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読書びより

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2023年1月の記事一覧

『人間の建設』No.15 数学も個性を失う №3

 小林さんが、前段の対話で出た、数学の個性という問題について、数学者岡さんの世界に対象を絞ってなお聞いていきます。  に対して、岡さんが「私の」「それしかない」と明確な言葉で返しています。数学こそ個性の発揮される世界だといわんばかりに。  私ごとですが、学校時代あまり数学が得意といえず、むしろ苦労した口です。このような凡人レベルでは個性も何もあったものではありませんね。  さて、そんな凡人読者にもわかりやすいように岡さん、もう少しかみ砕いて、詩の世界になぞらえわかりやすく

『人間の建設』No.14 数学も個性を失う №2

 岡さんがいう「内容のある抽象的な観念」とはどんなものなのか。  辞書によれば「抽象的」という言葉の意味は、多くのものの中から共通するものを抜き出し、一般化して考えることです。(肯定の意味合い)  もう一つの意味は、物事の実態や実際の姿から離れていて、具体性に欠けるというものです。(否定の意味合い)  つまり、言説や理論がものやことに沿っているかいないか、具体性に準拠しているかどうか。と考えれば少し見えてくるかもしれません。(※1)  抽象化の度合いが過ぎたり、抽象の上に

岡「自然は何を見ても美しい……ありのままにかきさえすればいいのだ。そのためには、心のほしいままをとってからでなければかけないのだ、そういうふうになっているらしい。この松は枝ぶりがよいとかいけないとかという見方は、思い上がったことなのです。それではほんとうの絵はかけないらしい」

岡「近ごろの小説は個性がありますか」 小林「やはり絵と同じです。個性をきそって見せるのですね。絵と同じように、物がなくなっていますね。物がなくなっているのは、全体の傾向ですね」 岡「世界の知力が低下しているという気がします。日本だけではなく、世界がそうじゃないかという……。」

『人間の建設』No.11 国を象徴する酒 №3

「日本酒」からはじまった話題。ここでは、岡さんが小林さんに批評家の資質について質問しています。  ここで、詩人とは、肩書きないしなりわいとしての詩人を言うのではなく、精神のあり方を言っているのだと思います。  に対して、小林さんが肯定しています。つまり小林さん自身も、詩人というわけではないが、その精神で以て仕事をしているということでしょう。  岡さんが、批評の本質について「直観と情熱」といっています。つまり、詩人というものの精神のあり方・態度が本質的にこの二語に集約される。

『人間の建設』No.12 国を象徴する酒 №4

 批評の本質という話で、岡さんが「直観と情熱」といい、小林さんが「勘」とも言いました。それを受けてここでは岡さんが掘り下げていきます。 「勘」は単なる偶然ではなく、知力であるといいます。批評は無論のこと創造のはじまりには「勘」というものが働いているというのですね。勘が作品に触れてなにものかをさぐりあてる。と、自己の主観がそこに光を当てて文章なりなんなりを紡ぐ。そうすると新しい意味を持った内容が生成されてゆく。  岡さんが『春宵十話』という自分の随筆を、小林さんに批評しても

『人間の建設』No.13 数学も個性を失う №1

 絵や小説の個性、酒の個性から今度は、数学と個性の話題に移ります。 「数学の抽象化」とはどういうことかと小林さんが聞いたら「観念的」とまるで禅問答のように岡さんが答えます。に対して、小林さんが「わかりません」と、もう少しかみ砕いた、わかりやすい説明を岡さんに求めました。  数学の抽象化ということを、小林さんは、自分ではおそらく理解していたのかもしれません。でも、われわれ読者を置いてきぼりにしてはなるまいと、この言葉も持つ深い意味を理解できるよう、岡さんみずからの言葉での解説

小林「文明国は、どこの国も自分の自慢の酒を持っているのですが、その自慢の酒をこれほど粗末にしている文明国は、日本以外にありませんよ」 岡「日本は個性を重んずることを忘れてしまった」 小林「いい酒がつくれなくなった」 岡「個性を重んずるということはどういうことか、知らないのですね」