9章 粒子の不思議

存在の不確実性

魔界へと進む船から、一羽の鳥が夜空に飛びたった。

その足首には、ヴァイオレットに向けた手紙が結びつけられていた。。。

***
船室の2階は、コロニー管理室。

窓沿いの壁付き長テーブルで、白衣を着た人物が記録を取っていた。

フランチェスカ、、、ではなく、エリカである。

魔法遺伝子を持つ単細胞生物が、新たな動きを見せれば、
直ぐに報告にあがらねばならない。
日中は活動しない菌であるが、
日没はマリアと交代で、この部屋に囚われてしまう。

しかし、菌に何の変化もなければ、正直かなり暇だ。

複数のランプに照らされた明るい部屋には自分1人だけ。
他の者達は、一階の部屋や甲板にいる。

ふと目の前にある書物が目に入る。

手にしてみるとそれは、それは量子力学の本であった。
自分の学年から始まる物理学の分野だ。

エリカはこの時間に勉強することにした。
何せ、自分はまだ学生の身だ。。。

しかし直ぐ、難解な文章に躓く。
教科書というより専門書に近い。

「難しい本ですね。」

背後から急に声がした。

一瞬びくりと体を震わせてから振り替えると、そこにはレイナがいた。

エリカは、本をさっと隠した。

「勉強しているんですから、邪魔しないでください!」

思わず出た言葉に戸惑う。

自分は今、、、何て?

ひどいことを言ってしまったと後悔し、
「、、、ごめんなさい。」と謝る。

レイナはくすりと笑ってエリカの隣の椅子に、腰かけた。

そして、こちらに微笑を向ける。

いつもの無邪気な笑顔ではない。
別人かのように、大人びていた。

「反抗期?
あなたくらいの年齢なら、なっておかしくないですよね。」
レイナが言った。

窘められたのかと思い、エリカは苦い顔で彼女を見た。

しかし、それはとても優しい微笑みだった。
皮肉めいた雰囲気も一切感じない、温かな笑み、、、。

まるで、母親かのような、、、

レイナは、エリカから目を離し、窓の方を見た。
窓には、反射して写るもう一人のレイナがいる。
彼女は、自身の顔を見ながら言った。
「妖精の私が閉じ込められたこの肉体は、子を持つ母でした。
たまに、肉体の記憶が、目を覚ますんですよ。
きっと、反抗期の息子と、こんなやり取りをしていたんでしょうね。」

レイナを見ながら、エリカはふと思った。

”古来から、反抗期なんて概念があったのだろうか”

