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「行間」 岡潔の著作を読むなかで

いま、新潮文庫で岡潔(森田真生編)の『数学する人生』という本を読んでいて感じるのですが、文章の行間・余白というものについてです。


なお、岡潔(おかきよし)は、もう亡くなりましたが、世界的業績を残した数学者で、思想家でもありました。


最初にお断りしなければいけないのは、本書はまだ途中まで読んだばかりであり、以下記す内容もいわば一部の印象であることです。


さて、ここで言うのは、見た目の行間や余白ということではなく、いわゆる「行間を読む」ということで、表現上のことです。含蓄などの意味で言っています。


普通の文章と比べて数倍あるい十倍もの余白というものを感じます。


これを飛躍ということもいえるかもしれませんが少しニュアンスが違います。


ちっとも飛躍していないのです。岡潔という人の論理では全くひとつながりなのでしょう。


我々は天才はありませんから。


われら凡人が感じるのが「余白」であり「飛躍」なのでしょう。


一般的には、学術系の書物はもちろんでしょうが、普通の本でも、何か説明するときに、論拠を筋道を立てて述べるでしょう。


それでこそ我々は理解できるので、過程を省略していきなり結論を提示されてしまえば決めつけられた感じがして嫌だし、理解するのも難しいです。


そういう意味で、岡潔の文章は難しい。わかり難い。もう少し説明してほしい。補足してほしい。背景を教えてほしい。特に私のような凡人には。


でも、あえて言えばそんなものはちっとも親切ではありません。逆に不親切かもしれないのです。


自分で考えなさい。そう岡潔は言っているのかもしれません。


また、岡潔の文章には宗教上の教義や用語もよく出てきます。特に禅ですね。


禅の影響や、表現の極北ともいえる俳諧の影響もありです。詩的な表現も感じます。


世間ではよく、悟りなどは、教えてもらうものではないし学ぶだけでも到達できないといいます。


厳しい修行の積み重ねの中で突如感得解脱する、ということなども耳学問で聞いたのですが……。


また、俳諧も五七五の極端な制約の中に大宇宙を表現する可能性を感じます。


そして、一般に散文ほどなじみのない韻文としての詩の世界があります。



ちょっと話が飛びますが、例えば、映画のことを例にすれば、エンターテインメントとして中には素晴らしい作品があります。


その反面、俳優やロケーションなどイメージが与えられた世界です。また、映画の速度に乗って一定の時間内に進行します。仕切るのはプロデューサーや監督、プレゼンターも絡むかもしれません。


この世界は見る側の、想像力の賦活する余地は限定的になることが多いでしょう。


映画を見る場合と比較して小説を読む場合を考えると、読む側の想像力やイメージ描出力の必要性は格段に増します。


つまり、極端に単純化してこちら側の読む力や汗の必要性の大小を比較すると、おおざっぱに言えば


映画≪≪小説≪≪≪≪岡潔


という≪式≫が成り立つのではないかと思います。


ただ、ここで岡潔のはげましともいえる言葉をご紹介します。


わからないものに関心を集めているときには既に、情的にはわかっているのです。発見というのは、その情的にわかっているものが知的にわかるということです。「『最終講義』懐かしさと喜びの自然学-知、情、意」より


わかっている→わかる、を目指したいと思います。



岡潔の文章が嫌いかというとそうではありません。


上に引用したことばを自己流にはげましと解釈して、なんとなくでもわかる気がするのです。


そうなるといわば、凡人として「行間」「余白」「飛躍」を味読する贅沢を感じるとでも言いましょう。


現代のマス的な表現空間を観察すると、これこれしかじかの原因は、これこれしかじかであって、またその意味はこれこれしかじかであるという論調です。


まことに論理と科学的の世界で因果関係が叙述されていき、そこには無駄もなければ寄り道もなく、どこまでも続く一本道のようです。


今、世界で起こっていることに関するニュースや映像情報や論説においてはそのようでなければ人は納得しない面があると思います。


もちろん、そのような在り方は間違っているとは思いません。


でも、少し息が詰まるというか、理詰めに傾きすぎるというのが、人間という存在の本質からすると適しているのだろうかと疑念をもつのは私だけでしょうか。


このような現実は、私たちにとって十分に幸福なことなのでしょうか?




引き続き岡潔の著作を読み進めていき、そのようなことについて考えていきたいと思います。



※Aikotobuki_Myさんの画像をお借りしました。








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