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三島由紀夫「孔雀」

難しい作品ではない。

かつて美少年だった男、富岡は今では「むかしの富岡の拙劣きわまる戯画」のような存在に成り下がっている。
富岡はまた、孔雀の愛好家でもある。

刑事が富岡の家にやってくる。「M遊園地」で大量の孔雀が殺されたのだ。刑事は富岡に嫌疑をかけている。

最後、刑事と富岡は遊園地のなかに入る。
そこではかつて美少年だった頃の富岡が孔雀を殺していた。

三島の「美」を巡る哲学は読んだ人なりに感じると思うのでここでは扱わない。

一つ言えるなら、「孔雀」は視点が「刑事」と「富岡」に分かれていて、今一つ集中力がない。主題や、「孔雀殺し」など、ぱらぱらと面白い部分はあるが、とにかく三島の作品に対するグリップ力が落ちているように感じる。

1965年、三島由紀夫40歳。

(追記)醜いものを生きながらえさせるための美しさ、という主題は「三熊野詣」や「朝の純愛」といった短篇を通して、「豊饒の海」(特に第三巻以降)まで続く後期三島の主題と言ってもいいように思った。


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