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「当たり前にAIを使う会社へ」知識ゼロからの自社開発で得た自信


空調機メーカー「新晃工業」(大阪市)は2020年8月、オーダーメイド型空調機の製造工数を予測するAIを開発しました。きっかけを作ったのは、経営企画の担当者。知識ゼロからAIを学び、勉強会で現場社員からヒントをもらい、自社開発プロジェクトでモデルを生み出すまでの歩みを振り返っていただきました。(文中敬称略)

お話を伺った方(上写真左から)
経営企画本部 企画・関連事業部副部長 片井信介様(写真左)
経営企画本部 企画・関連事業部 副長 文平谷様(同中央)
第一テクニカルセンター 研究開発部 第一課副技師 星野一人様(同右)

「GoogleやApple並みでないとAI開発は無理」の大誤解

片井:わたしは管理畑が長く、技術とは遠い部署を歩んできましたが、経営企画本部で収益増やコスト削減の施策立案を担当するなかで、AIを知りました。

AppleやGoogle並みのIT企業でないとAI開発なんて無理。最初はそう思ってました。でも2017年夏にAI研究所主催のセミナーを受講し、考えが大きく変わりました。

「自社でもやれそうだ」という手応えと、「AIの活用で競争力に差がつく。他社に先んじられたら負ける」という危機感を、同時に感じたのを覚えています。

当時は「AIをやりましょう」と言っても、「AIなんて『遊び』。もっと地に足をつけて」という空気が社内の一部にはありました。全くやったことがない領域なので無理もありません。そこから開発・実装をどう実現すればいいのか、ずいぶん考えました。

まず「AI」と「現場」の両方を知る社員を増やすことが不可欠でした。でないと、現場の実感に基づいたAI開発は実現しません。まずは役員や上司の理解を得ようと、マイクロソフトの機械学習サービス「AzureML」を触ってもらいました。一度の説明でなかなか腹落ちまでいきませんでしたが、今の上司が背中を押してくれたので励みになりました。

次に、実務担当者向けにAIの仕組みに関する説明会を各地で開いていきました。2018年冬からは説明会にプログラミング講習も取り入れました。プログラミングの「プ」の字も知らない参加者が、1日でAIモデルを作るという内容です。

説明会は20回ほど開き、毎回10-20人が集まりました。管理からシステム、営業まで所属は様々でしたが、誰もが熱心に聞いてくれました。若い人ほど「何だ、これは!?」といったような、強い反応が返ってきました。

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片井:説明会では学ぶだけでなく、どの業務でAIが使えそうか参加者からアイデアも出してもらいました。40-50個ほど出たアイデアからコスト減や売上増につながりそうな候補を絞り込み、2019年9月、オーダーメイド空調機の製造工数を予測するAIモデルの開発プロジェクトが立ち上がりました。

弊社は空調機を受注生産する際、1台あたりの製造時間(工数)を予測しています。複雑なロジックで生産計画の基準値を計算し、ベテラン社員が過去の類似品から工数や労務費を見積るのですが、膨大な手間暇がかかります。この予測をAIが担えば、大幅に効率化できると判断しました。
初めてづくしながら、まず自社でAIを開発しようと試みたのはいくつか理由がありました。

まず、費用。外注には1000万円単位の費用がかかります。最初から外注したものの、望んだような精度が結局出ずに中止・撤退という事態になってしまうことは社内でなかなか許容されません。

ならば、ある程度の精度を社員自身でまず確かめるべきだと思いました。自社開発の段階で7-8割の精度が出せないようなら、そもそも外注なんて無理です。

また自社開発は、ひいてはAI技術者の自社育成にもつながります。将来的な「資産」になるだろうと考えました。

試行錯誤で精度80%。実感した「技術萌え」

片井:プロジェクトの初期モデルの予測精度は60%台でした。そこから精度が伸びず、悶々とする日が続きました。それだけに、ああだこうだと試行錯誤を続け、精度がグンと伸びて「いける!」と確信できた時は本当に興奮しました。大げさかもしれませんが、イノベーションに立ち会えた喜び、たとえるなら「技術萌え」を実感できました。

メンバーも勉強に精を出し、プログラムもどんどん高度になりました。最終的にはMAE(平均絶対誤差)で80%ほどの精度を出し「自分たちもここまでできるんだ!」と自信がつきました。

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星野:プロジェクトでは、プログラムの特徴量エンジニアリングなどを担当しました。

プロジェクトに参加する前は研究開発部で、主に実験や現場のデータを分析する仕事をしていましたが、AIモデルの開発に携わるのは初めてでした。
プロジェクト初期のモデルの予測精度が70%に届かなかった状態から、精度を上げるデータを探したり、データの前処理段階の不要なデータを取り除いたり「これをやったらどうなるか?」と試しながら進んでいきました。

片井さんから「どんどん学んでいいよ」と言っていただいたので、講習や参考書、ネットで知識をつけながら手探りで進んでいきました。

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文:実用化には85%以上の精度が必要でした。自社開発で80%を超えた段階に入り、さらに精度を上げるには外部の力を借りたほうがいいと判断し、ABEJAに支援に入ってもらいました。

銀行主催のAI相談会にわたしが参加した時に、ABEJAが出展されていたのがご縁です。どうしたら工数予測AIを実現できるか数社に相談するなかで、一番きちんと聞いてくださり、どんなデータを使えば解決できそうか、明確に助言してくれたのがABEJAの担当者でした。その姿勢に、これならきっと課題解決も任せられそうだと、支援をお願いしました。

片井:ABEJAの支援を受けながら精度をさらに上げた結果、ベテラン社員が時間をかけて予測したものと同レベルの精度、あるいは、それを超える精度を瞬時に出すことができました。このモデルを実装し、生産部門の効率性を向上させていくという方針も打ち出されました。
弊社には、空調機関連の良質なデータが日々新しく生まれ、蓄積されています。業界最多レベルといっていいでしょう。これらの新しいデータで再学習したAIモデルは、さらに精度が高まっていくでしょう。

当たり前にAIを使いこなす会社へ

片井:プロジェクトを経験し、組織でのAI開発の進め方がだいぶ理解できるようになりました。わたし自身、これをやればこの程度まで精度は上がるだろうと見通せるようになり、費用や社内人材も見当がつくようになりました。

技術者が育ったのも大きな成果です。プロジェクトメンバーは7人でしたが、それ以外にも、説明会がきっかけで機械学習のプログラミングができる人が増えました。説明会に参加したある社員が材料の最適購買量を予測するAIモデルを自ら作ったという、うれしい報告もありました。90%の精度が出たそうです。

さらに営業から設計、生産まで一気通貫して情報を管理し、デジタル(とリアル)を融合した革新的な空調機生産方式を目指す「SIMA(シーマ)プロジェクト」(※)も進んでいます。弊社初となる画像認識技術を使った開発も始まります。

今までは、効率化を進めるためのAI活用が主でしたが、今後はAIで収益を上げられるアイデアが生まれることを期待しています。

そのためには弊社のあらゆる現場で働く人たちが、当たり前にAIを使いこなせるようになるのが理想です。社内のデータを活用したよいアイデアがあちこちから出てくれば、さらに強い会社になれると思っています。

※ 新晃工業のSIMAプロジェクトではAIのほか、図面の3D化、工数データ取得の効率化を進めデータ活用の高度化を狙う。

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左は空調機の3Dモデル。3Dモデルからは加工データや組立手順の展開が可能となる。右は工数データ取得の効率化を実現するシステムの操作画面。これまでよりも細分化された工数を取得することでより高度なデータ分析を進める。

取材:高橋 真寿美 文:錦光山 雅子

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