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原田マハ 『キネマの神様』

大手デベロッパーで初の女性課長としてシネコン開発を手掛けていた歩が、退職を余儀なくされ、思わぬきっかけから、経営の傾いた映画雑誌の編集者に。彼女が映画好きでギャンブル好きなダメ親父、かつて敏腕でならした女性編集長、ぶっきらぼうな編集者らと共に奇跡を起こす。

ダメ親父の映画日記を元に、雑誌のブログに記事をアップすると予想外に好評を呼ぶ。
かつての同僚でアメリカ在住の友人に手助けしてもらい、英語版の記事を掲載すると、そこに謎の人物からのコメントが付き、さらなる反響を呼び起こし、つぶれかけた雑誌社とダメ親父が足繁く通う名画座に起死回生のチャンスが巡ってくる。

やがてその謎の人物"ローズバッド"の正体が明かされ、更に彼の現在の状況が明らかになると、話の展開が読めていても、涙が溢れてくるのを抑えられなかった。

ストーリー自体は転職した娘、ギャンブル依存症から立ち直りたいダメ親父、かつて華やかだったが経営不振にあえぐ雑誌社、そして、シネコンやレンタルに脅かされすっかり客足が遠のいてしまった名画座の、一発逆転、再生の、いくらか単純な物語だけれど、その裏に作者の映画への愛情、たくさんの感動、ハラハラドキドキ、笑い、涙、胸キュンを与えてくれた映画達への感謝と愛しみの想いが感じられて、あーそうだよ、映画ってそういうもんだよ、やっぱいいよねー、と淀長さんや水野さんの声まで脳内再生される。

その思いは、シネスイッチ銀座に駆け付けて観た「ニュー・シネマ・パラダイス」の記憶に強くつながっている。学生時代しょっちゅう映画館に入り浸っていたが、三年生以降すっかり遠ざかっていた。それが社会人になって、知人から勧められて観にいくことにしたのだ。ところがその頃仕事が忙しくてなかなか行けない。単館上映なので休日にわざわざ東京まで出かけていくのも面倒で、そうこうしているうちに来週から別の映画に切り替わる、という。
慌てて最終日の金曜に無理やり仕事を投げ打って上映時間ギリギリに映画館に駆け込んで観たのだ。そうして観ながら、そうだった、僕は映画が好きだったんだ、とりわけ映画館で観るのが好きだったんだ、と強く思い返していたのだった。

この本に取り上げられた映画のほとんどを僕は観ている。「フィールド・オブ・ドリームス」のゴウちゃんの報告は、この映画を観た時に感じた、アイオワの背の高いトウモロコシ畑を吹く、夏の乾いた風の匂いまで感じられた。

これらの映画を観ていなくても本自体は楽しめる(映画ファンとしては、映画もおススメしたい)が、「ニュー・シネマ・パラダイス」だけはぜひ観てから読んでほしい。

この作品で紹介されている物語

志村けんさんがキャスティングされ話題となった映画化版は、どうやら沢田研二さんを代役にして、2021年8月公開予定らしいです。しかも監督はあの、山田洋二監督(「男はつらいよ」シリーズ、「学校」、「幸せの黄色いハンカチ」など、人情物を撮らせたら日本一)。ストーリーは原作とは少し異なるようですが、こちらも楽しみです。

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