「ありますよ。平和な国と平和な家庭ではね。」

レイナが言った。

まるでエリカの心の声に答えるかのように。。。
いや、実際そうなのだろう。
彼女は妖精だ。

「平和が、、、1番ですね。」
エリカはふっと笑ってそう言った。

その時である。

小さな足音が響き渡った。

見ると、マリアがこの部屋に入ってきていた。
きびきびと歩きながらエリカとレイナの座る机に来た。

彼女は座ることもせず、机にある書類に目を通し次々と押印していく。

マリアは、年下ながら飛び級して同級となってしまった特待生だ。

エリカは恥を偲んで教えてもらおうとしていたが、その隙が全くない。

暫くその様子を見ていたが、彼女が手にしている印鑑を見て、エリカはハッとした。

エリカは興奮気味に言った。
「もしや、論文の第3者評価を行っていたのですか?」

「・・・おっしゃる通りです。」
マリアはそう答えたきり、口を閉ざした。

手だけはひたすらに動かし、押印し続けている。

「マリアさん。」
そう声をかけたのは、レイナである。

「何でしょうか。」とマリア。

レイナはニコニコ笑顔を浮かべて言った。
「エリカさんは、聞きたいことがあるみたいですよー!」

明るく軽やかな声である。
いつもの無邪気なレイナであった。

「少々お待ちください。」
マリアは小さくそう言うと、最後の3枚を押印する音を響かせた。

バン、バン、バンと、やけにテンポよく子気味の良い音である。

マリアは仕事を終えたのか、体ごと、エリカの方を向いた。
「先輩、何でしょう。」

「まぁまぁ、ここにでも座ってください。」
レイナがニコニコとしながら、マリアに椅子を差し出した。

「どうも」とマリアが座る。

「量子力学の初歩を勉強しているのですが、よく分からないのです。
教えていただけませんか?」
エリカは素直に頼んだ。

マリアは、エリカをちらりと見てから、事務的に言った。
「…構いませんよ。
私にお役に立てることなら、ですが」
態度に対して、謙虚な言葉遣いである。

学問に対する姿勢に圧倒されつつも、「ありがとうございます!」と礼を述べ、
早速、疑問を投げ掛けた。

「波動関数の絶対値の2乗が、粒子の存在確率を示すとは、どういうことでしょう」

マリアは淡々と答えた。
「ある地点における、波動関数の絶対値を求めた際に、その数値の2乗が大きいほど、そこに粒子が存在する可能性が高いということです。
つまり、粒子状態によって、粒子の存在確率が求められる、ということ」

「ちょっと何言ってるか、訳分からないー!
私も知りたいです!どういうことですか?」
レイナが話に入ってきた。

唐突に向けられたレイナの好奇心に、エリカは戸惑う。

「うーん、、、」
と頭を悩ませ、どう説明すべきか考える。

しかし、エリカの代わりに、マリアが話し始めた。
「全ての物質は、小さな小さな粒で出来ています。
その粒を、私達人間は、粒子と呼んでいます。
それが、物の最小単位。
つまり、それ以上に小さい物質は、存在し得ないのです。

そして、その粒子が、実は存在しないのではないか、、、という考えが、今のお話しの内容です。」

「え、存在しないって、どういうことですか?
物質が存在するならば、それを構成する粒子も存在しなければなりませんよね。」
レイナは食いつくように尋ねた。

「そこが粒子の不思議なところです。

実験により、粒子は確実にそこに存在するわけではないと、分かったのです。

存在する確率ならば、求めることが出来ますが、
存在すると断定することは出来ないのです。」

それから、マリアは、机の上に置いてある1つのランプを指し示した。
「例えばこのランプ。
これは確実に、この机の、この位置に存在している、そう言えます。

しかし、このランプを構成する粒子は、この位置に存在している確率が高いというだけで、確実に存在しているとは言い切れないのです。

粒子は、確率でしか、存在しないのです。」

すると、いつからいたのか、
部屋の隅にいたフランチェスカ研究長やって来て、
3人の前を回りをぐるぐる歩きながら、不思議な話を始めた。

「粒子というのは、物質を構成しているにも関わらず、その正体は波。

不思議ではありませんか?
波など、マクロ世界では物質とは考えられませんよね?

しかし、奇妙なことに、物質としての粒の性質をも合わせ持っているのです。

そして、その粒の存在は、確率でしか証明出来きないと。

なぜ、確率なのか、そして粒子は本当に存在するのか、という問題については、物理学の範囲にはありません。

そこから先は、魔法物理学の領域」

フランチェスカは、更に話を続けた。
「魔法物理学は、人間の意識を扱う学問。

かつて、この学問が登場する前は、
意識と、感情や意思は、別物だと考えられてきました。

感情や意思は、脳が作り出すもの、
意識はそれらを感じる本体であり、
意識自体には自由意思はないと。

私達は、自分の意思で行動してるように見えて実は、脳の命令で行動したことを意識が感じているだけなのかもしれないと。

そのような説が濃厚でした。

しかし、意識に自由意思はあったのです。

人間の脳に酷似した働きをする文明利器、AI、、、。
我ら公国が、唯一、帝国(魔法の国)に対抗出来る技術のはず、、、。

しかし、機械はどのように工夫を凝らしても、決まった行動しか起こさない。

かつて、今の帝国にもまだ魔法が存在していなかった頃、魔法の国の先祖はこのように考えました。

機械と脳、何が違うのか、それこそが意識の有無によるものなのだと。

意識には、脳の命令に反することの出来る自由意思が存在するのだと。

次第に、そのような説の方が濃厚となり、
自由意思を更に深く研究した末に、魔法物理学が誕生したのです。

今や、帝国はかつて魔法を支えた科学を放棄してしまい、我々公国と対になる存在となってしまいましたがね。」

フランチェスカは、興奮気味に続きを話した。
「自由意思とは……! 確率そのもの!!

