見出し画像

クラウド型システムの進化・発展の5つの段階

ここ数年で、急速な進化と発展を遂げているクラウドシステムとその市場。弊社が主戦場として戦っているHRテック領域においても、組織人事関連のシステムのほとんどがクラウド化しており、まさに群雄割拠の戦国時代。HRテック領域として区分されるツールは、約500ツールあるとまで言われています。

これまで組織人事関連のシステムはオンプレミス(自社の中で情報システムを保有し、自社内の設備によって運用すること)が主流でしたが、テクノロジーやセキュリティの進化と発展、また規制緩和などに伴って、昨今、”組織人事のデータを外部の共有した場所に預けること”が一般化してきています。

これは、数年前までは、考えられないような世界です。

このコラムでは、このように進化・発展するシステムのクラウド化の中で、組織人事領域におけるクラウドシステム、つまりHRテックツールは、これからどのように進化と発展を遂げていくのかを、HRテック市場の第一線で戦っている目線、また広くクラウド型システムを眺めている観点からまとめました。

まず初めに、オンプレミスとクラウドの違いと特徴

HRテック市場における、クラウド型システムの進化・発展を語る前に、オンプレミスとクラウドについて整理します。

これまでは、組織人事領域の情報は、個人情報・特定個人情報であることから、その情報を外部に出さない/出すべきではないという考えのもと、社内のサーバやシステムで管理されるのが主流でした。しかし、セキュリティやテクノロジーの進化・発展、また災害などのBCPの観点から、ある意味では、社内置いておくよりも社外に置く方が安全という見解も生まれ、急速にオンプレミスからクラウドへ、ここ数年でシフトしてきました。

またクラウドは、オンプレミスのシステムや従来型のサーバとは異なり、購入するのではなく、利用料を支払う料金形態のものが多く、ひとつのサービスとして利用することができます。つまり、情報資産として保有しないため、バランスシートを重くしない、持たざる経営も実現させる観点からも、クラウド型システムの導入が増えたように思います。

また更にオンプレミスとは異なる、クラウド型システムの最大の特徴は、常時システムが新しく更新されていくことだと私は捉えています。

オンプレミスといった従来型のシステムの場合、システムの改修やバージョンアップは適宜行われるわけではなく、継続して新しいシステムを数年毎に購入することで、システムの改修やバージョンアップの恩恵を受けていました。しかしそれが、クラウド型のシステムの場合においては、常時または、かなり短いサイクルで定期的にシステムが新しくなる、新しい機能が常時更新され、使える状態になっていく。これがオンプレミスとクラウドの最大の違いと私は捉えています。

つまり、これまで、クライアントの要望やニーズは買い替えという形で解決してきました。しかし、クライアントの要望やニーズを拾い、それらを常時システムへ反映させることで、クライアントに寄り添うシステム。それがクラウド型システムの最大の特徴と言えます。

このようなクラウド型のシステムは、オンプレミス型のシステムとは違い、以下のふたつの特殊性を持つことで、これまでのシステムの概念とは、異なる進化・発展をする可能性を秘めています。

①常時接続
②シェア利用

この2つの特殊性を織り交ぜながら、クラウド型システムの進化・発展の5つの段階について整理しました。

1)コンテンツ

まず初めの段階は”コンテンツ”と呼ばれます。コンテンツとは、ある情報の集まりのことを指しています。例えば、人事管理システムのうちの一つの機能(評価機能など)の状態を、コンテンツと言います。この段階はオンプレミスでも実現できる段階と言えます。

2)プロダクト・サービス

ふたつめの段階は”プロダクト”または”サービス”と呼ばれます。プロダクトとは、先に述べた人事管理システムのうちの一つの機能だったものが、そのシステム群から飛び出し(独立し)、ひとつの商品として機能する状態を指します。例えば、人事管理システムの中の評価機能だけが、人事管理システムから飛び出し、評価システムとして単体で機能する状態を指します。また更にサービスとは、前述の”プロダクト”を用いてサービスを形成したものを指します。例えば、評価システムを用いた評価制度の運営代行などがそれにあたります。この段階になると、オンプレミスで実現できる場合とできない場合が出てきます。例えば、オンプレミスの評価システムを用いた評価制度の運営代行は、オンサイト(クライアント先の常駐など)であればサービス提供が可能となりますが、オフサイト(自社内からのオンラインサポート)となるとサービス提供が難しくなってきます。

