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外国語の扉を開ける合鍵作り 〜世界の言語で複数形〜 5時間目

5時間目は、英語と日本語を比較して、日本語の複数形を考えてみます。

子どもたちは世界の色々な言葉で動物の言い方を観察し、単数/複数の形に注目して言語を分類しました。次に何語か調べ、世界地図を見て言語を確認し、普段学んでいる英語の複数形のルールを考えました。前回までの授業はこちらにまとめています。

今までは外国語の複数形を見てきました。では、日本語の複数形ってどうなのだろうか、英語で使ったプリントを日本語でやってみました。

英語のプリントに日本語で答える

ロイロノートで実際に取り組んだ子どものプリントの一例がこちらです。

自主学習_阿部 志乃_2021年5月23日のノート-3

多くの子どもが1個でも2個でもコップはコップ、1匹でも10匹でもハチはハチ、1台でも100台でも車は車と、日本語の場合はことばの形が変わらない、と答えました。

ある子が「馬たちはあると思う」と発言しました。でも「コップたち」や「筆たち」はない。「蜂たちもあるかもしれないけど、本の登場人物だったらいいかも」という意見が出ました。「たち」はどんな時につくか考えました。子どもたちは「生きているものだったら付けてもいいけど、あまり言わない」ということになりました。

日本語の複数形調べ

「たち」以外に、複数を表す形って日本語にはないのかどうか、辞書や本を使って例を調べることにしました。今回は調べる対象が外国語ではなく日本語ですから、そこまで難しくはないだろうと思っていた子どもたちでしたが、やってみると複数形の例を探すのに結構苦戦します。結局、図書室の司書の先生に助けてもらって、絵本から辞典まで、幅広い本を使って調べました。

子どもたちが調べた日本語の複数形
1. 〜たち 例:私たち、あなたたち、俺たち、魚たち、猫たち、人たち
2. 〜がた 例:あなたがた、先生がた、奥様がた、お偉いがた
3. 〜ら 例:ぼくら、俺ら、彼ら、彼女ら、お前ら、あんたら、私ら
4. 〜ども 例:野郎ども、強者ども、馬鹿ども(歴史大好き男子)
5. 繰り返す:山々、花々、木々、人々、神々、家々、我々

子どもたちにとって、5.の繰り返す表現は「インドネシア語と同じ!」と嬉しかったようです。この中の2「〜がた」はとても限られた場面で、普段はあまり使わないけど卒業式やコマーシャルで聞く、という意見でした。4「〜ども」は歴史が好きな子が本から調べてきました。馬鹿ども、これは私も盲点で「確かに」と笑ってしまいましたが。

こうしてみると、1〜4は主に人に対して使う形で、一番広く使える形は1「たち」であること、5「繰り返す」は人以外も使うけど、繰り返しできない言葉の方が多い、ということがわかりました。

いくつって想像する?

その時、別な子から「先生、いっぱいあっても1つでも同じなら、聞き間違いって起きちゃうんじゃないの?」と質問がありました。そこで、ある実験をしてみました。

頭の中に文を思い浮かべて、それを声に出して伝えます。それを聞いて「いくつだと思ったか」を共有します。例えば「あ、教室に虫がいる」と言いました。それを聞いた他の子が、「虫は何匹いると思ったか」をパッと直感で答えます。

「教室の中に虫がいる。」虫は何匹?
多くの子が1匹、そしてよく教室に入り込んでくる蜂や蛾をイメージ。

「お皿の上にクッキーがある。」クッキーの枚数は?
多くの子が3〜5枚をイメージ。不思議と1枚はいない。

「カバンに本を入れる。」本の数は?
多くの子が1〜3冊をイメージ。子ども曰く、図書室の貸し出し本数だからじゃないか、とのこと。

「道路に車が止まっている。」車の数は?
これは答えがバラけました。自分の家の車を想像した子は1台と答え、路上駐車をイメージした子は10台くらいとかなりの数を答えました。

「あそこに牛がいる。」牛は何頭?
これも答えがバラけました。牧場をイメージした子は10〜100等とかなりの数を答えましたが、牧場をイメージしなかった子は迷子の牛を思い浮かべて1頭。

このやりとりはかなりおもしろくて、子どもたちもお互いに言い合って楽しんでいましたが、肝心の「聞き間違いは起きるかどうか」を考えると、多くの子が「あまり困らないかも」と答えました。理由は、「見ればわかるから」「話をしているうちにわかるから」「数は問題じゃない気がしたから」という理由を言いました。

2つの〜、〜が2つ

様々な答えが出ましたが、この子のプリントが議論になりました。

自主学習_阿部_ノート-2

というのも、「二つの〜」という表現と「〜が二つ」という表現が出てきたからです。子どもたちはどちらも「いいね」ということになりましたが、一人の子が「二個のりんごって、自分はあまり言わないかも」と言い出したのがきっかけでした。

