見出し画像

着物、はじめました。(その14・続ほんとーにあったコワ〜イ?話)

さて、そんなわけで。
ようやくローンの契約をする段階までこぎつけ、そこの呉服屋と提携してるという「〇〇ファイナンス」とやらの書類に名前などを書き込んでいたら。

「お客様っっっ!!!」
またしてもヒカキンが、なにやら手に反物を携えて近づいてきた。
「こちらも是非見て頂きたいんですっ!!これ、〇〇織の薄羽織の反物なんですけどねっ!!」
「・・・・・・・・・。」

・・・・この、激しい「推し」は、一体いつまで続くのであろうか?
呉服屋無限ループ。これではいつまでたっても帰れない。

「絶対一枚は持ってて損はないと思うんです!!こちらっ!!京都の〇〇という織元さんの所で作られてる有名なものでして!!」
シックな色合いの、エレガントな花柄の薄羽織の反物である。
「で、お値段はこちらになるんですが・・・」
スッと差し出されたその値札をチラと見て・・・・・私は、「新婚さんいらっしゃい」の桂三枝みたいに椅子からひっくり返りそうになった。
「ちょっと!!!ひゃくまんって!!!」
あまりにもアホみたいな金額に、私は呆れて笑い出してしまった。
「ええ!!ですからこちらも、もっちろん大幅にお値引きさせて頂きます!!ですからいかがでしょう、今回選んで頂いた着物と帯にピッタリだと思うんですが〜〜〜〜!!」
確かにヒカキンの言うように、グレーとグリーンが混ざったみたいな色合いの薄羽織はトータルコーディネートとしてはバッチリだ。が、しかし。
私は花柄は好きではなかった。
というか、元よりそんな、非現実的な値段のものなんて買う気にならない。
「せっかく紹介して頂いたんですけど、ちょっとこちらの商品は、今回は遠慮させて頂きますね」
そうはっきり断ったのだが、しかし。
すかさずヒカキン、サッと畳の上に正座。
椅子に座ってテーブルで書類記入する私よりも下の位置から、
「いやいや、ほんとにこちらの商品、絶対絶対お買い得ですので、本当にこの機会を逃すのは・・・・!!」と、頭を下げつつ商品を「爆推し」。
そして、そんな態度に出てるヒカキンを見てか、今度は別の店員までもが「番頭さん風になめらかに」正座して、一緒になって「是非是非、本当に是非!!!」と、一丸となって頭を下げ始めた。
・・・・はっきり言って「下から圧」をかけられるのは(しかもダブルでの重圧)、本当に迷惑だ。
大抵の人は、こういう懇願には辟易するはずである。
それで「どうしても断りきれず、つい・・・・」と折れてしまうのが、よくあるパターンなのだろう。
しかし。
その時の私は、もういい加減イライラしていた。
そして、元より体質的に「S」である。
「ちょっと!!!」私は、かなり強い口調ではっきり言った。
「早く帰んないと、家で留守番してる夫に怪しまれるんですよ!!また余計なもん買ってんじゃないかって!!!」
私にそう言われて、ようやくハッと我に帰ったヒカキン。
「ああっっ、そうなんですよね!!そうですよね、皆さんお買い物される時は、ご家族には内緒で買う方が多いんですよっっ!!!」
思わずぽろりと出た内幕に、私は「なーんだ、みんなそうなんだ」と、ついつい爆笑してしまった。

画像1

そんなわけで。
ようやくこの無限ループから解放されて、とりあえず明日、「私の着物の寸法をメール」および「引き落とし銀行口座番号が書かれた書類を郵送」する事になり。
色々めんどくさい事もあったが、帰り道の私はルンルン気分だった。
頭の中で、何度もあの帯と着物のコーディネートを思い出して、悦に入った。

・・・・・・・・・・・・が。

帰宅し、時間がたつにつれ「・・・・・ほんとに2年もローンなんて組んじゃって大丈夫なんだろうか・・・・」という思いが頭をよぎり始めた。
こんなコロナ渦で、仕事なんてこの先どうなるかも分かんないのに・・・・それに、いくら素敵とはいえ、あんなお高い商品、私の生活とか、身の丈に合ってる・・・???そういう帯や着物を心から愛せる・・・???

