『倶舎論』(くしゃ・ろん)をめぐって

イントロダクション

『倶舎論(くしゃろん)』は、仏教研究者や仏教マニアには、お馴染(なじ)みの書物です。しかし、世間一般では、知らない人の方が多いでしょう。かくいう私も、当初は『倶舎論』の食わず嫌いでしたが、ふとしたきっかけで、調べてみると、面白い書物だったのです。どこが、どう面白いのか。これから、話してみたいと思います。

はじめに、ごく初歩的な情報を、ほんの少しだけ、お知らせしておきましょう。『倶舎論』は、元々、インドで4-5世紀頃書かれたもので、原題をアビダルマ・コーシャ(Abhidharma・kosa)と言います。このコーシャを音訳したのが、『倶舎論』です。作者は、漢訳名、世親(せしん)。原語名、ヴァスバンドゥ(Vasubandhu)という人です。仏教では、ビッグネームの1人で、世上、評判の高い「唯識思想」(「すべては、心が作り出す」とする考え)の完成者と言われています。日本の奈良、興福寺には、異母兄弟の無着と並んで、見事な立像が置かれていて、世親の影響は、日本にまで及んでいることがわかります。『倶舎論』の内容を一言で言うと、「アビダルマ」と呼ばれる仏教哲学の集成(コーシャ)です。哲学を扱うのですから、難しい書物ですし、あまり楽しいイメージも湧きません。今も、その難しさに頭を悩ませている1人ですので、これからお話しすることは、私でも理解可能なこと、そして面白いと思ったことです。誰でも『倶舎論』に親近感を抱けるように、様々な角度(かくど)から、話題を提供したいと考えています。それを踏まえて、本格的な考察に入るつもりです。

 


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