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買わなかったお客様のことももっと知りたい。オルビスがチャレンジする新しい店舗のかたち

化粧品などの企画・開発および販売を行う「オルビス株式会社(東京都・品川区)」は、2021年1月にABEJA Insight for Retailを「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」に導入したばかりです。

販売が主目的ではない店舗であるという「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」。そこになぜレジ前の情報が必要だったのか、今後はどのようにデータを活用していきたいと考えているのか詳しく伺いました。

お話を伺った方(文中敬称略)
・ブランド統括グループ グループマネージャー 小椋 浩佑様(写真左)
・ブランド統括グループ 中嶋 沙緒里様(写真中央)
・ショップマネージャー 須田 直行様(写真右)
注:取材はマスク着用の上行い、写真撮影のタイミングのみマスクを外していただいております

小椋:私と中嶋は、CXデザイン部のブランド統括グループに所属しており、ORBISブランドの価値を高めることがミッションです。特に、マーケティング目線でユーザーにORBISの印象をつくることに注力しています。

須田:私はCRM統括部という、カスタマーリレーションをマネジメントすることがミッションの部門に所属しています。また、「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」のショップマネジャーも担っています。

ブランドコンセプトを言葉だけではなく「場」として伝えるために、この店舗がある

小椋:オルビス株式会社は、2018年にリブランディングをしています。2018年以前は通販がメインで「お得な通販の化粧品会社」というのが市場の認知だったところから、ブランドの世界観と機能で付加価値を生みだすブランドビジネスへの転換を目指しています。

市場でのポジショニングを変えるという全社目標の中で、「ブランドの思想を体現し、届ける場」として、「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」ができました。

ORBISのブランドメッセージは、「ここちを美しく。」、背景には、「スマートエイジング®」という思想があります。

「アンチエイジング」という言葉に代表されるように、美容の世界では歳を取ることに「抗う」という考え方が一般的です。そのために、高い化粧水や美容液などで、リッチな成分を肌に「加えていく」ことが多い。

一方で弊社は、年齢や性別に関係なくその人が元々持っている魅力を「引き出す」ことを大事にしています。歳を重ねるごとに、その人らしい美しさを引き出すというのが、「スマートエイジング®」の考え方です。

ですが、こうしたブランドコンセプトを言葉だけで伝えきることは難しい。言葉だけではなく、ORBISの世界観やプロダクトを体感してもらうためにこの空間をつくりました。

ここを訪れるお客様には、スキンケアに関する「小さな発見」を持ち帰ってほしいと思っています。例えば、水道からは人肌の温度の水が出るようになっています。洗顔料の泡立てに最適な水の温度は、お湯でもなく水でもなく「人肌の36度前後」だと私たちは考えています。それを言葉で伝えるだけではなく、体験を通して伝えるのがこの場所です。

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「販売」が主目的ではない店舗を運営するにあたって、購入前のお客様・購入しないお客様の情報が必要だった

小椋:通販の黎明期に通販化粧品販売を始めた影響もあり、当社は創業期からマーケティングを重視する会社です。通販はもちろん、直営店舗においてもデータを活用して成長をしてきました。

「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」以外にもORBISの直営店舗は100前後ありますが、主な目的は販売です。なので「いかに顧客単価を上げるか」「レジ効率を上げるか」の観点で指標をつくり、データを取っています。

一方で、ブランドコンセプトを1人でも多くのお客様に伝えることを目的にするこの店舗には、これまでとは全く違う指標が必要でした。そこで、これまで取れていなかった購入前や購入しないお客様のデータを取ることを検討し始めました。

この店舗には「Feel First, Learn Later」というコミュニケーションのルールがあります。感じることが先で、学びは心理的ハードルが下がってから自然なタイミングで発生すべきという考え方を表しています。

人間同士の自己紹介で、初めて会った人に「僕は頭が良くてお金持ちです」と突然話し出すことはあまりないですよね。でも、化粧品の場合は唐突にスペックの紹介から入ることが多い。

本当に自分たちの化粧品の良さを伝えたいからこそ、お客様には「何か心地良さそう」からスタートしていただき、その次に「詳しく知りたい」と思っていただける設計をしています。

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須田:この店舗は、空間全体を通してコンセプトをお客様に伝えているので、来店自体をひとつの「体験」としてカウントしています。

