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神の力を貰ったので遠慮なく世界を癒します (43) 女子会(本番)

日曜日の朝、リオはずっとソワソワして落ち着かなかった。

リオが初めての女子会を開催すると聞いて、セリーヌはわざわざ公爵家の若手料理人ナンバーワンであるジャンを派遣してくれた。

モーニングティーは何がいいだろうとジャンとさんざん話し合った結果のメニューがこれだ!

アボカドとハルミチーズのバゲット乗せ。薄切りにしたバゲットの上に潰したアボカドをたっぷり塗って軽く黒胡椒を振る。ハルミチーズは薄切りにしてこんがり焼き目を付け、アボカドの上に乗せる。ハルミチーズの塩気とアボカド&バゲットの組み合わせが堪らない。

小麦粉を使わないフラワーレス・チョコレートケーキ。生チョコ感がたまらない食感。

ラズベリーとホワイトチョコレートのミニカップケーキ。

卵とキュウリ、クリームチーズとサーモンなど種々のミニサンドイッチ。

山ほどのフルーツプレート。イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックカラント、チェリー、メロン、ブドウ、マンゴーと豪華なフルーツが載せられている。

(みんな、気に入ってくれるかな・・?)

ちなみにバゲットはエミリーのパン屋さんで買った。夕べ孤児院の帰りにレオンが買ってきてくれたものだ。

レオンは多忙な中、時間をやりくりして孤児院に足しげく通っている。アベルはとても元気そうで、よくお喋りするようになったそうだ。体重も増えてきたと聞いて安心する。

レオンは保育所計画についても院長と話を進めている。六人の女の子たちと面談をして、ベビーシッターや保育士の仕事に興味があるかと尋ねたところ、全員がやりたいと熱心だったそうだ。それを聞いて、こちらも安心して話を進められる。

(ああぁ・・もうすぐ十時だ。ドキドキする。こんな風に友達を家に招待するなんて生まれて初めてかも・・・。友達って思っていいのかな?な、なんて挨拶しよう・・?「初めまして」は今更よね。「ようこそ!」今まで一度も使ったことないわ。「おはよう」が一番自然かな。「来てくれてありがとう」みたいな?)

悩みながらウロウロと診療所と待合室の間を歩き回る。アニーが呆れてリオを二階へ追いやった。

「リオ様、どうか二階でお待ち下さい。お腹を空かせた熊みたいですよ。落ち着いてください。お客様がいらしたら私がご案内しますから」
「あ・・あの、私どこで何をしていたらいいのかしら?」
「大丈夫です。二階に上がって、ただソファに座っていて下さい。お茶も私が淹れますから触ったらダメですよ」
「はい・・・二階に上がってソファに座っています」

しゅんとして二階に上がろうとすると、その様子をどこからか見ているんだろう。ぶふぉっと噴き出すサンの声が聞こえた。

アニーに言われた通り、ただソファに座って待っていると、下から賑やかな声が聞こえてきた。エミリーとアメリが一緒に来たようだ。慌ててピョンとソファから立ち上がる。

そしてドキドキ跳ねる心臓を押さえながら、二階に上がってきた客人たちを出迎えた。

「お、おおおおはようございます!よ、ようこそ!」
「リオ様、おはようございます!お招き頂いてありがとうございます!」

エミリーが元気よく挨拶をするとアメリも一緒に頭を下げた。

「私までお邪魔して良かったんでしょうか?」

アメリが心配そうに呟くのでリオは彼女の手をぎゅっと握った。

「もちろん、来てくれてありがとう!嬉しいわ」

アメリが少し頬を紅潮させて「ありがとうございます」と小声で言った。可愛い。

二人はテーブルの上のプレートの数々を見ると大きな歓声を上げた。

「すご―――い!」
「こんなご馳走初めてみた!」
「あ、このバゲットもしかして昨日レオン先生が買っていかれたやつですか?こんなお洒落なお料理になるなんて!」

きゃーきゃーはしゃく二人を見て、ほっと胸を撫でおろす。

レオンは今日もまた孤児院に行くと出かけていった。でも、女子会に気を遣って留守にしてくれたんだろうと思う。

三人が腰を下ろすとアニーが優雅な物腰でお茶は何がいいか聞いてくれる。

「え、えーとお茶の種類なんて・・よく分からなくて・・」

アメリが戸惑うように言うと、アニーがにっこり微笑む。

「お二人とも授乳中でしたらカフェインが無い方が良いですよね?ルイボスティーはカフェインが入っていません。オレンジのフレイバーが入っているものは爽やかな柑橘系で飲みやすいかと思います」

