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障がい者になる心構え<第一回>

2023年6月10日、朝活@富山で発表を行いました。これはその発表の内容を文字起こししたものです。4回に分けて、今回は第一回です。

<全体の内容>
1. 導入 -私の障がい
2. 健常者の中の障がい者
 (1)    障がい者のイメージ
 (2)    障がいの分類
 (3)    社会が生む障がい
3. 障がい者への配慮
 (1)    二つの状態とのギャップ
 (2)    求める配慮
4.  障がい者とのコミュニケーション
 (1)    合理的配慮
 (2)    ハラスメント
 (3)    コミュニケーションの基本
5. 障がい者になったら
 (1)    家族への配慮
 (2)    なってしまったら
6. 最後に

1.表紙

page1「表紙」

はい。それでは始めさせていただきます。<本名>と申します。よろしくお願いします。

2. 今日の朝活は・・・

page2「今日の朝活は…」

今日の朝活ではですね。病気や障がいにならないために、普段行っておいた方がよいこと。よくいいますよね。例えば認知症にならないように、こんなことを心がけよう・・・などではなく、もしなってしまったら、障がいをもってしまったときどうするのか、どう考えていけばよいのか、その心構えを話します。身近な人とか会社で関わる人が、障がい者になったとき、どう接し、どう支えればよいのかを考えるために、知っておきたいことを話したいと思っています。
まあね、病気や障がいになったら、ゲームオーバーだよ、終わりだよ、と思うかもしれない。そうじゃなくて、病気や障がいになっても、人生というのは、嫌だけど、続いてしまうんですよね。終わりだ、もうだめだ、と思って人生諦めてしまうんじゃなくて、ずっと続きますよ、そのときに病気や障がいにどう向き合うかを考えていきたいと思います。

<Column>

このpage2「今日の朝活は…」は、最後まで仕上げたあとから、改めて付け加えたページです。同時に、発表内容とはまた別の問題提起をしたかった(けどやめた)部分です。

3月にも別の朝活で似たような内容の発表をしたのですが、その準備しているとき、あるWebサイトを目にしました。それにはこう書かれていました。
++++++++++++++++++++++++
● QOLを損なわないために必要なこと
超高齢社会の日本では、長生きするだけではなく、年を重ねても人生の生きがいや満足感を持ち続ける必要があります。ここでは、QOLを損なわないために必要なことを紹介します。
1. 人との関わりを持つ
2. 適度に運動する
3. 食生活を充実させる
● QOLを高めて豊かな生活を送ろう
加齢や病気の影響で体の機能が低下すると、QOLを低下させる原因になるため注意が必要です。心身が弱ってくると、介護を必要とするようなきっかけにもなります。そうならないためには、適度な運動・食生活の改善・健康的な歯の保持・社会と関わりを持つことが大切です。(中略)QOLを向上させて、いつまでも健康的な日々を過ごしましょう。
サントリーウエルネスオンライン より抜粋)++++++++++++++++++++++++
この記事に少なからず衝撃を受けました。
QOLってそういう意味だっけ? この記事は、健康でなければまるでQOLが低下するかのように書かれています。じゃあ障がい者になった私はQOLを損なっているということ? そして「介護を必要とするような」生活はQOLが低下した結果なのだ、と読めます。

そこで思い出したのは「健康でなければ死んでもいい」という言葉でした。
この言葉を初めて聞いたときは笑いましたが、だんだんそれほど単純な論理ではないように思い始めました。例えば「健康でないと病院に行かなくてはいけない。そのためには家族の助けが必要になる。一方で家族とは不仲である。家族に頼らなくてはいけないのは避けたい。ゆえに、健康でなければ死んでもいい」とか。
この通りの論理とは限らないものの、こんにち健康は個人が自立して生きていけるための条件になっているように思います。「病気や障がいになったらゲームオーバーだよ」と言ったのは、この「健康でなければ死んでもいい」の裏返しでした。

QOLは、病気や障がいになっても、介護など人の助けが必要となっても、平穏に生きていけることではないかと思っています。いま富山県の知事は「ウェルビーイング」を目標に掲げていますが、自助・共助に頼ることなく生きていけるようにすることが「ウェルビーイング」であってほしいと思います。

3. クイズ

page3-1「クイズ」

まあとりあえずね、はじめ、朝も早いので、簡単なクイズを、します。
問題です。「見えない障害」と呼ばれている障がいはどれでしょう。
1. 心臓や呼吸器機能など体の内部に障害がある、内部障害 である。
2. 生まれつきの特性で脳機能の発達に関係する、発達障害。わりと有名、というか最近話題です。
3. 脳が部分的に損傷を受けたためにおこる、高次脳機能障害 である。
うん。さて。どれだと思いますか。
(参加者)2番。
うん。2番。正解です。
といいつつ、実は「見えない障害」と言われているのは 高次脳機能障害 なんですけど、1番2番3番、全部「見えない障害」なんです。結局、正解というのはないんです(#1)。

page3-2「クイズ」

全部「見えない障害」なので、この「見えない障害」というのを、ちょっと頭に置いておいてください。

--- Footnote ---

#1 「正解というのはないんです」と言いましたが、「実は全部正解です」と言うつもりでした。

<Column>

内部障害:
外見からはわからないが、疲れやすい、携帯電話の電波が悪影響となる、トイレに不自由する、タバコの煙で苦しくなるなど、周囲の方の理解と配慮を必要とする障害