店舗はいくつかのゾーンに分かれており、手前はカジュアルな体験、奥に入るにつれてより深い体験ができる設計にしています。

お店に入ってすぐのエリアにはJUICE BARを設置し、気軽に入りやすい雰囲気をつくっています。また、その先の「FEEL」ゾーンの水場ではクレンジングや洗顔などのORBIS商品を体験できる場所になっています。中央は「PICK」ゾーンと呼んでおり、1日のできごとに沿って、それぞれのタイミングに合った商品をみることができます。体験を最優先にした場所のため、購入するためのエリアは奥に配置しています。

1階はオープンな空間であるのに対し、2階は予約制のプライベートなサロンなど、「Learn Later」の一番深い体験ができる場所という位置づけです。

こうした店舗の設計が意図した通りに作用しているのかを知るために、エリアごとの来客人数などのデータを活用していきたいと考えています。

買ってくれたお客様のことだけではなく、買わなかったお客様のことも知りたい

小椋:リブランディングを象徴する商品として「ORBIS U」というラインがあります。20代後半から30代のプレ・エイジング世代がメインターゲットなため、こうした年齢層のお客様が来ていただいているのかもデータで把握したいと考えています。

買っていただいたお客様のことは顧客情報からデータを取れるので定量的に知ることができていたのですが、買わなかったお客様の状況を把握するためのデータが決定的に欠如していた。

中嶋:買っていただくお客様はすでにORBISへのロイヤリティが高いお客様であることも多いので、ポジティブ側にバイアスがかかっていることが多い。

買っていただかなかったお客様についても、BA(ビューティアドバイザー)から定性的なコメントは集めているのですが、やはり限界がある。そこに、データを取り入れることで買わなかったお客様のこともより深く知りたいと思っています。

フラッと寄ってくださって、すぐ出ていかれるお客様は一定数います。そうしたお客様の全体に占める割合を「直帰率」として定め、KPIとして追おうとしているところです。

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中嶋:この店舗の目的の1つに「テストマーケティング」もあります。ORBISとして新しく取り組みたいことをスピーディに取り入れて、その効果検証を行い、成功した事例については全国に水平展開していきたいと考えています。

オリジナルボトルは、まさにこの店舗独自でテストしている取り組みです。お客様はお好みのデザインと名前をボトルにプリントして、その日のうちに持ち帰ることができます。自分の楽しいスキンケア時間のため、大切な方へのプレゼントのためなどに使ってほしいと考えています。

小椋: ABEJA Insight for Retailで得られるデータを通して、新サービスが顧客の動線にどう影響を与えているのか把握できるのは、こうしたテストマーケティングの観点でもありがたいです。

これまでも店舗評価として、ミステリーショッパーによる店舗評価は行っていたのですが、こうした定性的な情報だけではなく、定量的なデータを取れるようになることで「仮説通りお客様に喜んでいただけているのか」を知る精度が高まると思っています。

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データを活用してPDCAをスピーディに回すためには、分かりやすさが欠かせない

中嶋:店舗のデータを取るためのサービスについてはかねてから情報収集をしていたのですが、「ダッシュボードひとつで全体像が把握できる」サービスが意外と見つからなかった。

ダッシュボードに必要な情報が一元化されていないと、データは取れても、見える化するために一苦労かかります。データを活用してPDCAを高速で回そうと考えたときに、データをCSVに落として自分たちで加工する手間がかかるのは辛い…。

私たちは元々データが好きな会社なので、凝り出すと必要以上に深いところまで分析してしまうんです。分析して示唆が得られるレベルはどこまでなのか、自分たちだけでラインを引くのは難しい。なので、示唆を得るためのサポートがあるということは導入の決め手のひとつでした。

須田:ABEJAさんのダッシュボードは深さがちょうど良いです。私たちは分析の専門家としてデータを見たいのではなく、マーケティングを基本として事実を把握して仮説を立てたい。だから、それがしやすいのは大きな価値です。

ダッシュボードのデータをそのまま会議報告に使えるレベルで分かりやすいので、すごく助かっています。

小椋:購入前のデータを使ってお客様のことをより深く知り、お客様への提供価値をさらに高めていきたいです。

ABEJA Insight for Retailについて

取材・文:高橋 真寿美 撮影:田島 ふみえ

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