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劉 慈欣(リウ・ツーシン) 『三体』

ヒューゴー賞受賞の話題の中国発SF小説。

あらすじ

文化大革命で父を惨殺された科学者葉文潔が前半の主人公。反体制の烙印を押され大学の籍もなくし、失意の中、辺境の開拓事業に参加していた彼女は、ある日巨大なパラボラアンテナを備えた軍事基地での秘密プロジェクトに参加することに。

それから数十年後、ナノテク素材の研究者汪淼は、とある会議に呼ばれ、科学者が次々と自殺している事実を告げられる。裏に見え隠れする学術団体<科学フロンティア>への潜入を勢いで引き受けた彼は、その直後から謎のカウントダウン現象に襲われる。科学フロンティアのメンバーがやっていたVRゲーム「三体」は、異世界を舞台にした文明発展のシミュレーションゲームだったが、それは相次ぐ優秀な科学者の自殺や謎のカウントダウンとどう繋がっているのか?

もの凄く面白いんですけど

この先の展開を書くとネタバレになってしまうので書けないけど、一口に言ってもの凄く面白い。
そしてその面白さは、誤解を恐れずに言えば、SF小説としての突き抜けた「やっちまった感」にある。

全く私的で乱暴だけどSF小説には「知的」SFと「おバカ」SFがあると思っている(世間がそれをどう呼んでいるかは知らない)。
「知的」SFは、最新の科学的知見やテクノロジーをベースに想像を膨らませた世界での物語で、FictionでありながらScienceとしてのリアリティが求められる。危機が起こる背景もその解決法も科学的に見て「あり」でないといけない訳で、理に適うがその分物語としての突拍子のなさは犠牲になりがちだ。
一方の「おバカ」SFは、技術的実現性や有効性はさておいて、物語として意外な展開ならばそれでよし、とする。
映画で例を挙げるならば、「ブレードランナー」や「エイリアン」が前者、「インディペンデンス・デイ」や「メン・イン・ブラック」が後者だ。

で、この『三体』は、というと、「知的」SFの雰囲気を身にまとった「おバカ」SF、だ。
「智子」(名前ではなく、陽子や中性子のような素粒子のことだ)が出てきてそう確信した。三体問題や超弦理論の11次元を登場させて、科学的に「あり」な空気を漂わせつつ、科学的合理性に縛られないストーリーの勢いがある。だから面白くない訳がない。

ここまで「やっちまった」からには、あとはこの勢いとテンションで突っ走ってもらいたい。「B29に竹槍」とは言わないが、「宇宙船にリボルバー」くらいはやってくれそうだ。

三部作の第一部なのだが、第二部(ハードカバー上下2巻)は既に刊行済み。図書館の予約が待ち遠しい。

まもなく発刊の第三部はこちら


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