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僕は僕を探しに旅に出る

柔らかな陽春の日差し
心がわくわく動きだす。
木の芽が芽吹いて
心をそわそわと刺激する。

何者かになりたい。
心がむくむくと騒ぎだす。


ある日
僕は突然気がついた。

僕の心にはぽっかり穴がある
毎日を物足りなくて
淋しくて
つまらないものに感じていた。

何者かになるために
僕が僕であるために
僕の欠けた一部分を
埋めなくてはいけない。

僕は僕を探しに
旅に出ることにした。
自分の心の穴を埋めるため。


僕が僕になるために
足りないものはなんだろう。
僕というアイデンティ
完成させるものはなんだろう。

僕は僕を探しに旅に出た。


南の海で潮を吹くクジラがのんびり言った。
「ゆったりと雄大な気持ちをもつことじゃないかな」
気ままに空を飛びながらカモメは
言った。
「自由に飛んでいく挑戦する心が必要よ」
北極の白熊はじっと目を閉じて
「時にはじっと動かずに耐えることだ」
森の奥で主と呼ばれるキツネは
「先を見通して計算する。それが大事だ」
サファリを群れで旅するヌーは
「仲間と協力すると、物事は上手くいく」

旅で出会った動物たちは
口々に自分が1番大切にしていることを教えてくれた。

僕には
どれも大切でどれも自分に足りないように思えた。
1番はなんだろう?
僕の心の穴には何が必要だろう?
頭が混乱していた。

僕は考えた。
朝から晩まで考えた。
日が昇って日がくれた。
また
日が昇って日がくれた。

3日目の朝
ホウホウ梟が通りかかった。
僕は悩みを打ち明けた。

「そのままでいい。君は何が必要か探し続けている。そして考え続けている。それこそが君だ」

僕が僕であること。
自分に欠けた部分を自覚して、受け入れて埋める努力をすること。

欠けた部分は僕には必要な部分な部分なんだ。

僕は家に帰ることにした。

僕はこれからも旅に出る。
僕を探しに旅に出る。
それは世界を巡ることかもしれないし、自分の心の中を見つめる旅かもしれない。


僕は僕を探しに旅に出る。

僕は僕を探すことを止めない。

僕が僕であるために。







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