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モーツァルトのセレナード『グランパルティータ』の思い出

 京都は四条烏丸の〈十字屋楽器店〉(現JEUGIA)で僕は次に買うレコードを選んでいました。
 店にいた大学生らしい、僕と同じ年頃の女性が店員にきいています。
「聴き始めてあまり経っていないので、何を聴けばいいのかよくわからないんです。おすすめのがあったら教えてください」

「これなどいかがですか、きれいな曲ですよ」と店員が女性にジャケットをみせながらこたえました。
 横目でちらっと見ると見覚えのあるジャケットではありませんか。モーツァルトのセレナード『グランパルティータ』。

「それ、いいよ!僕も持ってる」今だったら、店員と一緒になって、いや、店員そっちのけでぼくがすすめるかもしれません。でも、当時内気な大学生だった僕は、黙ってそのやりとりを聞くので精一杯でした。

 当時の小遣いが月5千円。レコードなど月に1枚買えるかどうかというところです。当時でも、2千円を超えていたと思います。
 そう思うとレコードやCDは、ほとんど値上がりしてないですね。相対的に随分安くなりました。まあ、いまはネット主体なのでどちらも流行りませんが。

 女性は買ったレコードを大事そうに胸に抱えて店を出て行きます。僕は彼女を追って店を出ながら「いい買い物したね!お茶でも飲みながら、音楽の話でもしない?」と声をかけました……というようなことはありませんでした。


 もう何十年も前のことになります。でも今も何故かあのことを忘れません。淡い恋のようなものだったのかもしれません。理系の学部で忙しく、しかも奥目いや、奥手の僕には付き合っている彼女もいませんでした……

 あの女性、今も聴いているかしら。モーツァルトの管楽セレナードK.361『グランパルティータ』(十三管楽器のためのセレナード)

 二つのメヌエット楽章をはさむ7楽章からなる、モーツァルト管楽セレナードの白眉。演奏は、ベルリンフィル管楽アンサンブル、名人たちが紡ぎ出す音楽にいつもため息とともに声が出そう。"ヴンダーバール"素晴らしい。

 このレコードのジャケット、二つ折りタイプで開くと60センチ以上。ザルツブルクはミラベル宮殿のきれいな庭園の写真が印象的でした。

 以前ご紹介した、廣部知久さんの著書『いつもモーツァルトがそばにいる。』では、特に4ページを割いてこの曲をご自身のエピソードを交えて紹介されています。熱が入っていますね。そのお気持ち察しますよ。


 聴くたびに、

 新しく美しく楽しくそして、懐かしい。

 モーツァルトを聴くことは止まりません。




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