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不安があふれている現在だからこそ、 「The 洗脳」を読む。


「自分を変えたい」
「自分の存在意義を知りたい」
「人に役に立ちたい」
「弱いところを克服したい」
「行き詰まっている社会をなんとかしたい」

と、悩んでいる若者たちがいた。
彼らはオウム真理教の信者だった。

偶然にKindleマンガでこの怪しいカバーのマンガが視野に入った。

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「あれ?この人ってオウム真理教の元教祖じゃない?!。
まさか、オウム真理教がやったことを正当化するマンガじゃないよね?!
このマンガを読んだら、まさか何か怪しい教義に洗脳されないよね?!」

 オウム真理教は6000人の負傷者を超える地下鉄サリン事件を起こした邪教だったと中国で日本語を勉強している際にも必ず触れる内容だった。事実として知っていたが、なぜこのような悲惨事件が発生したのかなど、詳細を知るチャンスはなかった。
 今、新型コロナの影響で休業している中、自分自身が正直に今後どこに向かうべきかをより真剣に考えるようになり、「自分の存在意義はどのこにあるのか」、「これからどんなことをやればもっと社会に役立てるのか」と考えるようになってきた。
 このようなタイミングでこのマンガが現れ、心がザワザワしながらも読んでみました。

1989年11月4日 教団と対立する弁護士一家3名が殺害される事件。
1994年6月27日 7名がなくなり、600名が負傷した松本サリン事件。
1995年3月20日 12名がなくなり、6300名が負傷した地下鉄に猛毒サリン事件。
それに、教団内で5名が殺され、行方不明者は30名も超えている悲惨事件。

 これらの世界を驚かせた痛ましい事件を起こしたのは麻原彰晃が代表していたオウム真理教。オウム真理教はかつて80年末から90年代まで日本の新興宗教団体として存在していた。超能力開発ためのヨガ教室からスタートしたが、その後、化学兵器の開発で武装化し、一連の殺害事件を起こした殺人集団まで暴走した。

 オウム真理教は、一体、なぜ殺人集団まで暴走したのか。
 元教祖の麻原彰晃は自分の手を汚さず一連の凶悪事件を起こした。
 協力した人の中では名門大学卒業のエリートたちもたくさんいた。麻原の洗脳手法はどこにあるのか。

 人の心を研究する岸正龍と漫画家の森園みるくが対談のような形で
心理学の分析を加えながら詳しく語ってくれたのがこの3冊のマンガ。

 麻原彰晃が代表していたオウム真理教は殺人集団まで暴走した理由は以下の3つと密接不可分と私は読み取れた。
1つ目は、超能力を信じる時代背景。
2つ目は、麻原彰晃(本名:松本 智津夫)の子供時代に覚えられた劣等感。
3つ目は、麻原彰晃のうまい心理操作。

では、具体的に見てみよう。

〜時代背景〜

 オウム真理教は超能力を開発するヨガ教室からスタートし、当時の若者たちを勧誘していた。

 「ちょっと待ってーーー!!超能力を手に入れられると信じて入信するのはありえないじゃない?!」と皆様は当然のように怪しく思うよね。

 だが、1985年の当時は状況が違っていた。1985年頃はバブル突入する直前で、多くの人は自分の快楽のために、バブルの如くお金を遣い、楽しく生きるしか考えていなかった。その一方、このような風潮についていけない生き辛さを抱えている若者たちがいた。彼らは超能力開発ヨガ教室に勧誘され、その後オウム真理教に大きな影響をもたらした人も少なくはなかった。

 「生き辛さを抱えている若者はどんな時代もいる。なぜ、彼らは超能力に着眼したんだろう」と疑問があるよね。

 その答えは、1970年代にあった。1970年代は日本の高度経済成長期で生活は豊かになっていたが、人々の心が置き去りにされていると感じる人も増えた。
 そんな人の心のスキマに入り込むように現れたのがオカルトだった。1973年もオカルトブームの幕開けと言われ、「ノストラダムスの大予言」や「1999年に人類は滅亡」の話が出たり、心霊番組なども数多くテレビに放送され、当時の小学生の間にキッズカルチャーとして広まっていた。
 そして、1985年に1970年代のオカルトブームの中で育った小学生たちは大学生や社会人になり、彼らは「神秘的な力」に不信ではなく、興味をもつようになった。このような時代背景で育てられたからこそ、神秘的な力に憧れを抱えている若者たちはすんなりオウム真理教に入信してしまい、その後麻原に自由に操られていた。

〜麻原彰晃の生い立ち〜

 麻原は先天性緑内障で右目のみ少し見える程度弱視だった。貧乏の家で生まれ、7人兄弟の4男だった。
 最初は普通の小学生に入学したが、その後、親に盲学校へ転入させられた。盲学校に転入させられた理由は親が自分の目を配慮したのではなく、口減らしと奨学金目当てだと知らされた。親に捨てられ、嫌われた悲し思い出がまだ子供頃の麻原に根付いてしまった。この気持はその後、同級生を支配する快感に変わり、お金、権力、地位に対する興味も小学生から持つようになった。
 例えば、小学生の頃に麻原はロボットに夢中で「ロボット帝国」を作りたいと語っていた。先生にその理由を聞かれたときに、「ロボットは人間の何百人分も力持ちで文句も言わずに働いてくれるから、そんなロボットをたくさん作って僕の思い通りに働く帝国を築くんだ」と答えた。また、小学部5年生のとき、児童会の会長に当選するため、寄宿舎に出るお菓子をためて「よろしく」ってみんなに配った。しかも配ったお菓子は他の児童から奪ったものだった。結果は落選だったが、落選の原因は自分にあるのではなく、先生がみんなに「票を入れるな」とわざと落としたと疑っていた。
 その後、中等部高等部と生徒会長に立候補してどちらも落選で、寮長の選挙にも落ちていた。地位や権力への強欲があるのに、人望がなくそれを手に入れない。
 小さい頃から親に捨てられた屈辱、ずっと周りから認められない劣等感と怒りがおそらく、麻原が狂っていく原点だろう。

