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京極夏彦『幽谷響の家』を勝手に推測する(追記あり)

2023年9月に京極夏彦による新作『鵼の碑(ぬえのいしぶみ)』が発売された。
ファン待望の百鬼夜行シリーズ17年ぶりの新作でミステリー界隈では話題となった。

この百鬼夜行シリーズには恒例だが、本のカバーなどには次回作のタイトルが書いてある。

今回出た『鵼の碑』も前作『邪魅の雫』に次回作としてちゃんと記載されていた。
それから17年もの間ファンは待ちに待って、待っていたことすら忘れた頃にようやくようやく出版されたのだった。

『邪魅の雫』の巻末。一番下に次回作のタイトルが。


そして今回も例に違わず次回作のタイトルがしっかりと書いてあった!

その名は

『幽谷響の家』(やまびこのいえ)

帯の裏表紙側に次作タイトルが


「幽谷響」と書いて「やまびこ」と読むらしい。

調べてみたのだがいわゆるヤッホーのやまびこ(山彦)と同じモノのようである。かつてはそれが妖怪の1つとも考えられていた地方もあったということだろう、しかしこんな表記は初めて見た。


さて、気になる次の舞台はどこだろうか。
もちろんまだリリースはない。
(私が知らないだけでどこかで発表されているのかもしれないが…)


実はヒントが1つある。

それは2019年に文庫で出版された百鬼夜行シリーズのスピンオフである『今昔百鬼拾遺』。
これは京極堂の妹である中禅寺敦子を主役に据えたミステリーの3部作なのだが、その3冊「鬼」「河童」「天狗」がなぜかそれぞれ違う出版社から出たという曰く付きでもある。(後に講談社で『今昔百鬼拾遺─月』として1冊に纏められた)


時系列は「鬼」→「河童」→「天狗」となる。


「鬼」は最新作の『鵼の碑』と同時期(昭和29年2月)という設定である。なので京極堂やレギュラーメンバーのほとんどは『鵼の碑』の舞台である日光に行っているため登場しない。

次回作に関係ありそうなのが次の「河童」。
「河童」は「鬼」の半年後(昭和29年7〜8月)という設定である。

その中で益田はこのように言っている。

「それに今、東北の方の事件がこじれてるでしょう。どうせ遠からず担ぎ出されるのじゃないかと思うんですな。」

と京極堂について語っている。


この「東北の方の事件」というのが、おそらく『幽谷響の家』の事件のことなのだと思われる。
(もちろんシリーズ本編ではないスピンオフの可能性もあるけれど…)

なので次回作の舞台は「東北のどこか」だと勝手に推測している。


過去東北が舞台になったことはシリーズ本編にはないが、スピンオフ『今昔続百鬼─雲』の即身仏の話で京極堂と多々良が出羽(山形)にいる。(シリーズ本編の1作目『姑獲鳥の夏』よりも前という設定)
その時、京極堂は青森の古本屋(陸奥書房)とともに山形まで買付に来ていた。


あと関連は薄いが『鵼の碑』に出てきた緑川佳乃は田舎が青森で今は地方の大学に勤めているとある。それが東北のどこかであっても全然おかしくない。

この緑川佳乃は結構良いキャラなのでいずれまた登場しそうだ。登場した人物が次回作の事件に関わってくるのもこのシリーズにはよくある。

『絡新婦の理』→『塗仏の宴』の織作茜
『陰摩羅鬼の瑕』→『邪魅の雫』の大鷹篤志 など

だから緑川佳乃が東北が舞台の次回作にも再登場する可能性はある。



ともあれ、はっきりと次回作の舞台がどことはわからないけれど「東北のどこか」の可能性は高いし緑川佳乃が関わる可能性もあるかもしれない。


ちなみに余談だが、先ほどの『今昔百鬼拾遺』の3冊目「天狗」は「河童」の2ヶ月後(昭和29年10月)という設定で、その時に榎木津を訪れた篠村美弥子に対して益田が

本当に居ないんですって。富士山だか河口湖だか、あっちの方に行っているんですよ。

と言っている。

これが次回作に関連することなのか、それとも次々回作のことなのか、はたまた別なスピンオフのことなのかは分からない。
しかし今までのシリーズを考慮するに、1つの事件は大抵1〜2週間程度で解決しているので次回作ではなく次々回作ではないかと推測される。
なので次々回作は富士が舞台になる?かも?


別のnoteにも書いたけれど、17年ぶりに発表された『鵼の碑』だが、大まかなプロットは10年以上前には出来ていたと思われる。
ただ発表できなかった事情があったようなのだ。
あるインタビューには『邪魅の雫』から4〜5年後に出すつもりだったとある。


なので次回作『幽谷響の家』もおそらくこの17年の間にかなり書き進められているのではないかと思われる。だから次回作は数年後には出るのじゃないかなと期待も込めて思っている。


とにかく何年後だろうが百鬼夜行シリーズの新作が出るのを待つという楽しみが出来た。
これもまた幸せなことだと言える。

(2024年1月追記)
23年の年の瀬に発売された『このミステリーがすごい!2024年版』において京極夏彦氏のインタビューが掲載されていました。その中で次回作『幽谷響の家』は東北が舞台であると書かれていました。予想が当たって恥をかかずに済みました!笑

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