壊音

満月はおぼろに霞み

波音だけが執拗に繰り返す

秋の虫が鳴き

また生温かい夏の風がそよぎ

何度も揺り返しながら

季節が移ろう

赤ちゃんはどうやって言葉を覚えるのか

果てしなき音の洪水の中から

母の放つ意味を持つ音声だけを切り取るために

脳細胞が震えて反応しているのは

音節なのか音素なのかの論争で

君はスマホの中に

僕の知識を凌駕できる叙述を探しつづけ

ついにすべてが音素に分解され

だ行の不規則性に日本語がねじれる

分解したひらがながシャボン玉のように闇に浮遊する

さようなら

けっして通じることのないすべての言葉

さようなら

脳髄の走馬灯

波音だけが執拗に繰り返している

もしも心動かされた作品があればサポートをよろしくお願いいたします。いただいたサポートは紙の本の出版、その他の表現活動に有効に活かしていきたいと考えています。