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真夜中のビジネスホテルで

わたしが17歳の頃の話。夏休み、一人で親戚の家に遊びに行った先で起こった、真夜中の出来事。

その日は親戚家族で繁華街に出向き、焼き肉を食べに行った。伯父や伯母はお酒を飲んでいたために車の運転ができず、帰るのも面倒だと言って近くのビジネスホテルにみんなで泊まることになった。わたしは大学生の姉と一緒にツインルームで寝ることにした。久しぶりの再会で積もる話もあり、お互いの近状や恋バナに花を咲かせてキャッキャウフフしてたっけ。

 突然、姉が「 ちょっと、聞いてほしいことがあるんだけど... 」と、深妙な顔つきになり話しだした。話を聞いてみると、姉が高校生だった頃、全寮制の学校に通っていた。そこで時おり、奇妙な体験をしたという。

それは、誰かがベッドのマットレスの周りを歩き回るというもの。「 誰か 」というのは動物などではなく「 人 」だそうで、目には見えない。マットレスのへこみ具合から、大人ではなく小さな子どもなのではないかと姉は考察していた。その得体のしれない「 人のような何か 」は、ゆっくりゆっくりと姉の周りを数周して居なくなるそうだ。

姉がその体験をするきっかけのようなものがあった。姉の友人が、彼女よりも先にすでに同じような出来事に遭遇していた。友人から相談を受けた姉は、数日後に彼女とまったく同じ体験をすることになる。そしてそれは高校を卒業するまで続いたそうだ。そんな話をする姉からは全く恐怖は感じられず、むしろ冷静だった。なんでわたしの周りを歩くんだろう?ぐらいのあっけらかんとした具合。マットレスの周りを歩き回る以外何も起こらなかったから、それ以上の恐怖は無かったのだ。

「 わたしが話したってことは、もしかしたらabeeyのところにもその子が来るかもね。 」姉はニヤリと笑った。わたしは少し怖気づいた。リアルな恐怖体験を聞くのは苦手なのだ。

一通り話して、わたし達は眠ることにした。しばらく経ったころ、ふと、右肩のあたりに違和感を感じた。誰かが歩いている感じがするのだ。歩くたびにマットレスが少しだけへこむ。へこんだ感触からは大人ではないのだろうなと思う。たぶん子ども。3〜4歳くらいの小さな子ども。その子はわたしの右肩から足元にかけてゆっくりと歩いた。そして足元から折り返して左側にきたとき、脇腹辺りでしばらく止まった。

 わたしはパニックになった。姉から聞いた一連の出来事を、今まさに追体験しているからだ。もしかして姉がドッキリを仕掛けているのか?と一瞬疑った。ドキドキしながら姉の方を見ようとしたけど、身体が動かない。声をかけようにも何も言えない。というか、ちょっとでも動かしたら何かされそうで怖い。動かしたくないし、声も出したくない。でも、このままではマズイと思い意を決して右側に寝ている姉の方を見たら、姉は気持ちよさそうに眠っていた。ドッキリではなかった。脇腹辺りで止まっていたその子はまた歩き出した。そして数周回って居なくなった。よかった、歩く以外何もなかった。

 次の日の朝、昨夜の出来事を話そうと姉のところに行ったがテレビに夢中で取り合ってもらえなかった。姉の大好きな布袋寅泰が今井美樹と結婚したのだ。朝のニュース番組はその話題で持ち切りだった。二人のファンだった姉は、ニュースを見ながら布袋寅泰と今井美樹がどれだけ素晴らしいかを語った。わたしの話などこれっぽっちも聞いてもらえなかった。

すべて布袋寅泰と今井美樹の結婚のニュースに持ってかれてしまった。少しクサクサした気持ちにもなったが、幸い呪われてもなさそうだし、まぁいいか、という気持ちに変わっていった。呪われるってどんな感じか知らんけど。でも、怖い気持ちはもうどこかへ行ってしまった。そしてその体験は続くことはなく、あの夜の1度きりで終わった。

しばらく経って振り返ると、あれは夢だったのか現実だったのか曖昧になる時がある。本当にわたしは姉と同じ体験をしていたのか?妄想だったのか?でも、わたしの周りを誰かが歩いているあの感覚、歩くたびにへこむマットレスのあの感じは今でも鮮明に覚えてる。とても不思議な体験だった。

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