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『ミッション・インポッシブル』/変装、裏切りの暗い魅力(映画感想文)

『レインマン』(88)と『ア・フュー・グッドメン』(92)でやられた。以来トム・クルーズが好きだ。美しい妻ニコールと別れたときもサイエントロジーでおかしくなっていたときも、ソファで飛び跳ねるクルーズを見ても嫌いにはなれなかった。心底心配はしたけど(パット・キングスレイのチーム離脱が彼にとって最も不味かったのだと思う)。

「スパイ大作戦」についてはかつてそういうテレビシリーズがあったことくらいしか知らなかった。
96年に『ミッション・インポッシブル』が公開されたときは期待に胸を膨らませて観にいき、そして寝た。
映画はそれなりにヒットしていたように記憶しているが、評判はそれほどでもなかった印象。ただし、のちに『M:I2』(00)が公開されると今度は大ヒット。シリーズ化が決定的になり、クルーズの世間での評判の浮沈に関わらずいまも新作は制作され続け、クルーズの最も成功したシリーズになっている。僕は、どこまで観たんだっけ、…。『ゴースト・プロトコル』(11)で飽き、それでも『ローグ・ネイション』(15)は惰性で観に行き、ついに『フォールアウト』(18)は足を運ばず長い間未見のままだった。このあとのシリーズについても、もう胸を躍らせてわくわく期待しながら待つということはない(いよいよ今月末には新作も公開されるが)。クルーズが嫌いになったわけではない。
アクションのためのアクションに飽きた、…というか、何を見せられているんだろう、とはたと思ってしまったのだった。まず、ブルジュ・ハリファありき? 赤の広場があっての発想? イーサンの緊張の方が観客のドキドキよりも優っているやんけ。

スパイ映画を作るとなればどうあっても製作者たちはイオンの「007」シリーズを意識せざるを得ないだろう。ボンド映画が単独で活躍するひとりのスパイを描くのに比し『ミッション・インポッシブル』は常にチームだ。オリジナルがそうであったからだが、シリーズが進むにつれより「チームであること」が物語の根幹に関わる要素になっていく。チームで物事に当たる、チームだからこそ不利な窮地でも助けにむかう(ことでドラマが本筋と関係のないところでスリリングになる)、チームのなかに裏切りものがいるというサスペンスも生まれる。
ボンドなら怪しいやつはすべて殺して問題を無化するだろう(『スペクター』が残念なのは後半でチーム感が強調されてしまったことだ。ボンド映画との差異化に腐心していた『M:I』をボンドが真似てどうする。そうじゃないんだよ、…)。

かつて劇場でぐっすり眠ってしまった『ミッション・インポッシブル』を観直した。
監督がデ・パルマであることは当時も知っていたが、やはりトム・クルーズの映画だ、以前はそう思い臨んでいた。今回ひさしぶりに観直してみたら冒頭からしっかりデ・パルマ映画である
「クルーズ=スパイ映画=デ・パルマ」という連想はどこから生まれたのだろう? 邪推だが「ボンド=コネリー=『アンタッチャブル』(87)=デ・パルマ」だったのではないか。ネスとマローンが出会う橋の上の場面、マローンが殺されるあの夜、裁判所の屋上でのネスとフランク・ニッティとのやりとり、…。静かで暗い陰のある場面の再現を、クルーズはデ・パルマに期待したのではないだろうか。そしてそれは成功している。たとえ近代的なロケーションや秘密兵器に囲まれていても、陰鬱な歴史を背負った東欧の景観に頼るところがあるとしても、デ・パルマ的な歪でネガティヴな空気がこの裏切りと不信に満ちた物語には合っている

物語は冒頭から小さな謎に満ち、クルーズ演じる主人公イーサン・ハントは事件が転がり始めてからは一時として油断する隙間がない。変装、裏切り、狡猾な罠。新しくスカウトして組み込んだ仲間も信頼し難い。しかしだからこそのスパイ映画といた趣で飽きさせない(なんで劇場で観たときに寝ちゃったんだろう?)。

続く『M:I2』は別のテイストだが俎上で見事にジョン・ウーに調理されたクルーズはまた新たな(ベタな!)カッコよさを体現していた。それはいい。しかし以降、この一作目の暗い裏切りに満ちたテイストは失われていく。これはハリウッドの病気だろうか? 
ハリウッドのスタジオ映画が大好きな僕でも、このシリーズと、あんなに素晴らしかった『アウトロー』(12)の続編(『ジャック・リーチャー/NEVER GO BACK』(16))の奇妙としかいえない既視感のある大作化にはなんともいえない寂しさがある。心の機微や見えない知的なやりとりのサスペンスは失われ、同じような傾向の最後は爆発で終わるお決まりのアクションしかスタジオは資金を出さないのか? それもシリーズの続編として成功が担保された、ヒット保険の掛かっている作品にしか。
一作目の『ミッション・インポッシブル』を観ながら、ここには既に失われてしまったオリジナリティ溢れる良さがいくらも詰まっていることを発見し、ちょっと複雑な気分になった。
スパイ映画の醍醐味って? 裏切りに対して怯えることじゃないの?

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