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【書評】読書のススメ_7月27日

今回は藤澤が担当です。

僕がめちゃくちゃ大好きな森絵都さんの作品を2つご紹介させていただきます!

以前にも、
・塾業界を舞台にした『みかづき』
・男子中学生と天使ブラブラの物語『カラフル』

西富先生からも
・音楽をテーマにした短編集『アーモンド入りチョコレートのワルツ』

をご紹介させて頂きました。これらも全部大好きな作品です…!

今回はそんな森絵都さん愛100%な本紹介で恐縮ですが、
お付き合い頂けますと嬉しいです!


『リズム』 森絵都


森絵都さんは僕の読書体験の原点

森絵都さんは最近ではお仕事小説を手がけることも多いのですが、初期のころの作品は主人公が小中学生の青春ものがメインです。「森絵都さんといえば…」と言える作品はこの頃のものが多い気がします。

まだ歳の近かったころの僕は、僕自身がすごしてきた学生時代の思い出とよく重ねながら読んでいました。「自分にもこんな経験あったあった!」と思い出しては感傷にひたったり、一方で自分が体験してこなかったできごとを、物語をとおして追体験してみたり。思えば僕は小説の楽しみ方の多くを森絵都さんワールドから勉強させてもらったわけです。森絵都さんに感謝。

本を読むことで味わえる感動や揺さぶりは、ふだんの何げない日常へのちょっとした癒しや刺激になって気持ちを豊かにしてくれます。こうして本の紹介をお送りするようになって「やっぱり読書ってイイな…!」ってよく思います。本の紹介をスタートして実は10ヶ月近くが経つのですが、教室では紹介コーナーで本をパラパラとめくってみたりする生徒や、自宅で読んでみようと借りていく生徒が増えました。そうした子どもたちの様子を見るとなんだか嬉しくなります。何となく好きに手に取ってみて興味をそそるものに出会えればいいなと、これからも本の紹介をお送りしていこうと思っております。


ごく普通の女の子の物語

『リズム』の主人公は、さゆきちゃんという中学1年生の女の子です。

仲の良い友達がいて、元気で男の子に口達者で、勉強はあまり好きじゃなくて。将来やりたいことも、熱中できることも、がんばろうと思えることもまだ見つかってない。

そんなごくごく普通の女の子なのですが、感受性が強くて他人や自分自身の心の痛みだったり、時やものごとの移ろいやはかなさだったりを人一倍に感じ取ってしまうことも。

楽しいことばかりじゃなくて悩むこともたくさんあるし、過ぎていった時間はもう元には戻らないし周りも変わってほしくないのに少しずつ変わっていっちゃう。


自分はどうなんだろう?

自分も変わっていくのかな?

自分も変わらないといけないのかな??


思春期という多感な時期に、さゆきちゃんが周囲の変化や心に浮かんでくる様々な思いをどう受け止めようとするのか。

読みやすさはバツグンでありながら、このあたりの心情描写を森絵都さんは見事に描いてみせています。読後は「さゆきちゃんのこれからに幸あれ!」とエールを送りたくなるような、なんだかあったかい気持ちに包まれます。

この『リズム』には続編の『ゴールド・フィッシュ』という作品があり、中学3年生になったさゆきちゃんの物語が描かれています。山手台教室にはこの2作品が合本になったものを置いてますのでよければぜひ手に取ってみて下さい。



『風に舞いあがるビニールシート』 森絵都


短編集。でも読みごたえ◎

『風に舞いあがるビニールシート』は短編集です。1つの物語につきおよそ50ページほど。しかも2006年に直木賞を受賞している傑作です。サクサクと読めちゃうので保護者の方にオススメです。

さきほどの『リズム』とはうってかわって、主人公は社会人たちです。
テーマは「大切な何かのために懸命に生きる人たちの、6つの物語」

気分屋なパティシエオーナ―に翻弄されながらも秘書として仕事に走り回る女性の物語。

行き場のない犬を預かり、里親を探しながらスナックで働く女性の物語。

フリーター生活を送りながら学歴を手に入れるために大学の夜間にかよう男性の物語。

仏像を作る職人になる夢がかなわず、仏像を修復する職に就いた男性の物語。

雑誌に掲載した商品にクレームがついてしまい、そのクレームの処理のために謝罪に向かう2人の男性の物語。

外資系銀行から国連機関へ転職した女性と、紛争地域で弱者である難民たちを救おうと奮起する男性の物語。

風に舞いあがるビニールシートはいったいどこに…?となりますが、それは読んでみてのお楽しみです。


大人だって悩み、懸命に生きている

この本を一言で表すなら「大人たちの青春小説」。
世間一般でいう子どもたちにとっての「青春」とは異なりますが…。

この作品を読んでいると、心にある言葉にするのがむずかしい気持ちの部分にさりげなく寄り添って応援してもらえているような気持ちになって、なんだか「大人たちだってこう見えて毎日を一生懸命に生きてるんだぞーっ!」って森絵都さんが代弁してくれているように思えるんですよね。

子どもたちからすれば、大人っていざっていうときは何でもできる存在に見えがちですが(そうありたく思いますが…)、それは大人になると「自分で判断して行動する」ことがたくさん増えてきて、その側面が子どもたちの目によく映っているからだと思うんです。でも、大人になってみると「この癖や考え方は子どものころから変わらないなぁ…(笑)」って思う部分もたくさんあります。大人になっても悩むときはフツーに悩みまくりです。

見た目は大人になっても、内面は子どもからいきなり大人に変身するわけではなくて、少しずつ日常のいろんな場面やライフステージを経験することで少しずつ大人になっていく部分があって、一方で子どものころからの価値観なども組み合わさりながらその人の人となりが築かれていくわけで。だから、子どもたちも大人も等しく一生懸命に生きるんです。

森絵都さんの凄さは子どもたちの代弁者でもありながら、大人たちの代弁者たりえるところ。優しさがいっぱい詰まった温かい作品ですので、よければぜひ一度手に取ってみてください◎



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