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フォーム作りのイメージについて

走るための身体の準備の専門家

ABCR菅原航陽

によるコンディショニングシリーズ


今回は少し脱線して、

「フォームづくりのイメージ」

というものについて解説をしてみようと思います。



体幹のエクササイズを紹介する記事を書いていたのですが、「前に進む」という動作についての解説をし始めたらそれだけですごい文字数になってしまったので、別記事として書いておくことにしました(笑)


これを説明せずにはエクササイズの紹介が出来ないので、各記事の冒頭部分からリンクできるようにしておきますね。



良い姿勢とは?


「走る」という動作を一言で表すと、

”良い姿勢をそのまま平行移動させる”

という感じかなと思っています。


「良い姿勢」という言葉についても説明が必要かと思いますが、これも細かく話し過ぎるとキリがないので、「走る」ということを考えた時の良い姿勢というものについて簡単に考えてみると、

”身体の中心線から前後左右に各パーツの重さが偏ることなく、またその中心線上方向に向かって引き伸ばされている”

みたいな感じでしょうか?


上の言葉を、少し分けて説明しましょう。


①各パーツの重さが偏ることなく

例えば、前後から身体を見たとき(この面を前額面と言います)に、肩の高さが左右で違うとしましょう。

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(原因とか結果の順番の話はさておき)肩の高さが違う場合、頚の傾きや頭の方向はどうなっているでしょう?

人によっては肩が低い側に向かって倒れている場合があるかもしれません。

また人によっては、頭はまっすぐになっているかもしれません。

でも肩の高さが違って頭はまっすぐだとすると、例えば骨盤が、肩が高い側の方向にスライドしているかもしれません。


しかもこれが、ただ静止した状態であればまだ肩の高さの差だけである程度抑えられるかもしれませんが、一歩前へ踏み出してみたり、ジャンプしてみたりすると、そのバランスというのは一気に大きく崩れ、それでも何とか転ばずに立っているために、人間は無意識のうちに色んな代償動作(かばい合い)を取り、何とか立ち続けるのです。


というように、人間はニュートン力学の世界の中で生きているので(光の速さを超えるくらい速い人についてはここでは扱いません笑)、まずは前提として3つの法則を無視することは出来ません。


且つ「転びたい」と思っているわけではなく「速く遠くまで走りたい」という意思があるので、どこかが崩れると無意識にどこかがかばうようにしながらなんとか前へ向かって進んで行くのです。


②中心線上方向に向かって引き伸ばされている

「関節」があると思います。

関節とは何のために存在するのか。

動きを生み出すためでもありますが、それだけではありません。

衝撃を吸収するためですね。


股関節、膝関節、足関節(足首)等、下肢の大きな関節をイメージしてもらえると分かりやすいと思いますが、例えばその場で両脚でジャンプしてみましょう。


ジャンプ→着地するとき、関節をなるべく曲げないようにして着地すると、身体にガツンと響くと思います。


危険ですね。


逆にそれらの関節を大きく曲げながら、「着地」という動作に時間をかけることで、先ほど受けたような衝撃感は抑えられるはずです。


では、そのジャンプを繰り返そうとした場合はどうでしょうか?


関節を深く曲げて衝撃を吸収するような着地とそこからのジャンプを繰り返すと、ものすごくキツいと思います。


逆に接地時間を短くして、着地した瞬間に地面を押し返すような動きを繰り返した方が、かなりエネルギーを節約している感がありますよね?


ということで、関節というのは人間にとって必要不可欠な構造ではあるものの、「走る」という動作を考えたとき、関節の曲げ伸ばしが大きくなればなるほど長時間の運動には向かないのです。


特に脊柱というのは、腰椎・胸椎・頸椎という24個の椎体(+仙骨&尾骨)が積み木のように積み重なりその間全てが関節なので、

1.背中が丸まったり腰が反ったりして脊柱のS字カーブが深くなりすぎる

2.①でお話した重さのバランスが崩れやすくなる

3.全身の連動性が低くなる

4.各パーツが衝撃を受け止めきれない→別を頼る→それでも無理、、、という衝撃の処理のたらいまわしが起きる

5.衝撃の吸収に時間がかかる=関節を大きく動かすことになる

となりやすいので、特に「体幹が重要ですよ」という話はこういう意味合いもあるのです。


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↑最初のポジションは良いのに、動作の中で連動性が崩れると着地時のポジションも崩れてしまう例。


