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はじまりの、うつ病



ある朝、目を覚ましたら、いつも隣で寝ている夫の姿はなかった。

(あぁ、トイレか…)

真横には、夜中に添い乳をした娘と、ものすごい寝相でベットから半分落ちかけてる息子がいる。

二人を起こさないように、息子はベットに引っ張り上げて、私はトイレに向かった。


まだ夜泣きをする娘に付き合い、私の頭はぼーっとしている。


メゾネットのアパートは一階にしかトイレがない。

トイレに入っているであろう夫に、トイレを変わってもらおうと、戸を叩いた。


返事はない。中を見れば、誰もいなかった。


「…あれ?」


どれだけ子どもたちが夜泣きをしても、夜中起きない自慢の夫が、朝早くにベットにいないのは、トイレしかない。と思っていた。

今までもそうだったし、夫のトイレは長い。


今日もそうだと思ったのに


トイレで用をたし、私は玄関を見た


(靴、ある)


窓の外を見た。部屋の真横にある駐車場には、我が家の愛車が止まっている。


私は首をかしげた。

我が家のアパートは、2LDK。部屋は、一階のリビングと寝室と、倉庫のような趣味部屋。

もちろんリビングのソファにも、お風呂にも夫は居ない。


正直眠い。めちゃくちゃ眠い。

もう寝ようかなぁ…でも夫の所在がわからないと、なんだかなぁ

夫は、かまってちゃんな一面もあって、時と場合によっては気づいてあげないと機嫌が悪くなるという爆弾付き。
子どもも2人産まれてれ、そろそろ子供っぽい性格も直してほしいなぁ


あと探していないのは、倉庫のような趣味部屋。


あくびをしながら階段をのぼった。


部屋の扉を開けた。


「…なんでやねん」


決して関西人ではない。しかし、言いたくもなる。

部屋の中心には、山盛りの毛布、羽毛布団、こたつ布団が山盛りに重なって山になっていた。


「これ…誰がしまうのよ…」


ため息と寝不足と疲労が口から一緒に出てきた。


布団が山になっていること以外、この部屋に以上はなかった。

あたりを見ても夫はいなかった。


あれ?本当にどこ行ったんだろう?


携帯に連絡しても、携帯は布団の上だった。


何かがおかしい。


少しづつ、不安が膨らんできた。

夫捜索から15分たった。

ベットにもどり、無駄にクローゼットも開けたけど、やっぱりいない。

頭を抱えそうになって、ハッとした

布団の山だ!

はじめはなにか探したくて、布団をぐちゃぐちゃに置いたんだと思った。

でも、そこに隠れてるとしたら?


布団を剥いでいったら、見事!

大きい体を小さく丸めている夫の背中を発見。


私は呆れながら、笑った。

本当に、こういう可笑しいことを突然やるんだから


「もう、初夏のこの時期に毛布と羽毛布団とか、汗つくからやめてよー自分で片付けてよ?」


夫から返事はなかった。

私はまた首をかしげた。え、寝てる?


「ハッシー?」


背中を触ると、びっくりするぐらい、その背中が跳ねた。

びっくりしすぎて、夫を触った手を引っ込めた。


「…ど、どうしたの?体調悪いの…?」


もう一回夫の背中を優しくなでた。

夫は、怯えながら、ゆっくり、片目だけこっちに向けて


「…ぃ…怖‥怖い…怖い…」


うわ言のようにつぶやいていた。

震えながら、大きな体を小さく丸めた夫。


「…ふ、布団…かけて、嫌だ…怖い、から…」


私は、夫の豹変ぶりにどうすることもできず、布団をかけ直し、布団の山を作り直してあげた。


私の思考は一気に目が冷めた

何が合った?昨日の夜は、そのまま変わらず寝たのに…何が合った?

思い出したのは、夫が昨日の夜初めて飲んだ。精神薬。

「これが、うつ病、なの…?」

私の口から出てきた言葉は、自分でもびっくりするほど絶望していた。


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