〜心理操作〜

超能力に興味を持つ若者たちが1980年代に数多くいたと先ほど少し触れた。このような時代背景を利用し、彼らを勧誘し、さらに殺人まで協力してもらうのは麻原の心理操作のすごさ。

いくつを見てみよう。

■「ブライミング効果」の活用
※プライミング効果とは、事前に見聞きしたことがその後の判断や行動に影響を与えること

 当時、超能力を訴えるため、麻原は「空中浮遊写真」を使って雑誌の表紙に掲載していた。この写真によって、超能力を目に見える形で、当時超能力に憧れる若者の心を捉えていた。

図1


 ただ、雑誌の一枚の写真に惹かれても、歴史も背景もないオウム真理教に入信するまではいかないだろう。実はそこで、もう一つの心理術を使っていた。

■「ハロー効果」の活用
※ハロー効果とは、人間の心理の1つで、対象物に対して後光を感じ取ると、対象の印象を歪めてしまう心理現象を指す。
 例えば、政治家の選挙演説に好感度の高い俳優が応援として参加すると、政治家が掲げる政策と俳優は全く関係ないにも関わらず、人は「あの俳優が応援しているんだから政策内容も良いに違いない」と思ってしまう傾向にある。

 空中浮遊写真を使うことで、美味しいエサにすぎない。歴史も背景もないオウム真理教に信頼してもらうため、さらに工夫しないといけない。
 そこで、麻原はチベット仏教法王との面談をアピールなど、外国の高僧や知識人からの高い評価をPRしつづけた。
 また、勧誘役も口がうまいイケメンや美人を活用し、超能力に憧れの若者たちを勧誘していた。さらに、勧誘してきた若者たちに予め決められたコース:ヨガ→呼吸法→瞑想→解脱に進んでもらえれば、必ず解脱するというプロセスを可視化した。つまり、目標を細分化し、小さな目標を達成する体験を積み重ねながら、最終目標に近づいていくということを示した。(行動療法では「スモールステップの法則」とも呼ばれている)

■「トンネリング」の活用
 では、オウム真理教はなぜ殺人集団に発展したのだろうか。
 実は1989年11月教団と対立する弁護士一家3名を殺害する前に、すでに殺人を行った。一人の信者は突然正気を失って死亡したが、教団がそれをばれないように正当化し隠蔽した。また同年の2月に、脱離しようとする信者を他の信者の手を介して殺害した。

「なぜ信者たちはみんな平気で殺人ができるのだろうか。人を殺すというのは恐ろしいこととは思わなかっただろうか」と今は当然のように思う。

 実はここで心理学で「トンネリング」という心理効果が働いていた。
※トンネリングというのは、トンネルの中にいると外界が見えなくなるように、何かに集中しているがゆえに他のことに意識が回らなくなっている状態を指している。
 この状態に入ったら、外部の世界からの遮断と視野を狭くさせるという2つの効果がある。

つまり、オウム真理教は信者に何の光もない真っ暗なトンネルのような環境に勧誘し、外部世界からの情報を遮断させ、視野を狭くさせた。そして、トンネルの奥の方に出口を示す一点の小さな光だけを見つめさせ、「安心」と「希望」を与えた。しかし、この「安心」と「希望」は実は殺人も正当化される恐ろしい「救済」だった。

「魂を高い世界に転生させるためには積極的にその魂の持ち主の命を奪っても構わない」と、殺人が正当化された。

 他にも、コールド・リーディングなどいろいろな心理操作のテクニックを使われたとマンガでは説明していた。
 この漫画の着地点はオウム真理教が使われた心理操作のテクニックを客観的に説明するのではない。結局、人は信じてしまう理由は他人がいかにうまく心理操作のテクニックを使ったのではなく、自分から信じることを選択したのだ。

マンガの最後に、欧米の銀行業界全体を崩せるほどのイギリスの詐欺師の言葉を借りて、こう説明した。

「誰もが己の願望のためには進んで何かを差し出すものだ。」
(Look, everyone is willing to give you something. They're ready to give you something for whatever it is they're hungry for)

 オウム真理教の場合は、原案の岸正龍が「誰もが己の願望実現のため、あるいは不安を消し去るためにはすすんで何かを差し出すものだ」と言い加えた。

 無論、願望と不安は生きている限り誰でも持っているものであり、それ自体が悪くはない。むしろ人生の原動力でもある。しかしながら、それを自分で解決しようと考えずに、安易に他人に委ねたら、操られ、騙される危険性が高くなる。


 改めて、オウム真理教が起こした悲惨事件をみてみよう。
「教団と対立する弁護士一家殺害事件」「松本サリン事件」「地下鉄サリン事件」を始めする一連の事件で29人死亡し、負傷者は6000人を超え、今になって苦しんでいる人もいる。教団内でも判明しているだけで5名が殺され、死者・行方不明者は30名も超える。

 マンガを読み終わって、顔の表情はどうしても晴れなかった。
 一見マンガのカバーから怪しげだったが、外国人である私にも非常に分かりやすい内容で、「なぜ」オウム真理教はこれらの事件を起こしたのかをいろいろな角度から知っただけではなく、悩んでいる自分自身に一つのアラートにもなった。

ぜひ、皆様にも読んでほしい。

参考資料:
ブライミング効果
https://drm.ricoh.jp/lab/psychology/p00015.html
ハロー効果
https://ferret-plus.com/3672


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