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無人島サバイバル

安全保障・危機管理といった領域に携わっていると、「国とか国際社会といった大層な話の前に、そもそも自分自身の安全を確保する能力ってあるんだっけ?」と自問自答することがあります。
 
そのための教育訓練として、これまで、国連・国際NGO・軍などのトレーニングに参加してきました。
 
今回は、究極の状況に自身を置いてみるということで、4泊5日の無人島サバイバルに参加しました。

「Cast Away」というトム・ハンクス主演の無人島サバイバル映画をご覧になったことがある方ならわかると思いますが、無人島生活は過酷です。サバイバル方法を座学で勉強するのと、実践するのは大違い。

今回参加した無人島サバイバルのテーマは、「水と食糧は現地調達、寝床もブルーシートだけという環境で、3ヶ月間生き延びられるか」というもの。仲間は5人。
(Cast Awayでは、16倍の4年間を1人でサバイブ・・・)
 
生きるために衣食住は大事といいますが、極寒の冬開催だったので服装には制限無し。したがって、衣食住ではなく、最も大きな課題は「水食住」の3つ 。

1.住

まずは寝床になるような場所を見つけること。テントもなく、ブルーシートだけで住処を作り、寒風吹き荒ぶ中で暮らすのは、なかなか大変。雨が降ったら困るので、ひとまずシートで屋根だけ作りました。壁はないので、風は吹きっさらし。横には漂着したゴミが溜まっていましたが、さほど気にならず。
 
滞在中はたまたま晴天に恵まれましたが、雨が降ったら寝床はぐちゃぐちゃになるので、3ヶ月滞在する場合は、体力のあるうちに簡易的な小屋を建てておく必要があると思いました。

また、やはり火は重要ですね。火があるとないとでは、特に極寒の冬の夜は、生き死にに直結します。映画「Cast Away」でも、主人公が火をおこせたときに狂喜乱舞してましたが、心底共感します。

2.水

無人島に渡る前は、行ったら水源となる沢でもあるでしょ、と楽観視していました。が、全く見当たらず。要するに、淡水が飲めるところが見つかりません。そこで出来ることは以下の3つです。
①   海水を蒸留して淡水化する
②   雨水の水溜りを探す
③   ひたすら雨乞い
 
③は論外なので、①と②を突き詰めることになります。
様々な蒸留方法を試してみましたが、なかなか蒸留した水を取ることが難しい。海水が気化しても、道具がない状況では効率的な採集はほぼ不可能。
 
色々試した中の一つとしては、一緒に参加した仲間が漂着している一斗缶を見つけたので、それに海水を注いで蒸留してみることに。少しでも飲めるかなと思ったところ、これが元々ペンキの一斗缶だったことに気づき、急遽中止。化学物質がたっぷり混ざっていて、危ないところでした。

結局、海水を蒸留して淡水化することは現実的ではない。残る選択肢は、なんとか雨水が溜まっている水溜りを探すこと。
 
岩場の多い島なので、多くの水溜りがあります。その一つ一つに指を入れて舐めてみると、塩辛い。ほとんど全てに海水が入っていて、飲み水には適さず・・・。

そんな中、たった一つ、海水の入っていなさそうな水たまり(50センチ四方)を発見!

脱水状態の中で飲み水が見つかる時の、何とも言えない安堵感。しかし同時に、島内ではこの水溜り1個しかなかったので、このまま3ヶ月生存するのは無理。
 
さすがに3ヶ月以内には雨が降るとは思いますが、そのためには、雨水を効率的に収集する道具と、それを貯蔵しておく道具を作る必要を感じました。

水溜りの水は、拾ったペットボトルに入れてみるとこんな色。落ち葉の色素が溶け込んでいて、天然のお茶のような感じ。幸運なことに、仲間の一人が携帯型浄水器「mizu-Q PLUS」を持ち込んでいたので、細菌などによる汚染はあまり心配せずに飲むことができました。一日あたり数口しか飲めない状況ですが、何とか渇きをしのげました。

飲み水確保のために、雨は降って欲しい。ただ、雨が降ると住居などの生活環境が一気に過酷になる。恵みの雨を望む一方、雨が降ると厳しい。慈雨と苦雨。雨にまつわる相反する日本語がたくさん存在する意味がわかりました・・・。

3.食

島を一周して探しても、食べられそうな木の実や植物は見つからず。仮にそれっぽいものが見つかっても、野草に関する知識不足のために、全くわからなかったと思います。(野草の勉強しようと思いました…)
 
唯一食べられそうなのは、岩礁にくっついている小さな貝類(マツバガイなど)。朝起きて体力のあるうちに、かつ、干潮のうちに食べられそうな貝類を取りに行き、朝昼晩兼用の食事として、一日一回、焼いて食べる。

初日は、海辺で1cmほどのカニを見つけたので、捕まえて焼いて食べました(美味!)が、それっきり。救いだったのは、この島にはカメノテ(写真左下の岩の割れ目にあるゴジラの背びれみたいなもの)が豊富にあったこと。毎日カメノテをほじくり出して食い繋ぎました。

写真左下に見えるカメノテは豊富に存在

ただ、全くもって栄養は足りず、だんだんと低血糖になる。低血糖でふらつく中で、足元の悪い岩場に行くと、すぐに足をとられて危険。岩場にいられる時間も短くなると、貝類の収穫量も減る。するとさらに腹が減る、という悪循環。
 
圧倒的な空腹感。

「腹が減っては戦はできぬ」とはよく言ったもので、腹が減っては貝を取りに行く気もおきない。なので、さらに腹が減る。活動量が目に見えて減っていきます。一にも、二にも、三にも、体力。体力がないと水食住の全てに影響し、水食住に乏しいと体力に影響するという悪循環。普段、いかに文明社会で暖衣飽食しているのかが身に沁みてわかりました。

最後に

今回実感したのは、三つ。
 
一つ目は、理論と実践は全く異なるということ。例えば、「海水を沸かして淡水にして飲めばいいじゃん」と頭で考えても、それに適した道具がない状況では、実際は不可能。全てはやってみないとわからない。
 
二つ目は、体力の重要性。体力がないと、水も取れない、食も探せない、住処も変えられない。
 
三つ目は、仲間のありがたみ。苦しさを共有する仲間がいると話もできるし、活動の役割分担もできる。一人孤独に何ヶ月も無人島生活を続けるのは、想像を絶します。
 
最後に、日本人がたった一人孤独に島でサバイブするという点では、フィリピン・ルバング島で、終戦後も約30年(1944-74)に亘って生き延びた小野田寛郎少尉を思い出します。その壮絶なサバイバル生活は、昨年公開の映画「ONODA 一万夜を越えて」に描かれています。サバイバルのみならず、多くを考えさせられるとても良い映画ですので、是非ご覧ください。


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