それを聞かっけに「自分は言う」「言わない」「言ってもいいけど、なんか変」と、子どもによって感じ方が違うことがわかってびっくりです。確かめるために、「二個のカップ、カップが二個…」と上から両方の言い方で実際に口に出していってみて、違和感を確かめました。

「言ってるうちに、なんかわかんなくなってきちゃった」と言う子も出てきましたが、多くの子が「〜が2つ」の言い方の方が自然だけれど、「2つの〜」もおかしくはない、と答えました。

日本語には助数詞がある

上のプリントでは子どもが正しく書けていましたが、日本語では、数量を表わすときに、数に助数詞をつけます。そして、数えるものが何であるかによって、どの助数詞を使うかが決まっています

実際に子どもたちと一緒に大辞林の助数詞を見てみました。

ものすごい数に子どもたちもびっくりです。そして、助数詞の総数を調べてみましたら、なかなかはっきりした数が出てきません。なんとか分かったのは、その数は一説には500を超えるのだそうで、それにもびっくりです。

子どもたち、「なんか、日本語って覚えるのが大変かも。」「外国語って、最後の形を変えるだけでいいなら、日本語よりも楽だね。」「私たち、いつの間にか言い方を覚えているから、えらいんじゃないか。」という感想を持ちました。

日本語と外国語の違いに気づくきっかけ

これまでに外国語の複数形を見てきました。そして英語のプリントで英語と日本語の表記の違いを見てきました。

外国語の単数ー複数形の表現を、そのまま平行して日本語で考える時、日本語の助数詞の重要性や必要性に気がつくきっかけにつながるのかもしれない、と思ったのが最後に日本語を扱ってみようと思ったきっかけでした。

つまり、日本語の名詞体系には可算名詞が存在しません。そのために、複数であるということを伝える具体的な手段として、日本語は助数詞を使う必要があります。このことに気がついていることが、外国語の文章を理解する時に大切な視点になってくると思います。

この複数形の概念の違いは、和訳やその外国語へ訳す際に、勘違いを引き起こす原因になると考えています。ということを、おそらく学校で英語だけ、日本語だけ勉強していても、あまり気がつかないのかもしれません。比較をしてみて、初めて見えてくる部分でもあると思います。

実は、学習指導要領には「比較せよ」と書いてある

文部科学省の【外国語編】学習指導要領解説にはこう書かれています。少し長いですが、引用します。

「言語や文化について体験的に理解を深め」るとは,外国語活動において, 児童のもつ柔軟な適応力を生かして,言葉への自覚を促し,幅広い言語に関する能力や国際感覚の基盤を培うため,日本語や我が国の文化を含めた言語や文化に対する理解を深めることを指している。その際,知識のみによって理解を深めるのではなく,体験を通して理解を深めることとしている。体験的に理解を深めることで,言葉の大切さや豊かさ等に気付いたり,言語に対する興味・関心を高めたり,これらを尊重する態度を身に付けたりすることは,国語科の学習にも資するものと考えられる。また,これらのことは,後述する「学びに向かう力,人間性等」にもつながるものである。
「日本語と外国語との音声の違い等に気付く」とは,日本語と外国語を比較することで,日本語と外国語との音声の違い等に気付かせることを指している。 日本語の音声の特徴を意識させながら,外国語を用いたコミュニケーションを通して,日本語の使用だけでは気付くことが難しい日本語の音声の特徴や言葉の仕組みへの気付きを促すことにより,日本語についての理解を深めることができる。さらに,このことは言葉の豊かさに気付かせ,外国語学習への意欲の向上や,高学年の外国語科で育成を目指す資質・能力の向上にも資すると考えられる。
(【外国語編】学習指導要領解説13ページ。太字強調はあべが行いました。)

解説では音声がメインで書かれていますが、これは音声だけではなく文字や文のルールも含めて比較することで、外国語とともに日本語の理解を深めることにつながると感じています。

使い方を子どもたち自身が発見する

自己発見的な学習を行って、少しずつspiral方式に子ども自身がルールを発見し、経験を積み上げていくことによって、意識的に工夫して外国語を学んでいくことができると考えています。

外国語に接していく上での第一歩として、言語に対する肯定的な態度の育成は欠かせません。世界には様々な言語があること、その言語で生活している人や文化が存在すること、自分の力で目的言語にアクセスできること、その出会いときっかけを作るのも外国語の授業です。

様々な言語(文字・音声)に触れ、言語を比較することによってメタ言語能力を育てる、その機会を小学校でたくさん作ることが、生涯に続く外国語学習の「根っこ」を作ると考えています。

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