とりあえず、一晩、頭を冷やしてみよう、と思った。
この心のザワザワがどうなるか、様子を見てみようと思った。
そして、翌朝。
心のザワザワは、ますますザワザワしてて、しかも、心臓もドキドキし始めていた。これは「良くない予感」である。
それで、何か憑き物が落ちたような気分になって、私は決断した。
「やめよう。今回のこの契約はキャンセルしたほうがいい」

一瞬、「キャンセルなんて出来ないかも?」と思ったが、しかし、こちらはまだ、着物の寸法を伝えてないから、生地にハサミは入れてない状態なはず。そして、銀行口座も教えてないから、引き落とそうにもお金は引き落とせない。クーリングオフなんて制度もある事だし、とりあえず「もうええわ!!」と覚悟を決めて、ヒカキンにメールで、キャンセルの旨を伝えたのだった(なんか、直接言わないのもちょっと姑息だなぁ〜とは思ったが)。

さて、その後。1週間たってもヒカキンからは何も返事がなかった。
「多分、キャンセル受け付けたんだ!!」
あまりにあっけない幕切れに、私はホッと胸をなでおろし、「先日のアレは、とにかく勉強みたいな経験だった」という事にした。
そして、それからさらに数日後。
気がついたら、携帯電話にどこからか留守電メッセージが入っている。
誰からだろうと思ってハナクソほじりながら聞いてみたら・・・・・
「うわぁぁぁーーーーっっ!!!!!ヒカキンからだぁーーーーーっっ!!!」・・・・そのメッセージ曰く。
「もう一度お話させて頂きたい!!」との事である。
いやいや、直接話したら、また無限ループに陥るのがありありと目に見える。そちら様側からすれば、私もロクでもない客だっただろうけど、でももう、いい加減勘弁して欲しい。
ショートメールで「キャンセルの気持ちは変わらない、これからは何かあったらメールでやりとりさせて欲しい」という内容を返信した。
それで終わりだと思った。
・・・・・が。

それから数日後、見慣れない番号から電話がきた。
誰だろうと思って、よせばいいのに出てみたらこれが。
例の呉服屋からであった。
しかし、声がヒカキンではない。別の人物だ。その別の店員が
「うちの〇〇(ヒカキン)が、アビコ様ともう一度お話をしたいと言っております!!できれば再度、ご契約について考え直して頂けないかと・・・・」
・・・・・しつこい。本当にしつこい。
何度も言うが、私も客としてはろくでもなかったと思う、しかしとにかく、そっちも相当にしつこすぎる!!
それで私もついに・・・・・・・・・・・静かに、キレた。
「あのですね・・・・・今後は全て、やりとりはメールでお願いしますって伝えてあるんですけど・・・・・・・(怒)」
私の(怒)が、スゥ〜〜〜っとあちら側に伝わったのだろうか。
その店員は「申し訳ありません」と謝罪して電話は切れた。
そして。それから連絡は一切こなくなった。
・・・・・ゴメンね、ヒカキン(テヘペロ)。

というわけで、これが、私にとって初めての「呉服屋展示会顛末記」である。今後私が、こういったホテルの催事場とかでやる展示会に、脚を運ぶ事はないだろう。今回は、たまたま、何も知らずに「丸洗い半額」につられて出向いてしまったわけだが、まぁ、これも勉強か。
「痛い勉強代」を払わずに済んだのは、運が良かったのかもしれない。

とはいえ、「呉服屋さん」全てがコワイわけではない、というのは皆さんもご存知だと思う。ただ、コワイかどうかの見分けの付け方は、いまいち私もよく分からなかったりする。
イメージで言えば、着物雑誌「七緒」で紹介されてるような呉服屋さんは、あんまりコワそうには見えないなー。
あと、着物の先輩からオススメの呉服屋さんを教えてもらうのもいいと思う(実は私にも、そんな先輩から紹介された、懇意にさせて頂いてる呉服屋さんがあるのだが、今回は「丸洗い半額」にヨロけて、結果、こんな目に・・・・・)。

というわけで、今後、呉服屋さんに欲しくない商品を爆推しされるような事があったら、是非、ドSの女王様になったつもりで「NO」を言えるようになる事をおすすめします。なにしろあの、正座されての「下からの圧」って、まじで凄いから(笑)。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?