脳の命令に反した行動が出来る自由意思といえども、
その意思も確率で決まる!!と、
魔法物理学の始祖は考えました。

例えば、多くの人は清潔な環境を好みます。
勿論、そうじゃない人もいるでしょう。

それらを全て統計化することが出来たなら、意思決定を確率で示すことが可能になる。

確率でしか表せないふ確実性を持つもの、
それこそが自由意思であり、意識であるのだと考えられます。

もう1つ、、、
不確実な動きをするものがあります。

素粒子です。

素粒子は、この世の物理現象は全て、確実に計算結果通りに起こるという概念をことごとく打ち砕きました。

つまり!不確実に動くものは、意識と素粒子のみ!!!

そしてそれはとんでもない仮説を産み出しました。

素粒子には意識本体があるのだという、、、。

いや、意識そのものだと。

甚だしく飛躍しすぎた考えでしたが、
その飛躍が、、、
          魔法物理学を産み出しました。

実際、その考えに基づく方程式により、意識をエネルギー化し物理現象をもたらすことが出来たのですから。

、、、、魔法の実現化です!!

素粒子は意識本体だ!

その考えは正しいと計算上は証明されたのです。

あくまで、計算上、の話ですが」

それから、立ち止まると、バンと机に手をつき、エリカに不適な笑みを向けながら熱弁した。
「そして!

意識の方程式による解は、
4次元空間を認知出来た人間にしか、算出出来ません…!!

つまり!

意識と空間が、何らかの関係を持っている。

それが魔法の謎を説く鍵となりましょう!!!」

その気迫にエリカは圧倒されながら、ふと疑問に思ったことを尋ねた。

「先程、、、
研究長は、意識は確率によりその存在が決定される、とおっしゃいました。

ぴったりゼロの確率は、存在しないということでしょうか。

もし、そのゼロをうち壊すことが出来たとしたのならば、」

フランチェスカは、立ち上がりエリカを見下ろして言った。
「面白いことをおっしゃいますね。

それを知ることになれば、
その人間は、
この世の秩序を成り立たせる、空間を越えた世界を認知してしまうことになり、
普段見ている日常の景色を見ることが出来なくなってしまう、
と言われています。

数字とは、宇宙の言語の中から、人間が認知出来るものを抽出したものに過ぎない。

ゼロを知ることになれば、数字の世界に止まることが出来なくなるでしょう」

言い終えると、フランチェスカは柔らかい微笑を浮かべて去っていった。

「ちょっと待ってくださいフランチェスカ研究長ー!
今の話、もっと聞かせてください!」
と言って、レイナもフランチェスカを追って部屋を出ていった。

2人がいなくなると、エリカは呆然として言った。
「研究長が私などを研修生にしてくださった、その行動確率は、限りなくゼロに近いのでしょうか」

マリアは淡々と言った。
「確率はあくまでも確率。
低い確率でも起きるときは起きるのです」

エリカは、その言葉を聞くとみるみるうちに笑顔になった。
「そうですね!
自分の意思で、確率の壁を乗り越えることは可能です!
先ほどは、勉強を教えてくださり、ありがとうございました!!」

「どうも…」
マリアは、少し戸惑ったように言った。

エリカは、再び勉強を始めようと紙をめくってハッとした。

いつになく、マリアの表情が柔らかいのである。

以前、ひょんなことから、マリアの呪いについて彼女自身の口から聞いてしまったことがある。

それは、感情を失うというもの。

何故、公国(科学の国)の人間が悪魔と契約出来たかは不明である。

しかし、呪いを打ち砕く確率は、ゼロに限りなく近い、けれども決してゼロではない数値として存在するのかもしれない。

エリカはそう思うと、希望を見いだしたように言った。
「私、研修生に相応しい能力を身につける為、もっともっと、努力します!」

意気揚々と勉強を再開するエリカを、
マリアは不思議そうに見ているのであった。

食糧確保

大海原へ出た船。

その甲板ではフランチェスカが、紅茶を嗜みながら、資料を熟読していた。

そこへやって来たエリカが、書類を見せながら、
研究長に溌剌とした口調で報告した。
「リー大佐(公国の軍人、帝国の監視をしている)が帝国の資料を送ってきてくださいました。
二代皇帝の時代に、帝国独自に開発した塗料試験紙で、天使に調べさせたという結果です!
魔界の空気組成、気圧、共に問題ありません!」

