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忽湧 6/24 「白い桜と蔵」

私の友人、Sくんから聞いたお話です。

Sくんの先祖は大正時代の大商人だったそうで。甲府の方にある祖父母の家がすごく立派なんですよ。
古い家ではあるんですが、商人だから質にこだわっていたのか、全然現役で住める家で。母屋だけでなく、蔵、池や大きなお庭がある立派なお屋敷だそうです。

お庭には立派な桜の木が生えていて、この桜が春になると本当に雪のような白さの花びらをぶわあっと広げるのは、もう圧巻だったといいます。
ただ、Sくんが不思議に思ったのは、家にある蔵です。
誰も中に入ったことがない。お爺ちゃんからそう言われたそうで。
とはいえ別段、一家の呪いとかそういう話ではありません。
そもそも蔵には鍵がかかっていて入れませんし、ご先祖様の商人が遺言として、
「あの蔵は一家の存続が危うい時に自ずと開く。それまで入るな。」
と遺しているため、躍起になって入ろうとする人はいなかったらしいです。

ですが、Sくんはどうしても中が気になってしまったんですね。
なんとか力技で開かないかと。蔵戸をグッと引いてみたそうです。
びくともしない。正直分かり切っていたことです。
しかし、おかしいんですよ。普通、蔵戸は閂という横木で閉めます。
閂受けと閂がぴったりハマることなんてまずないですから、どんなに重い戸だったとしても、ガタガタはするんですよ。
変だな、と思ったSくんは試しに横向きに蔵戸を引いてみたんですって。
そしたらガタガタするらしくて。どうやら観音開きではなく、スライド式の蔵だとわかって。
でもこれ以上なす術がなかったので、Sくんは諦めて家に帰ったそうです。

それから2年ほど経った冬、伯父の息子の奥さんが出産したそうで。ひ孫なんてそりゃあ可愛いわけですから、みな喜びました。
ただ、どうやらその方、浮気していたみたいで。DNA鑑定の結果、浮気相手との子だったらしいです。
だいぶ揉めて。一族大騒ぎですよ。ただ、こんな生々しい話、聞いても面白くないし、そこにいたくないじゃないですか。
だからSくん、トイレ行くふりして、蔵の方に行ったんですよ。
そしたらどういうわけか、蔵の扉が開いてて。
中には大量の古文書や小判が入ってたとか。

そのこと周りに伝えたら、あんな女のこと気にしてる場合じゃない!と親族の意見がまとまったそうで。
しかも一族の緊急事に開く門ですから、皆自分の行いを恥じたそうです。

でもSくんは蔵の中身より、なぜ蔵が開いたのか?
これが気になって仕方なかったんです。

それで蔵の中を見てみると、「ヘロンの自動ドア」と似た構造だったんですって。ただタンクの中の圧力が低下することで開くギミックだったらしいですが。

でも、不思議ですよね。なんで一族存続の危機で圧力が低下するのか?
結局わからず仕舞いだそうです。


その後、Sくんから写真をいただきまして。
どういう訳か今年は綺麗なピンク色の桜が咲いたそうですよ。

そういえば奥さんって結局どうなったの?

そう聞いてみたんですが、誰も知らないらしいです。



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