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サイドブレーキはクモの糸。やっちゃったらあの世行き【ゴミ収集車の運転席からお送りします】

 運転手は出勤して必ずやることがある。それは日常点検だ。
 ライトは光るのか、サイドブレーキの効きは良いのか、ゴミを収集するときの回転盤は正常に動くのか等々、出発前に必ず確認する。

 タイヤを靴の先っちょで蹴ったり、ハンマーでコンコン叩いているのは、決して収集車に恨みを持った犯行じゃございません。タイヤの空気圧が正常なのか確かめているので『あそこの運転手、普段から怪しいな行動をしていたわ』と朝のニュースで報道されるようなインタビューを受けるのはやめてくだせぇ。

 まぁ、そんな感じで点検してから出発するんですが、それでもゴミの収集中に故障することはある。そんなときは代車の出番だ。代わりのゴミ収集車と交代し、収集作業を再開する。

 今から十年位前かな、現場で収集車が故障したときは、整備主任に代わりの収集車を持ってきてもらった。

 助けに来た収集車は、かなり年季の入ったおじいちゃん収集車だった。
 バックモニターは白黒、サイドブレーキはぐいっと引くと、ジェットコースターの上り位、角度がついた。え、大丈夫かこれ?

 ワシの不安に答えるよう、おじいちゃん収集車はエンジンを唸らせた。エンジンの調子は良さそうだ。フットブレーキの利きもいい。まだまだ現役だ。そう感じた。よし、これならいける!

 ワシは作業員二人と供におじいちゃん収集車に乗り込んだ。次の現場でその力、見せてもらうぜ!
 現場に向かう。走りは良い。信号を曲がるのもスムーズだ。急な坂道を上り、赤信号になったので止まる。左手でサイドブレーキを引いた。そのとき。

 ぶちんっ。金属のバネが千切れたようなイヤな音がした。あれ、あれ?
 サイドブレーキの感触がスッカスカになっていた。引いても、へなんと力なく下がる。ちょ、え……ちょちょちょちょっ!?

 ゴミ収集車の後ろには車が列になっている。信号は赤から青に変わりそうだ。サイドブレーキの補助なしで坂道発進をしなくちゃならなくなった。失敗したら下がって、後ろの車にこっつんと当たったら事故になる。サッと血の気が引いた。

「後ろ、後ろで支えて。お願い!」

 作業員二人に降りてもらってゴミ収集車を押して支えてもらう。今、冷静に考えればクソ重いゴミ収集車を、人の手で支えられるわけないのだが、あのときはパニックだった。

 信号が青になった瞬間、おおいにエンジンをカラぶかし、黒煙をあげてなんとか坂道を脱出。近くのコンビニに避難させた。

 整備主任に電話する。
「どした?」
「すみません。壊しました」
「またぁ!?」
 一日に二台もゴミ収集車を壊したワシ。
 会社ではサイドブレーキを引きちぎった男として、しばらくネタにされることとなった。とほほ。

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