フランチェスカはそれを受け取り、吟味しながら
「ご苦労様です」と言い、
「引き続き、コロニーの培養・管理、お願いします」と、エリカに指示を出した。

エリカが意気揚々と立ち去る傍ら、マリアがやって来て、上司に進言した。
「研究長、魔界へ出でるに備え、携帯可能な食料と水分の備蓄をされた方がよろしいかと思います。
未知の世界には、人間が摂取可能な食糧や水分が存在するとは限りません。」

「そうでしたね。」
フランチェスカは、悠長に微笑を浮かべて言いながら、
「レイナさん」と手招きをした。

「何ですか?」とレイナがやって来ると、フランチェスカはくすりと笑った。

数分後、、、

突如として、海がぼこぼこと音を立てた。

「な、何だよ、、、!!」

航海士と話していた船長は、何が何だか分からずが驚いて、海をのぞきこんだ。

次の瞬間、一気に大量の魚達が空高く舞い上がり、船の上から降ってきた。

「わ、わぁー!」
船長は、叫びながら腰を抜かす。

他の航海士達も、何事かと慌てふためきながら、魚の雨から頭を庇った。

船室に入っていったエリカも、外の異変に気づき、扉を開けて顔を覗かせた。

すると、ぼとぼとと床におち、蠢いている数々の魚たちが目に入った。

「え、、、」

集合体恐怖症に苛まれ、エリカは悪寒を感じた。

見ると、レイナが庇の下で魔法らしき技を施している。

マリアは、大いに動揺する他の船員とは違って、
冷静な様子で颯爽と歩きながら、
唖然としているエリカを通り越して船室に入った。

マリアが船室から出てきた時、レイナは、空を切る勢いで掲げていた両手を下ろした。

すると突然、上からの魚達の襲撃は止んだ。

「い、一体何なんだよこれは、、、!!」
レイナの様子に気づいた船長が、
彼女の方を見ながら肝をつふしたように叫んだ。

答えたのは、レイナではなく、フランチェスカであった。

彼女は、場違いなほど優しげな声で言った。
「食糧の、確保です」

「はぁ、、、、そういうことは、先に言ってくれ」
フランチェスカの唐突な奇行にうんざりしながら、船長がこそりと呟いた。

その時、マリアが船室から出てきて、木の篭と氷を床にドサッと置いた。

「魚を集めて、撹拌圧縮し、携帯可能な大きさにしますよ」
フランチェスカが、優しげな口調で命をくだした。

船員たちは、拍子ぬけしながらも、彼女に従った。

みなが篭を手に、散らばった多量の魚を入れていく。
「そういえば、この国は化学の発展は今一つですよね。
それに付随する栄養学も、、、」
エリカが魚を集めながら言った。

「公国は、物理学に力を入れているらしいな。
ま、オレは帝国の人間だから知ったこっちゃないがな!」
船長が、魚をぼとぼとと手際よく入れながら言った。

それから、彼は、軍服の上に白衣を身に纏うフランチェスカを遠巻きに見て、
不思議そうに言った。
「研究長はなぜいつも、白衣を身にまとっているんだ?
強迫観念なのか?ジンクスなのか?」

「、、、?
そう言えば最近ずっと着用していますね
腹心のルイスさんに聞いてみますか?」
エリカが通りかかったマリアを示して言うと、
船長は呼び止めて尋ねた
「研究長の白衣は何なんだ?」

マリアは、淡々と答えた。
「精神的な安定剤のようなものです。
白衣を着ていると、どのような局面に立たされても、探求心が勝り、恐怖に煽られることなどないようになるとおっしゃっていました。
ただし、本人が1番恐怖に感じている物だけには効きません」

「変わったお方かと思ったら白衣が原因か」
船長が納得したように、心なしか皮肉まじりに言うと、
エリカが言った。
「元から、不思議なお方だと思いますよ。
ところで、研究長の1番の恐怖とは?」

マリアは、無表情に答えた。
「理性のない生き物です。
それと直面しなければならなくなったときは、我が身に変えてでもお守りしなければなりません。」

マリアが立ち去ろうとすると、
エリカが呼び止めて不安げに言った。
「ルイスさん?