この辺りのお話についても、本当は筋肉の収縮様式についてだったりバイオメカニクス的なお話を交えてもっと深くしたいのですが、文字だと永遠に尽きなそうなので、いつかまたの機会に…。



推進力


ということで、前置きが長くなり過ぎましたが、ここまでが「良い姿勢」についてのお話です。


ここから走るという「動き」についてのお話です。


良い姿勢が保持出来ても、それを前に進める、しかも速く・遠くまでとなると、交互に足を前に出しては着いてという繰り返しの動作が必要になります。


両脚でジャンプし続けても前には進めますが、それは「走る」という動作とは言わないだけでなく、多分、遅いしすぐ疲れます。(その理由は脱線になり過ぎるので割愛…)


さて、見出しに挙げた「推進力」とは、文字通り「進むための力」ですが、それは一つだけではありません。


先ほども出てきた「ニュートンの法則」を思い出しながらイメージしてみて下さい。



①慣性

最初の一歩目を含む「前傾」の話は一旦後回しにするとして、運動の第一法則=慣性の法則というものがあります。


”外部から力を加えられない限り、静止している物体は静止し続け、運動している物体は等速直線運動を続ける”


というものでしたね。


もちろんこれは理論値的なもので走るという運動にはそのまま当てはまるものではありませんが、出来る限りこの等速直線運動に近い状態を維持することが、「長く遠くまで」走り続けるために必要な要素となります。

また、「速く」の部分に関しては、一回一回の外力、即ち接地した際に生み出される進みたい方向へ向かう力-速度関係(=パワー)を高めることで達成されます。



②脚を前に運ぶ

慣性に乗って水平移動しようにも、まずやはり脚を前に出さなければ話になりません。


この第一歩目から数秒間はクレアチンリン酸がエネルギー源となるため、この部分の節約というのはあまり考えなくて大丈夫です、、、


が、ここで加速し過ぎてしまうと当然運動エネルギー(位置エネルギー)が大きくなる=着地の衝撃が大きくなり、それに見合うフィジカルレベルがなければダメージの方が大きくなってしまうので、スゥーっと加速しながらコントロールできる範囲に落ち着けることが大切です。


且つ、「脚を出す」と書きましたが、脚だけが前に出た状態で接地してしまうと、どうでしょう?


進ませたいのは「重心」です。脚だけを前に出してしまうと、接地点よりも重心が後ろにある状態で接地してしまいがちです。


そうなると、重心=身体の重さの中心なので、重力に引っ張られる+接地点からの反作用は後ろ方向に向けて放たれるので、ブレーキ動作となってしまいます。

無題

↑接地点に対して重心が後ろにある(逆脚を前に引き戻し切れていない分、重さが後ろに残り過ぎている)


ただ、自分自身も何とか前に進もうとはしているので、結果的にそれらの合力は、純粋に進みたい方向ではなく上方向の成分が大きくなり、「跳ねる」走りになってしまうというわけです。(このパターンだけではありませんが)


ということで、脚だけでなく重心も含めて前述の姿勢全体を前に引き出す=「前傾」のための筋肉の動きや連動性が必要となってきます。



③地面からの反発

これがよく分からないという方もよくいらっしゃるのですが、前述の内容に当てはめて考えると、反発=反作用と言い換えることが出来ます。


某ドラ〇もんのように磁力?等で常に地面に接することなく歩いたり走ったりすることが出来ればこういう衝撃だとか反発だとかいう事も考えなくて良いのかもしれませんが、残念ながら我々人間は、地に足を着いて生きて行くしかないので、当然接地した時に同じだけの反作用というものが返ってくるわけです。


ただ捉えようによっては、この反作用の力があるからこそ自分の筋力で脚を前に出して進む以外の大きな推進力も得られると考えれば、これを味方にするか敵にするかというのはかなり大きな話になりますね。


サーフェス(地面の素材や状態)によって、反発係数が違ってくるので、サーフェスによって上記も含めた①~③の割合というのも変わってきますが、この要素の利用効率の差というのが、楽に速く走れるかダメージの大きな走りになるかの一番の分かれ目のように感じます。



