AI対策でバスキアに助太刀を頼んだ
あてどなく、アート関連の動画をあさっている。
イラストレーター志望の相棒が、画像生成AIの台頭によって、自分の積み上げてきた知識や技術が水泡に帰すのではと、苦悩することが増えた。
SNSでは、他のイラストレーターの作品が、勝手にAIに学習され、イラストレーターが創作者生命を絶たれるようなことが横行していると耳にする。
もし相棒の作品も、悪意のある人に盗まれてAIに学習されたり、創作者生命を絶たれたりするようなことが起きたら、私も平静ではいられない。
なんとか活路を見いだすことができればと希望を持ち、私も情報収集をすることにした。
改めて見渡してみると、アートの分野は、深くて広大だ。
手段も媒体も、実に多種多様。水彩、油彩、日本画、版画、造形美術などなど。
キャンバスに直接描くベーシックなやり方もあれば、版画とドローイングをミックスすることもできる。
アーティスト自ら、精密機械を発明して、指で触れるプラズマを作りだしたり、自然そのものを使ってアートを実現したり。
ただの静止画と思っていたセザンヌの絵ですら、実はいろいろ仕掛けがあるらしい。とある角度から見てみたり、使われている色をすべてグレースケールにしたりしてみると、見た人の現実世界の見方すら変えてしまう。
そういう、日常生活に馴染んだ価値観や五感そのものを、根底から耕してくれるような作品というのは、芸術の真骨頂と言っても過言ではないだろう。
現代アートを調べている際、バスキアの絵についての解説動画を見つけた。
ジャン=ミシェル・バスキア。ブルックリン出身の夭折のアーティストは、しばしば頭蓋骨をモチーフにした絵を描いていた。
母親に買い与えられた解剖学の本を読み、医者ではなくアーティストを志したらしい。
バスキアといえば、アンディー・ウォーホルとコラボしてアーティスト活動をしていたそうだが、私みたいな門外漢にとっては、あまり馴染みがない。
名前だけは知っていた。「左ききのエレン」というジャンプの漫画に、「横浜のバスキア」と呼ばれる神出鬼没のアーティストが、すさまじい絵を建物に描いて立ち去るシーンがある。
つまりバスキアというのは、鮮烈なアートの才能の持ち主の代名詞なのだろう。
そのバスキアが、頭蓋骨を描いた作品「untitled」は、前澤友作氏に123億円で落札されたという話を、ネットの記事で読んだ。
この作品も、解剖学の本がベースの知識として、作品を下支えしているようだ。
と言っても、私にはこの絵は、男性が変顔しているような絵にしか見えない。頭蓋骨と言われれば、そうか、とようやく納得できる。
試しに私は、そのバスキアの絵の画像を、相棒に見せてみた。
「この絵の線、どれも考え抜かれて描かれたものらしいんですけど。この線について、何か感想あります?」
「黒いですね」
「他には?」
「太いですね」
私より、相棒の方が凡人なのだろうか……
質問を変えてみる。
「この絵、何が描いてあるのか、わかりますか?」
「ガイコツですよね」
この相棒の回答に、私は息を飲んだ。
私には変顔にしか見えなかった絵の真実を、相棒は見抜くことができたのだ。
相棒も、美術解剖学を地道に独習している。やはり、わかる人にはわかる、ということなのだろう。きちんとした教養や知識を持っていると、自然と目利きになるのかもしれない。
上っ面を真似たり取り繕ったりするのではなく、本質を見る。
アートを志す人は、えてして冷徹でなければならない。
そうでなければ、作品によって、見る人の価値観を耕すなどということはできないだろう。