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行って帰ってくるのか、こないのか(『君たちはどう生きるか』若干ネタバレ感想)

「君たちはどう生きるか」を
ひとりで観に行ってきた帰り、

これは夫と(じゃなくても誰かと)一緒に観に行けばよかったな、

と思いました。

なぜなら、

心が映像と音楽に持っていかれすぎて
帰り道ずっと
映画の世界に居続けたままみたいな気分だったから。


親しい誰かと話しながら帰ったら、
もう少し現実に戻ってきやすかったな、と。


本当に個人的な感想ですが

この話は

「行って帰ってきた人と
帰ってこなかった人の話」

だなと感じました。



以下、もう少しネタバレ色濃くなります。
内容知らずに映画観たい!って人は
どうぞ閉じてくださいませ。


帰る真人と、帰らぬ大叔父のちがい



行って帰ってくる、
いわゆる「行きて帰りし物語」って

たとえばジブリなら

『千と千尋の神隠し』のように

冒険や内的な旅をへて
心の成長を遂げて帰ってくる
そんな構造をもつ物語。


「千と千尋」であれば

千尋は湯屋に迷い込み、
先に湯屋にいたハクに出会い
本当の名を取りもどして元の世界に帰る。


本当の名、
つまり
「自分が本来、誰であるか」を思い出して

そこでの体験の意味を糧にして
現実の世界に帰ってくる。


「君たちはどう生きるか」の真人も

哀しい体験からくる
悲嘆ややりきれなさ
喪失感を抱えながら
「この世でないところ」に入り込んでしまったものの、

母たちや友だちとの交流や
命を生きる経験を通して
心の中に何かを醸成し

元の世界=この世の現実で生きることを
自分で選んで帰ってきた。

でも
そんな真人がいる一方、


「行って戻ってこなかった」人物もいるのがいい。


一見天国のような、
けれど儚い世界で
同じ顔をした鳥たちに囲まれて
「殿」
(だったかなんだか、
とにかくその世の主みたいな呼ばれ方)と呼ばれ
その世界を創りながら生きる大叔父。


「とりつかれて」
「ひきずりこまれる」

と、俗世を生きる婆さまたちが言ったように

そこは
いろいろある現実に嫌気がさしたり
なにか満たされないものがあるほど
魅力的な世界なのかもしれない。


おそらく、


この大叔父も
真人も

もしかしたらその旅の始まりは
二人とも同じように
やり場のない満たされない気持ちを持った日常からの
スタートだったかもしれない。


けれども、

同じ場に行って

現実に帰って生きる決意をした真人
そして
何年も前に行ったきり帰ってこなかった大叔父。


この二人の
何が違うのか
どこが分岐点になったのかは、

このタイトルのとおりだと

わたしには感じられました。


どう生きるか


どこを見て、
なにを大事に
この人間の自分という存在を
生きていきたいのか。

真人と大叔父はたぶんそれが違ったんじゃないかな。


千尋とハクと真人が取り戻したもの



千と千尋で
ハクが自分の名を忘れ
「魔法使い」の弟子として
湯婆婆の言うなりになって生きていたように

深い哀しみや
この世への絶望、
人への不信、
ぶつけどころのない怒り、
やるせなさ、
あらゆる喪失などをきっかけに

自分でないもの、
一見魅力的な
正しそうで強そうなものに
自分を明け渡すと

結構かんたんに
「戻ってこれなくなっちゃう」
ことってあります。


この作品のテーマが
「君たちはどう生きるか」であるように

戻るも
戻らないも

その人の生き方の自由ではあるけれど。



なんだけれども。


この世で人間という肉体を持って生きる以上は
そういったネガティブといわれる感情や
個人ではどうにも太刀打ちできない不条理な出来事などと
全く無関係ではいられない。

天災とか
戦争とか
生き死にとか。
割とすぐそばにある。


それらを
「自分の世界にはありえない忌むべきもの」 
として徹底して排除すると
どこかあやうく、
いつか他者への暴力に姿を変えてしまうかもしれない。


この地球で生きる、
肉体も感情も
陰も陽も
条理も不条理も
生も死もある
人間という存在、

そのゆるがない事実をまるごと直視して
それでもなお、
いや、だからこそ

どこを見つめて、
何を感受し、伝え、
何を大事に思い、
誰や何とつながり、愛して
その命をどうやってまっとうするんですか。

そんなメッセージが

伝わってくるように感じました。


大叔父の名前が、
「大叔父」という役割の名だけで
そういえばよくわからないところも
(公式HPもパンフもまだないんですね…!)

守ってくれる婆さまたちが
人間的な欲いっぱいなところも

なんかね、
この世を自分として生きることの
ヒントのようで
いいなあ、と思うポイントでした。


超個人的感想でした。

もう一回みたら、また違って見えるかも。
何度でも、また見たいです。


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