さすがアニー。習ったばかりのカフェインのことをちゃんと理解している。エミリーとアメリが嬉しそうに頷いた。

「「じゃあそれで宜しくお願いします」」

リオが「私も同じものを」とアニーにお願いすると「承知致しました」と下がっていく。まさに侍女の鑑だ。

アニーがテキパキとお茶を用意した後、下がろうとするので

「アニー、今日はあなたも参加するのよ。自分の好きなお茶も入れてね」

とリオが声をかけた。

エミリーとアメリには

「アニーは看護師として私のサポートをしてもらっているの。今日の話し合いにも参加してもらいたいんだけど、構わないかしら?」

と聞いてみた。二人とも当然というように笑顔で頷いてアニーに一緒に座るように促す。

アニーは素早く自分用のお茶を淹れると、はにかみながらリオの隣に座った。

アニーが自己紹介した後は、和気あいあいと女子トークが進む。さすがアニー、コミュニケーション能力が半端ない。少し分けて欲しい。

リオは話を聞いているだけでも嬉しい。ニコニコしていたら不意にエミリーから声を掛けられた。

「そういえば、レオン先生は、今日はいらっしゃらないんですか?」
「今日は出かけているのよ。皆にゆっくり過ごしてもらえって言っていたわ」

これは本当。今朝そう言ってキスをした後、出かけていった。

「レオン先生はリオ先生のことがめちゃくちゃ好きですよね~」

エミリーがニヤニヤしながら突っ込んでくる。

(え、・・・そ、そうかな?て、照れる~)

「ダニエルが言ってたもの。ソフィーの治療をしてもらっている間、ダニエルとレオン先生で話してたでしょ?レオン先生はこの辺りの治安を良くするために自警団を作りたいんですって。女子供はどうしても弱い立場だから、男たちで守らないといけないって熱弁を振るってらしたって。リオ先生のことが心配で仕方がないみたいだって。ダニエルも自警団に参加するつもりよ。私とソフィーのことは自分が守るんだって張り切っているの」

「レオン先生、カッコいいしね~。あんなに男前なのに一途だから余計にモテちゃうのよね」

あ、いけない、というようにアメリが口を覆う。

「レオン様はやっぱりモテるのかしら?」

リオの言葉に女三人は「もちろん!」と頷いた。でも、アメリは申し訳なさそうに言葉を続ける。

「・・ごめんなさい。余計なことを言いました。でも、女を寄せつけないってもう知れ渡っています。先生に一目惚れした女性たちが患者のフリをしてレオン先生の診察を受けようとしたけど、あっという間に見破られて追い出されたっていう話は沢山聞きましたよ」

「そうだったの?全然知らなかったわ」

と首を傾げると、とアメリとエミリーが口々に

「レオン先生がリオ先生を見る目がもう・・・甘々で、溺愛ってこういうのを言うんだなぁって~」

「他の女性には路傍の石ころに向ける方が優しいんじゃないかっていう目つきですよ」

「リオ先生も人気だから、近づこうとする若い男どもが多いんだけど、レオン先生が完全にシャットアウトしてるもんね。鬼気迫るものがあるわよ」

と言ってくれる。

リオはなんだかおかしくなって噴き出してしまった。

四人で一斉に笑い出す。なんだろう。楽しい。

その後もこんな調子で、それぞれのダンナさんの話とか、アニーの恋人のパスカルの話とか、恋バナで盛り上がる。

(こういうのホント初めてだ。女同士の恋愛の話って楽しいんだな!)

リオは開眼した気分になった。

**

リラックスしたところで、今日の本題に入る。リオはまず、有料の保育所ができたら利用したいと思うかエミリーとアメリに聞いてみた。

アメリはうーんと考えながら慎重に答える。

「その保育所は赤ちゃんにとって絶対に安全な場所なんですよね?」

「そうなの。『保育士』という国家資格を作ろうと思っているのよ。赤ちゃんや幼児の世話を安全にできる知識や技術を持った保育士たちがきちんと面倒を見てくれるわ。卒乳後の赤ちゃんを対象にした方が良いかなと思っているの。授乳中はやっぱりお母さんと一緒の方がいいものね。なので、一歳~二歳くらいの赤ちゃんから幼児を対象にした保育所を考えているの。食事も安全で栄養のバランスのとれたものを用意する予定よ」

「私は興味あります。うちは鍛冶屋なので、小さな子供が作業場をウロチョロして怪我をするんじゃないかと心配なんです。危ない道具が沢山あるので・・・。四六時中、目を離さないとか無理ですし」