「反発」についてもう少し掘り下げてみる


接地した際に地面からの反発が返ってくるというイメージは出来たかと思いますが、その返ってきた力をどうするかというと、まず第一に、吸収してしまっては非常にもったいないです。


もちろん、音や熱エネルギー分のロス等も含めて完全に跳ね返すというわけにはいきませんし、どのくらい走りを持続させたいか(距離)にもよるので一概には言えませんが、そこの扱い=スピード・ペースのコントロールという部分とも繋がってきます。


出すぎている分は少し吸収して、心肺系との兼ね合いも見ながら維持できる範囲の最大値を続けて行かなければならないので、吸収スキルももちろん大切ではあります。


が、多く生み出しては捨て、またたくさん生み出しては捨て、、、(まるで現代の人間の営みのようですが)なんていうのはエコではありません。


エネルギーの浪費というやつです。


ということで、必要分のスピードを生み出し、接地時になるべくロスなく、というエコでサスティナブルな動きをして行きたいのです。


そのために考えたいのが、ちょろっと前述しましたが、まずは「力の方向と大きさ(ベクトル)」です。


中学理科の範囲から、高校数学の範囲にレベルアップしましたが、計算なんかはしなくても良いので安心して下さい。


私も数学も、算数すら大の苦手、むしろアレルギーです(笑)


脱線しましたが、、矢印の方向と大きさですね、ベクトル。


この程度のイメージだけで全然問題ありません。且つ、まずは三次元ではなく二次元で、身体を横から見て(矢状面)、前後方向への移動だけを考えて下さい。


これが接地毎に発生するわけですが、例えば同じ「10」という大きさのベクトルが発生したとして、その方向が地面から75°の方向に向かっている場合と30°の方向に向かっている場合ではどちらが前に多く進んでいるかと言えば、当然後者なわけです。


同じだけのエネルギーを持っているのに一歩一歩進む距離の差が出る=前に進んでない(跳ねている)走りの方が、同じエネルギーを使っているのに長い時間がかかることになりますよね。


かなり単純化しているのでこの通りではありませんが、簡単にイメージするとそんなところです。



更に、一番運びたいのは重心ですが、重心という点で捉えてスーパーボールのようなイメージを持ってしまうと、それは案外罠だったりします。


人間の身体は点ではなく線ですし、もっと言えば各関節によってセグメント分けされた、折れたり曲がったりする線です。


そんな線だからこそ、上手く前傾ポジションを作ってあげると上方向への力を抑えて前方向へ向かう力になってくれます。


また更に、それが完全な一本の線ではなく、かるく各関節を曲げたり伸ばしたりした状態から接地時に姿勢をスッと伸ばしてあげたとき、それが反発力のベクトルと一致するとロス少なく前に進んで行けます。


無題2


そのポジションがずれていて、例えば膝下は地面に対して90°の直立に近いのに骨盤から頭までが60°くらいになっているとしたら、それは接地した足部から始まる合力としてはある程度前方向に向かう力にはなっているかもしれませんが、股関節や脊柱を深く屈曲させることで反発を吸い取ってしまっていることになり、せっかくの反発を上手く利用出来ていないことになります。




と、いうことで、非常に長くなりましたが、走りのフォームを作るという時の大前提のお話でした。


これでも細かいことはカットして、あくまでもイメージ作りだけに留めたつもりです…。


こういった競技特性というか、走るという動作についての理解がなければ、何故・何のために・どういう意識でこのトレーニングをするかということが分からず、意味の無いトレーニングになってしまったりという可能性もあります。


世の中に意味の無いことなんて無いとは言いますが、走るためにするトレーニングならば、なるべく自分の弱点を補い長所を伸ばしてくれるようなトレーニングにしたいところだと思います。


中途半端にかみ砕いた私の物言いが分かりにくければ、どうぞご質問等もご遠慮なくご連絡下さいませ。


走るというのは割と手軽に取り組める運動ではあるものの、速く遠くまでという目標を持って、怪我せずパフォーマンスを高めようとすれば、それなりにやはり考えなくてはいけないこと、準備すべきことはたくさんあります。


スポーツですから。


そこまで含めて楽しんで頂けると、もっともっと楽しみが広がるかなと思っています。


Let's enjoy to make your RUNNING!!

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