発達障害:
知能に問題がないのに読み書きが困難、特定の物へのこだわりが強いなど、アスペルガー症候群、ADHD(注意欠如・多動性障害)、学習障害、自閉症などの総称

高次脳機能障害:
集中力が続かない、感情のコントロールがきかない、新しいことを覚えていられないなどの障害で、主に「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会的行動障害」といった症状がある(page6「高次脳機能障害とは」に詳述)

4.私の略歴

とりあえず、私のことですけど、2004年に1型糖尿病を発症しまして、2年半前くらいになりますかね、2020年11月に脳出血で倒れました。

5. 私の障がい

page5「私の障がい」

その後に障がいをもつことになりました。三つ、大きくありまして、一つは左半身不自由、もう一つは高次脳機能障害、もう一つが1型糖尿病です(#2)。
左半身不自由は、動いていると思ったら動いていないところがあるので、あちこちぶつかって、ちょっと面倒くさいな、とはいえ、装具を付ければ杖なしで歩けますので、…今見えないですけど、これ(=装具)があれば、ゆっくりですけど、歩けるので、【後日注:半身不自由の人がみんなそうとは言えず、あくまで】自分はですけど、そんなに苦労してないかなと思います。
問題は高次脳機能障害ですね。症状はいろいろあるんですけど、特に困っているのは、まず記憶障害。覚えていたことは覚えているので、「あれ何だっけ」と全部忘れるならいいんですが、「あれ何だっけ」と、ふつうでもあると思うんですが(#3)、覚えていたことは覚えているので、どうも不安が多い、ということがあります。
もう一つは言語障害ですね。今はまあ言えているかもしれないですけど、頭の中で言おうと思っているのに言えなくて、もどかしい。もし質問とかいうときは、頭の中ではわかっているんですけど、言えなくなる。最後に質問を受け付けますけど、うまく喋れないことがあるので、そのときはごめんなさい。
もう一つが1型糖尿病。糖尿病というのは、膵臓から出るインスリンがあまりない病気なんですけど、1型は本当にほとんどないので、これは治りません。いわゆる不治の病。なので、いわゆる2型、メタボリック症候群とは違います。だから2型と思われてると、違うんだけどな、と思ったりもします。糖尿病で一番困るのは低血糖症状なんですけども、いつくるかわからずに、しかも倒れてしまうので、非常に厄介なんですけども、とりあえずは回避しています。あまり、本当に倒れたことはない。
糖尿病の人はわりと多いということもあるので、まあこの三つの中だったら、高次脳機能障害って何だよ、という人が多いんじゃないかなと思うんで、高次脳機能障害とは、っていうのを話します。(#4)

--- Footnote ---

#2 1型糖尿病は「障がいじゃなくて病気じゃないか」と言われそうですが、ここでは障がいの中に含めました。自分が苦しんでいるものがこの三つだからですが、他にもpage11「障がいの分類」で話す通り病気と障がいは区別があいまいということ、また難病は障害として認められていること、などもあります。

#3 「あれ、何だっけ」「あれ、何だっけ」ばかり繰り返していてよくわからなかったと思います。例えば、話している途中にこう返事しようと思っているのに、いざ話そうとすると頭が真っ白になったり、作業している最中にメール着信があり、もとに戻ろうとすると何をしていたのかわからなくなったり、ということがよくあります。おそらく一般の人でも思い当たることがあるのではと思いますが、それが頻繫で深刻なのです。もっとも、今はかなり良くなりましたが、前は「認知症もこういう感じなのか」と、普段の生活をするのにも不安を感じていました。
この記憶障害に言語障害が重なり、page14「周囲が障がいを生む」でいう社会との交流減少、孤立化・分断化に繋がっていきます。

#4 他に緑内障や前立腺肥大も抱えています。でも前立腺肥大は朝活発表時点でほぼ治っていました。緑内障は1型糖尿病と同じく治りません。

6. 高次脳機能障害とは

page6「高次脳機能障害とは」

とりあえず、まあ辞書的な話で言うと、「主に脳卒中や事故などによる脳外傷を原因として、脳神経細胞が一部壊死してしまった結果起きる障害」のことを高次脳機能障害というのですが、よくわからないですよね。
ルポライターの鈴木大介氏、僕じゃないですよ、【後日注:彼も40歳代のときに高次脳機能障害を患い、その体験談を】文章で書いているので、【後日注:その中で高次脳機能障害の状態について】こんなようなことを言ってます。※1
読みます。
「女性の胸元を見てすさまじい変顔をする人物が、僕。」「僕は絵に描いたような挙動不審人物になってしまった。」「けれど違う。僕は僕として、変わらずにあり続けている。」
「僕は僕として変わらずにあり続けている」んですよ。本人は全然ふつうのつもりなのに、なんか知らないけどいつも挙動不審になってしまう。このようにですね、考えていること・しようと思っていることに対して、見た目や振舞が大きく違ってしまう障がいが、高次脳機能障害といえます。ここが大きいな、と思っています。
だいたい高次脳機能障害って、わかりましたね。

※1 参考資料:鈴木大介『脳は回復する 高次脳機能障害からの脱出』新潮社、2018

<Column>

高次脳機能障害は、交通事故後の後遺症に対して運輸省(当時)と厚生労働省が作った概念です(2001年)。国際的な診断基準ではありません。
言い換えれば、高次脳機能障害は、日本でなければ障害と認定されていないということです。日本でよかった、とも思う反面、障害というものが時代はもちろん国によっても違う、あいまいなものというのがわかります。
なお「高次脳機能」とは、脳のうち人間特有の(人間らしい)機能のことです。それ以外の機能は(今は使われませんが)植物機能や動物機能、低次脳機能になります。※2

※2 参考資料:石井京子ほか『高次脳機能障害のある方と働くための教科書』日本法令、2020

第二回に続く →

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