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鷗外『青年』-主人公と先輩作家など-

作家志望の青年、小泉純一は上京後様々な女性と出逢います。

 また、友人との交際の中で、当時の思潮に触れ、議論に燃えます。


 今回は、純一が訪問したり講演で感銘を受けた作家などをご紹介します。

1.平田拊石(文士、夏目漱石がモデルか) 

 瀬戸に誘われた講演会で、当時の文壇において個人主義の大本とされていた、ノルウェーのイプセンの文学に関する拊石の話を聞いて、純一は感銘を受けます。淡々とした語り口で人の心を捉える巧みな話術も純一を魅力しますが、拊石の名を借りて鷗外の説を開陳しているとも観られます。

2.大石路花・狷太郎(文士、正宗白鳥がモデルか)

 今をときめく文人で、雑誌記者から、作品に込めた作者の意図を問われて、作中人物に語らしめている旨述べます。記事のネタをとりそびれた記者に同情。純一は故郷の名士の紹介状を持って大石の住居を訪ねますが、紹介状なるもののさして用をなさないことを悟らされることとなります。

3.高山先生(漢学者)

 宮内省に勤める同郷の漢学者で、仏典や書に精しく、純一も以前からその名は国でもきいていました。飄々としたところと、破顔一笑の時の無邪気が同居した不思議な魅力を湛える粋人として描かれています。座談での狸の話はほのぼの笑えます。

4.岡村(画家)

 坂井夫人を追った純一は、箱根の街で夫人と男性の二人連れのところに出くわします。その後、逗留先の旅館に夫人を訪ねたら、そこにも先客で岡村がいました。俗物的な言動の岡村に軽侮の念を抱く一方で、夫人の興を惹く様を見て彼に嫉妬に燃える純一でした。

5.毛利鷗村(鷗外自身がモデルか)

 作者が、自分を皮肉っています。しかもかなり辛辣で容赦がありません。「拊石の物などは多少興味を持って読んだこともあるが、鷗村のものでは、アンデルセンの翻訳だけを見て、こんなつまらない作をよくも暇つぶしに訳したものだ」などと純一に語らせるのです。鷗外も相当な天の邪鬼ですね。



*くにみちさんの画像をお借りしました。

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