アメリが答える。エミリーも同感というように頷いた。

「有料でも大丈夫?」

二人は曖昧に頷きながら

「高すぎると無理ですけど・・・。その分仕事が出来るとしたら、大丈夫かもしれないです」

と言う。なるほど。リオも頷きながら話を続ける。

「早期幼児教育と言ってね。保育所でも赤ちゃんの時から歌を歌ったり、ゲームをしたり、子供同士で遊び方を学ぶこともできると思うの」

「それはいいですね。私は幼馴染がダニエルしかいなくて、最初は引っ込み思案で友達を作るのが怖かったんです。アメリと仲良くなったのも妊娠してからだったし。小さい頃から同年代の子供たちと過ごすことは良い勉強になりますよね。友達もできるし」

エミリーの言葉にアメリもうんうんと頷いている。

「それでね保育士の資格の中にベビーシッターの要件があってね・・・」

ベビーシッターの経験を積まないと保育士になれないことを説明する。ベビーシッターとして個人の家で働くが、給金は職業訓練助成金として公爵が出すことになっていることを話すと二人とも大興奮だった。

「それはものすごく有難いです!」

エミリーもアメリも嬉しそうだ。

「パン作りも赤ん坊を抱いたままだと効率が悪いし、何より危ないんです。無料でベビーシッターが来てくれるならとても有難いです」

(エミリーはソフィーを抱っこしたままパンをこねているのか。それは大変だろう)

「あくまで職業訓練の一環で、彼女たちはまだ正式な保育士になったわけではないの。だから、赤ちゃんの世話で未熟なところは怒らないで教えてあげて欲しいの」

「それは当然ですよね」

アメリは頷く。

「あと、ベビーシッターで来る子たちは召使ではないということを常に念頭に置いて欲しいの。だから、料理とか洗濯とか掃除とかはやらせないでね。あくまで赤ん坊の世話だけのためにそこにいるということを忘れないで欲しいの」

エミリーとアメリは頷きながら、忙しい時に赤ちゃんを抱っこしてもらうだけでもとても有難いと答えた。

(うんうん、なかなか好感触だわ)

「町の教会に孤児院があるのは知ってる?」

「はい、もちろん。リュシアン様とセリーヌ様がしょっちゅういらしてますし、皆知っています」

その孤児院で求職中の女の子たちの話をして、空いている施設を使って保育所にすることを計画中だと言うと、エミリーとアメリはとても良い考えだと賛同してくれた。

現在六人の女の子たちがベビーシッターの仕事を探していることも説明する。エミリーとアメリは是非ベビーシッターをお願いしたいし、あと四人も心当たりがあるので紹介できると言ってくれた。

順調に話が進みそうで安堵する。

その後も和やかに女子トークが続き、お昼ごろに無事に解散となった。

アニーが公爵邸に帰るのを見送った後リオはソファに横になる。『楽しかったけどちょっと疲れたなぁ・・』なんて思っていたら、うたた寝してしまったようだ。

目が覚めるとレオンの麗しい顔(かんばせ)が間近にあり、優しく指で頬を撫でられていた。何だかいつもこのパターンだな。

「今朝は楽しかったかい?」

レオンが甘い声で囁く。

(低いのに甘い声って無敵だ・・・)

「はい。エミリーとアメリはベビーシッターをお願いしたいと言っていましたし、残りの四人も紹介してくれるって」
「そうか、良かった」
「そういえば、レオン様がモテるって噂を聞きましたよ」

リオが冗談っぽく言うと、レオンはポカンとした顔でリオを見返す。

(え!?何の心当たりもないの?)

「誰がそんなことを?」
「アメリが言ってましたよ」
「へえ、気がつかなかったな」
「患者のフリをしてレオン様に近づこうとする女性が多いとか・・」

レオンが初めて合点がいったというように頷いた。

「そういう女性はいたな。すっかり忘れていた。大体病気でも怪我でもないのに療法所に来ること自体が非常識極まりない。モテるモテないとかいう以前の問題だ」

とプンプン怒っている。なんだちょっと安心した。

「良かった・・。レオン様が他の女性に興味を持ったらどうしようかなって」

と言った瞬間に噛みつくように口づけをされた。むさぼるような口づけに夢中になっていると、レオンが不意に顔を離して「君以外に興味を持てる女性なんて存在しない」と言い切る。金色の瞳がひどく飢えているように見えた。

甘々だ・・・思いつつ、その日は二人でいちゃいちゃして過ごしたのだった。


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神の力を貰ったので遠慮なく世界を癒します (44) 特殊能力|北里のえ (note.com)

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