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医薬品広告の規制とは(CASE-J試験を踏まえて)

医薬品を宣伝するにあたり、その内容に誤りがないか、誇大広告でないか厳しいチェックがあります。

誇大広告違反として、当時、初めて行政処分を受けた武田薬品工業の事例を簡単に紹介します。

武田薬品工業の販売促進用資材等が医薬品医療機器法第66条の『誇大広告』に当たるとして、平成27年6月に行政処分を受けました。

誇大広告の対象となったのは「CASE-Jに学ぶ(2006年10月、Medical Tribune)」、広告「切り札は多い方がいい(2010年3月、日経メディカル)」の2種類の医療関係者向け広告資材です。(いずれも当時の記事は削除されているため、見つけることができませんでした。)

【CASE-J試験】

CASE-J試験とは

高リスク高血圧患者において,長期の心血管イベント抑制効果をAII受容体拮抗薬カンデサルタン(ブロプレス)とCa拮抗薬アムロジピンとで比較した試験です。

参考:循環器トライアルデータベース


患者背景

患者背景2

こちらは登録時の患者背景になります。カンデサルタン群とアムロジピン群でほとんど違いはありません。

対象患者の組み入れは問題なさそうです。

では、結果はどうだったのでしょうか。


【ゴールデン・クロス】


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こちらが結果になります。この結果からはカンデサルタン群とアムロジピン群で統計学的有意差は出ていません。

しかし、問題となった広告では、一部ずれたグラフが用いられ、カンデサルタン群がアムロジピン群よりも降圧効果が逆転しているように見える36ヶ月時点が強調され、「ゴールデン・クロス」として紹介されていました。

(あたかも、カンデサルタンがアムロジピンよりも有効であるような表現)


【切り札は多いほうがいい。】


糖尿病

また、こちらの結果では、カンデサルタン群がアムロジピン群よりも優位に糖尿病の新規発症率が少ないことが示されています。

この結果から、カンデサルタンが糖尿病にも効果があることを示唆するような広告が出されました。

しかし、、、、、

この結果、よく見ると、カンデサルタン群ではBMIが高い群ほど、糖尿病新規発症率が少ない傾向にあります。

肥満な人ほど糖尿病になりにくい。。。。?

これはどういうことでしょうか。


実はこの試験、対象薬剤を使用しても降圧効果不十分な場合、利尿薬やβ遮断薬などが追加で使用してもよいとなっています。

そこで、実際に利尿薬やβ遮断薬がどれくらい使われたのかがこちら

使用薬剤

明らかにアムロジピン群よりもカンデサルタン群のほうが、利尿薬や、β遮断薬を使用している患者が多く、それら追加薬剤の影響は無視できません。

逆に言うと、これだけの追加薬剤を使用しないとカンデサルタンは目標の血圧まで降圧出来ていなかったということになります。


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製薬メーカーの広告を鵜呑みにしてはいけない。

臨床試験を見るときは「方法」をよく確認し、批判的吟味をする。

この事例は、薬剤師として客観的な判断能力が重要であると考えさせられた事例でした。



参考:
・Hypertension. 2008 Feb;51(2):393-8.

・臨床薬理 (0388-1601)39巻5号 151-155(2008.09)

・平成30年4月11日第1回 厚生労働省医薬品医療機器制度部会 資料2より抜粋

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