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 洞窟のようだなと思って歩いていると、前方に小さな灯りが見えた。地面は形や大きさがまばらな石を敷いたようにでこぼこしていた。この暗闇では油断すると転んでしまいそうだ。

 灯りのところまでくるとそれが松明だとわかる。その先からは暗い道を照らすように規則的に松明の灯りが続いていた。そして今いる場所がどうやら建物の中だと分かった。どこかの地下室か。灯りを頼りに歩みを進めていった。自分の影が石の壁に伸びているのが不気味に感じた。

 分厚い木の扉が開いている部屋があり、そこから光が漏れていた。

 中の影が動く。物音がした。

 誰かがいる気配。

 思い切って覗いてみると、サビ猫が神経質そうに大きな本のページをゆっくりめくっていた。

「中に入りなよ」と雄のサビ猫は静かに言った。その影は黒々としていて今から理不尽な事を言われるんだなという予感がした。

「君は例のアレを見てるよね」

 こちらが言葉に詰まっているとさらにサビ猫は続けた。

「アレは私たちの大好物でね。年に一回、必ず食べるようにしているんだけど、最近は中々手に入らなくなってしまった。というのも、アレが見える人間が年々減っているせいなんだよ。どうかな。アレを捕まえてきて私たちに譲ってくれないだろうか」

「アレというのはその、あの変な喋り方をする魚のような、あのグロテスクな生き物のことかな?」

「そう」

「捕まえるってどうやって?」

 サビ猫は面倒くさそうに後ろ足で耳の後ろを搔いた。そして少し怒りながら「わかりきった事を聞かないでくれ。これだから人間は…」

 言い終わらないうちに部屋の中の松明が一斉に消えて真っ暗闇になってしまった。

 暗闇の中で「約束したよ」と聞こえた。


 目覚めるとボートにいた。

 岸辺が見えない。大きな湖だろうか。

 そこには月と自分しかいなかった。

 静かな水面を覗くと知らない猫の顔が映っている。

 じっとこちらを見ている。まさかと思って自分の顔に触れてみると柔らかい毛に覆われている。大きな耳がぴくぴくと動く。長くて立派なヒゲもある。

 目の前の水面に小さな水泡がぷくっぷくっと上がってきて、何か生き物が呼吸しているんだなと思っていたが、その生物が水面に上がってきて何か喋り出すのはもうわかっていた。沈んでいく前に捕まえてさっきのサビ猫のところに持っていかなければならない。

 使命感がむくむくと湧いてきた。

 月が水面に浮かんだ小さな生き物をぬらぬらと照らしている。



 

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