本ですし、マインドセットの重要性はこれから増々注目を浴びることになると思われますので、興味のある方は是非読んでみて下さい。

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