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人から影響を受けやすいよね

感受性が良いことを褒めてもらえるのは、十歳くらいまでだと思う。
それを過ぎると、途端に「クサイ」「厨二病」と誹謗されがちだ。
豊かな感性から生まれたはずのイメージや言葉が、だんだんと周りの感性にそぐわなくなっていくのだろう。

私が十六歳の時、思春期らしく、親のことで悩んでいた。
親が過干渉で、好きなロックバンドのライブに出かけることができなかった。
同級生たちは、高校に進学した途端に髪を染めたり、彼氏彼女ができたりと、思い思いに遊んでいる。
それなのに私は、従順で真面目でなければならないと思い込まされていることに気づき、なおさら葛藤が生まれた。

従順でいることで、反骨精神や自立心が奪われていく。
そういったことを風刺する、皮肉っぽいロックミュージックは、ひときわ魅力的に映った。

その頃、同じ音楽ジャンルを好む、学外の友達がいた。年上の専門学校生だった。マイナーなバンドのイベントで知り合ってから、音楽の話題を中心につるむようになった。
きっと親から逃れたい気持ちをわかってくれると思い、好きなロックミュージシャンの歌詞について話したことがある。
しかし、思いがけず、トゲのある言葉をかけられた。
「ほんと人から影響を受けやすいよね」

まさか揶揄されると思わなくて、私は憮然とした。
反論すると、友達は「冗談だよ」と言ってかわそうとした。

それから徐々に、その友達は私を見下す言動が目立つようになった。
もともとその人は、日頃から遠方の家族につらいことを言われているようだった。友達は男女問わず多かったが、リストカットを続け、病院で睡眠薬を処方されていた。

今思うと、音楽によるメッセージを受け取ることができないほど、心が荒んでいたのかもしれない。
遠くから救いのメッセージを投げかける音楽よりも、福祉や医療などの身近な助力が、もっと必要だったのかもしれない。
それならその友達が、のんきに音楽の話をする私を、幼稚に感じていても無理はない。
私も甲斐性のない友達だった。

その友達は卒業後、アパレルショップに販売員として就職した。
私は早速、店を覗きに行った。そして、友達が勧めてくれたアウターを買った。シックな黒のロングコートが、私の趣味にぴったりだった。
そのことを感謝し、服を選ぶセンスを褒めると、友達はいたく嬉しそうにしていた。

それから友達はしだいに夜の仕事に飲み込まれ、連絡は途絶えた。
だけど、私の知らない世界を見せてくれる、とても大事な友達だった。

みずみずしい感性は財産だ。
心無い人に傷つけられたとしても、必ず息を吹き返す。
感性を曇らせず、人から良い影響を存分に受けたい。

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