見出し画像

武蔵野線に揺られながら。

電車に乗っているとふと、あの日のことを思い出してしまう。

4月からはもう新しい職場だ。もう間違って出会わないように、転職もして、住む場所も変えて、一緒にいる人も変えて、私のすべてを無に解するように、リセットという偽物でフル装備を決め込んだ。好きで好きで仕方のなかった君を忘れてしまうために。今は、そうインフルエンの熱で武蔵野線に揺られながら帰路につく。平日の日中のせいか、風が強いせいか、車内はガラガラで車内に乗る人の顔は全部把握できるほどに。

熱にうなされながら、真向かいに座る男性に目を向ける。ああ、かっこいい。とっても好み。どうやら、私のイケメンセンサーは熱ではやられてないらしい。それなりの強度はあるらしい。実にアホである。

しかし残念なことに熱にうなされている私は下手に動くともできずに、その彼を眺める。やはり、いい男だ。元気だったら絶対にアピールしているかもしれない。

でも、どこかで彼とは、見たことがあるような気がする。んー。気のせいだろうか。

見覚えのある髪型、見覚えのある指先、見覚えのある体格、見覚えのある輪郭。どっかでみたような。まだ思い出すことができずに、電車に揺られること30分。一度くらい、彼と目が合ってもおかしくない。でも、一度として目が合わない。変だ。

なぜなのだろう。彼は携帯電話を眺めたまま、顔をまっすぐに私の方に向けることはなかった。

続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?