彼にとっての空白の時間。
私は部活を終わらせて彼のいる教室に向かう。
「ごめん・・・お待たせ・・・。」
机の横に松葉杖を立てかけて、勉強している姿が見えた。
「教室まで来てもらってごめんなー。ちょっと手伝ってほしいんよ。まだ慣れなくて・・・。」
参考書類をリュックに入れ松葉杖を使って立ち上がる。
まだ痛みもあるようで、よろけることが多かった。
「情けねぇ・・・。ありがとう」
学校についているエレベーターを特別に使用させてもらい移動する。
そこまでの段差に二人で注意して進んでいく。
エレベーターに乗り彼は口を開く。
「いやぁ・・・ショックやなこれは。足首の骨折で全治は一か月半くらいみたい。今年度最後の試合は出られないし、昇段試験も見送りになったわ。」
彼の苦い顔を見ながら、私はなんて声をかけようか悩む。
「残念やな。練習頑張ってたもんね。」
「まぁ勉強しろってことかな~ちょっと部活から離れて勉強するわ。」
すごい向上心だな。
部活から離れると言っても私たちの引退まで半年を切っている。
6年間続けてきた部活の終止符をうつ直前にこんな大きなけが。
内心焦っている気持ちも大きいであろう。
しかしそんなことも感じさせない強い彼に私は心打たれた。
「えらいね。ちゃんとそういう風に考えられるところさすがって思うよ。尊敬してる。」
「美嘉ほどではないよ。美嘉の勉強量にはいつも刺激もらってるよ。この間に美嘉の勉強時間越すわ。」
私なんてまったく大したことないのに。
彼の松葉杖期間はしっかりフォローしてあげよう。そして一緒に勉強も頑張ろう。
バスに乗り込む。
彼の足どりに注意しながら一緒に座席に座る。
私たちは乗る電車が違うため、彼をホームまで見送った。
彼はあの状態で自習のため都会の塾まで向かう様子。
なかなかの満員電車であり、心配であるがさすがに席を譲ってもらえるだろうと思った。
しかし彼からすぐにラインが入る。
「やばい足も腰も痛くなってきた。席が空かない。」
慣れない松葉杖で負担がかかってきているのと、足の痛みも出てきている様子。
松葉杖使っている人に席を譲らない日本って何。若者だから大丈夫とでも思われてんのかな。
彼は思いのほか今日一日で体への負担が大きかった様子で、その日は塾に行かず直帰したとのこと。
「これじゃ結局勉強もできねぇじゃねえか。」
彼は鬱憤を晴らすように私にラインを送ってきた。
「神様が休めって言うてるんやって。今日は松葉杖初日で疲れたやろうし、
しっかり休み。」
「それもそうやな。最近俺めっちゃ頑張ってたし。期末テスト近いのが辛いけど・・・。今日は休ませてもらうわ。美嘉、ありがとうな。支えてな、俺のこと。」
付き合ってからこんなに弱くなっている彼を見るのが初めてであった。今までたくさんの場面で救ってもらってきたし、今度は私が支える番だ。
そこから一か月半彼は部活に参加せず、友達や、先生、私のフォローを受けながら過ごしていった。
一緒に帰る頻度も多くなっていた。
彼が今まで突っ走ってきた時間の分の空白をなるべく埋められるように心がけた。
必然的に勉強時間の増えた彼は尋常じゃないスピードで成績を上げていくんですけどね。笑
そこで私は何か彼の心のよりどころになるようなものを渡したいと考えた。
手作りのお守りである。
そういうものを私は今まで作ったことがなくて、
インターネットにあるお守りのマスコットを見様見真似で縫って作り上げた。
今思えばかなりクオリティの低い物であったが、それと一緒にバレンタインとしてチョコレートを渡した。
「クオリティ低いけど。ごめんね?ちょっとでも喜んでもらえたらなって。」
彼に渡すと一気に笑顔になった。
「お守り!?すごい美嘉こんなの作れるの??不器用ちゃんなのに!!笑」
冗談を言えるくらいには気持ち的に回復してきているようだった。不器用っていうのは余計ですけど。笑
彼はさっそく学校のカバンにつけてくれ、身に着けてくれた。
少しでも彼の精神的な支えになれてたらいいな。
私の青春時代。
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