3)プラットフォーム

ここまでの段階は、クラウド型のシステムでなくとも、オンプレミス型のシステムでも実現できる場合もありました。しかし、このみっつめの段階の”プラットフォーム”は、オンプレミス型では実現し辛く、クラウド型システムならではの段階となってきます。プラットフォームの段階では、これまではオンプレミスで、限定的な範囲の中で処理されていたものが、同質の情報を一つの場所に集めて処理することで、①効率的な処理を実現したり、②情報同士を比較して今まで見えなかった解をあぶり出したり、③処理歴(Good/Bad)を共有することで急速な処理学習し、④それらの成果に沿ってシステムが常時改修されていく段階です。

4)エコシステム

そして次の段階が”エコシステム”です。最近になって、ようやくこのエコシステムの段階に進化・発展してきたと感じています。このエコシステムとはプラットフォームとは異なります。プラットフォームは主に同質の機能や情報を集めることで形成されますが、エコシステムは同質なものではなく前後の処理、つまり前後のバリューチェーンに属するものが集まり、生態系にも似通った繋がりを作ります。例えば、中国大手IT企業のTencentが提供するWeChatが良い例です。WeChatは、FacebookやTwitterのようなSNSの機能から始まり、ボイスメール機能や動画通話機能、そしてQRコードに携帯電話をかざすだけで支払いができるPayment機能があります。更に昨年からは、登録されている情報(支払情報やSNS情報など)をもとに、決済スコアつまり格付けするサービスもスタートしています。こうなると、このエコシステムはひとつの経済圏になり、この経済圏に加わる、または中に入ることで”しか”経済活動に参加できない可能性も出てきます。

5)オペレーティングシステム

最後は”オペレーティングシステム”です。オペレーティングシステムとは判断の基となる機能を指します。例えるなら信号機です。信号機は、青は進め赤は止まれを、指示します。そしてその指示に従ってヒトは、進んだり/止まったりします。そう、車が来ていようが来ていまいが、信号機が、青なら進み/赤なら止まります。クラウド型のシステムは、前述の、特に3)4)の段階において、膨大なデータを保持し、そのデータに基づいて、Yes/Noの信号を発信するようになります。更にそのYes/Noの信号の結果が合っているのか間違えているのかに関係なく、ヒトはその信号にオペレーションされるようになるわけです。しかし、まだこの領域に到達しているシステムは少ないのが現状です。しいて言うならば、前述の決済スコアは、ややオペレーティングシステムに近い機能になっているといえるかもしれません。残念ながら、この”オペレーティングシステム”の段階まで進化・発展しているHRテックツールは、まだありません。

最後に

クラウド型システムの進化と発展を、自分なりのHRテックの側面と、広くクラウド型システムを眺めている側面からまとめてみました。WeChatのようなSNS関連やPayment関連のクラウド型システムは、既に第5段階まで来ているものもあります。しかし、HRテック市場においては、また1)~2)程度で、3)を標榜はしつつも、名実ともに実現できているツールは少ないと考えています。

働き方改革の実現や少子高齢化に向けた対策、また今回の新型コロナウイルスに端を発した勤務形態・雇用形態の変化など、組織人事領域はこれからまだ、ますます変化が求められる領域と言えます。

このような中、クラウド型の組織人事管理システム(HRテックツール)が、これらの変化に対する進化と発展の一助となり、第5段階まで進化・発展した時には、これまでとは全く異なる人材マネジメントが求められるようになるといえるでしょう。

その時に求めらるマネジメントとは何か、組織人事領域で活動する我々はどのような価値を市場に示していくべきなのか、システムに取って代わられないよう、今から考えておくべきなのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?