話は変わりますが、、、
水分は、どうするのでしょう。
1番凝縮が難しい物質じゃないですか、、、」

「尿と便から抽出して、殺菌して飲むんだろ。」
船長は言った。

冗談のつもりか、真剣なのか分からないが、
気持ちのわるい回答をした彼をエリカが訝しげに見ていると、
フランチェスカがやって来て言った。
「あら、船長さん。
良いことを言いましたわね。
そうしましょう!」
フランチェスカが目を輝かせて言った。

エリカも船長も度肝を抜かれていると、彼女は今度は悩んだ表情になり言った。
「しかし水分というのは、汗や呼吸からも出ていってしまいますからね

永久冷却材(公国独自の永久機関)により水蒸気から摂取する他ありませんね。」

しかし、再び悩んでいる様子で言った
「必須栄養素の確保が大変ですね。

体内で合成出来ないので欠乏すれば致命傷。
仕方ありませんね。
魔界では誰かしら死ぬとは思うので、その方の肝臓をいただきましょう。

殺菌や異常プリオンなどは、アミノ酸溶解剤(全たんぱく質をアミノ酸まで分解し、無害化する帝国独自の錠剤)で排除しますからご安心を。」

「承知致しました。
では、衛生的に携帯する手はずを整えます」
そう言って去っていくマリアを見て、
エリカが目を丸くしていると、
船長が言った。
「お前、肝臓だけは大事にしろよ」

「あなたもね!」
エリカも彼を睨んで負けじと言った。

魚を集め終えると、今度は魔法撹拌棒で撹拌をすることとなった。

撹拌により、血が混じりどろどろになった魚な全くもって原型を留めていない。

「これを食うのかよ」
船長が、撹拌しながら言った。

「凝縮するのですから、それほどひどい見た目にはなりませんよ」
エリカが言った。

「こんなの、食い物じゃない。
食事じゃなく摂取だ!
まともな食事は、この船での晩餐が最期になるかもしれないぞ」
船長が言うと、
エリカは目をつり上げて言った。
「勿論、最“後”という意味ですよね?」

最難関の魔法

リー大佐率いる公国・帝国同盟軍は、田舎の荒らされた放牧地を通りかかり、農家から聴取を取っていた。

「帝国軍です。何事ですか」
大佐がそのように言うと、
農家の主がすがるように言った。
「偉大なる帝国の軍人さま
お助けください。

異国の軍人が現れ、魔物にこの農場を襲わせたのです。

羊60頭が、私たちの生きる糧が失われました」

大佐は、その後の聞き取りで、
懸念通り、ゴルテス・ガロンの仕業であったことを確認した。

それから部下に指示書を書き取らせると、それを手渡しながら言った。
「陛下に、あなた方への援助を進言しますので、当面の間は教会で施しを受けてください」

「あぁ、、、何とお礼を言ったらいいか
偉大なる皇帝陛下、そして宮廷軍人さまに幸あれ」
男性は、最高敬礼の姿勢を取って言った。

大佐は、安慰の念を込めて彼の肩に手を置いた。

その時、男性が顔をあげて言った。
「粒子爆弾をご存知でしょうか。
ゴルテスというものが口にしているのを聞きました」

「なぜそれを?」
リー大佐が眉を潜めて尋ねると、
男性は言った。
「私の祖父が考古学の研究者でして、ほぼ確実に言える真実を見つけてしまったのです。」

それから男性は話し始めた。
「粒子爆弾は、戦争の為に作られたわけではない。

魔物しか使用出来ない魔法を、人間が使えるように開発するためのものだったのです。

その最も難解な魔法は、希望した物質を生み出す魔法。

それを可能にするたった1つの方法は、粒子爆弾を遺伝子に組み込むこと。

組み込まれた人間は、爆発のエネルギーを集約し、希望した原子を作り出すことが出来ます。

今いる皇族=魔族の方は、その爆弾は宿しておられません。

現存する魔法は、見えない原子レベルの物質から、希望する物質を精製するもので、あたかも、何もないところから生み出したように見えるのです。

なぜ、その難解な魔法を使用出来た彼らが消え去ってしまったのかについても祖父はきっと解明していたに違いありませんが、
亡くなった今となっては聞くことは永遠に叶わないでしょう。

もはやこの世に、その爆弾を抱える人間は生存してないと思われます。」

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